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勇者の誕生と瘴気爆発。

遂に、二つ目の連載を始めてしまいました。


こちら、まったり過ぎる進行になると思いますが、完走目指して頑張りますので、宜しくお願いします。

「とうとう、勇者が誕生した!」

喜色満面という顔でそう叫んだのは、この世界の魔王である。

「魔王様、その様にだらしないお顔をされるものではありません」

「でもでも、僕は千年も待ったんだ」

「一人称。後、言葉遣い」

「…あ、…ええと、わ、我は千年、この時を待ち続けたのだ……て、いうか良いじゃないか参謀長。君と二人きりの時くらい」

「宜しいのですか?いざ勇者が目の前に立った時、うっかり平時の言葉遣いをして、魔王のイメージが違うと幻滅されても」

「う、そ、それは、嫌だ。絶対」

「では、今からキチンとなさって下さい」

「ゴホン。う、うむ。そ、そうだな」

その時、水晶玉に聖剣を掲げた可憐な美少女が映り、思わず視線を奪われ、見惚れてしまう。

「はぁ。可愛い娘だなぁ。意思の強そうな瞳も凄く良いね」

「魔王様」

「もう、良いじゃん。彼女を褒める時だけは、僕は彼女の敵では無いんだから」

目に飛び込んできた勇者の精錬かつ可憐な姿に、ついつい緩みがちな自身の態度を諌められ、思わず逆ギレした時、通信用魔道具から呆れた様な声が届いた。


「でも、そんなに鼻の下が伸びきった顔を勇者ちゃんに見せちゃだめよ。魔王様」

「あ、聖女様。…僕、そんなにダラシない顔してたかな?」

「魔王に有るまじき顔だったわよ」

「むう」

「ハイハイ。そんな可愛いらしい顔もしないの。と、ーーそれはこっちに置いておいて、今日は緊急連絡よ」

「どうしたの?」

「南の果ての村近くで、瘴気爆発があったの。幸い村から少し離れているから、まだ人的被害は無いけれど、高濃度の瘴気に村が覆われて大きな被害を齎すのも時間の問題よ。直ぐに対処してもらえないかしら」

「南の果ての村?地上の魔王領から一番遠い村じゃないか。どうして?」

魔王は小さく詠唱をしてハザードマップを拡げると、南の果ての村に焦点を合わせる。地図上に現れた濃い紫色の部分を二本の指で拡大すると、村と瘴気爆発の位置が正確に見て取れた。

魔力の薄いエメラルド色の光が、辺りをぼんやりと照らしている。

「確かに、規模は小さいですが、かなりの濃度の瘴気が発生していますね」

「こんな所でまで発生するなんて想定外だ。瘴気の拡がりが早い気がするんだけど、勇者の誕生と関連があるのかな?」

「魔王様。それよりも、今はこれにどう対処するかです」

「ごめん。そうだったね。この濃さでも、恐らく範囲が狭過ぎて下級魔族だと活動範囲が限られてしまうから、中級以上の者達を現場に急行させよう。指揮官は君に任すよ参謀長」

「承知致しました」

「先ずは、出来るだけ迅速に村人達を村から追い出して。その後の統治は僕が指揮しよう」

「お任せ下さい。ご期待に沿えて見せます」

「ん。宜しく頼む……出来るだけ、殺さないでね」

「善処致します」


「参謀様が指揮して頂けるなら、こちらも高みの見物をしていられますわね」

直ぐにこの場を辞し、現地に向かった参謀長を見送りながら、聖女はのんびりとそんな事を言った。

今世の聖女とこうやって話す様になって、もう十年になる。当時はまだ幼さの残る可憐な少女だったが、すっかり妖艶さも漂う美女に成長していた。

「そうもいかないよ。最近は瘴気爆発の規模とその場所が増えてるから、人々の不安が大きく膨らんできてる。今回も起きる筈のない所で瘴気爆発が起きてるから、より人々の不安が煽られるだろうね」

「それもそうですわね。では、私も神殿にて聖女の仕事を全うして参ります」

「そうしてくれると助かる。余計な混乱は国自体を揺るがしかねないから」

「魔王様が地上世界の一国をご案じになるなんて、何度聞いても違和感しか感じませんわね」

「いい加減慣れておくれよ。僕の気質は産まれながらなんだ」

「ふふふ。建前とはいえ、世界征服などを謳っておられる魔王様とは思えないお言葉ですわね」

「しょうがないよ。そうでもしないと勝手に争いを始めて、瘴気爆発への対応が遅れちゃうんだもの」

「ふふふ。では、いって参ります」

「あ、南の果ての村のある王国への警告もお願いね。それから…」

「魔王様」

「何?」

「私も、もう、貴方様に泣きすがった小娘ではありませんの。心得ておりますわ」

「そ、そうか…では、宜しく頼む」

「承知致しました」


通信用魔道具の反応が消え、魔王は一人残された魔王城の中枢で水晶に映る少女の見つめながら、愛おしそうに、大切なものに触れる様に、そっとそれを撫でた。

「早く、僕を滅し(倒し)に来ておくれ。君はその為に生まれて来たんだんから」




千年待った。


滅びの使者。

それは同時に世界の均衡を齎す。


聖剣と共にあって、唯一、真の意味で魔王を滅ぼせる者。


それが、

『勇者』であった。


彼の人が無ければ、此の世界は滅びてしまう。


此の世界は『無』となる。

『無』は余りにも恐ろしい。


かつて、此の地は滅びの鐘を聴いた。


彼はそれを間近で見ていた。

何も出来ず、ただ怯え震えながら。


それを止めたのも先代『勇者』の一振りだった。



その時から、

『勇者』

は彼の唯一の希望、唯一の憧れとなった。

魔王さま、一人称を『僕』でお送り致します。

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