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最後の夢の彼方へ ~for the light of tomorrow~  作者: edwin
第一章 新世界へ
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間話一   『帝都テラシア』

 ダリアン領から約四百キロ西。


 帝都テラシア。


 アルナリア帝国の一番古くて、一番巨大で、一番崇高な都。


 その大都市にすらも影を落としている世界最大の城であるテラシア城の最上階。


 この部屋には窓が一つもなくて、蝋燭も一つもない。


 それでも、空よりも明るくて眩しい青色の光が部屋中に溢れている。


「大将軍ラムゼル、只今参りました」


 床に跪いて、紅色の鎧に身を纏っているその男はアルナリア帝国の全軍の最高上位、大将軍ラムゼル・コロサリア・テイレエカである。


「大臣アリアナ、只今参りました」


 左の紅色の男と同様に跪いて、金色のドレスを優雅に羽織っているその女はアルナリア帝国の帝国議会の最高上位、大臣アリアナ・セラシア・トルセリアである。


「立つがいい」


 そして二人のエルフの前に立っているその金髪ロングの端麗な女性は女神アテラに選ばれたと言われているアルナリア帝国の四十八代目の皇帝陛下である。


「「はい!」」


「アリアナ、報告を」


「畏まりました。北の領の飢饉は発生から七年続き、餓死者数は万単位に達しています。特にトーライン領は犯罪発生率も逃亡発生率も激しく向上しており、最悪の状態に近づいています。妾は至急に他領からの食料の支援を大幅に増やし、治安維持のための軍隊も派遣することを提案いたします」


「待って、アリアナ。自分達にその余裕はありません」


 大将軍ラムゼルの表情から焦りを感じた。


「我々帝国軍の三割はすでに北の領に駐屯してるであります。これ以上増やすと他の地域も不安定になるのではないでしょうか? ただでさえ西の戦争は芳しくないのに、さらに北に軍人を派遣することは軽率であります」


「国民を守れないならなんのための帝国軍かしら? この瞬間でも、トーライン領にもタラ領にも飢えている子供達が泣いていますわ! 妾が食料を送っても、一割以上は盗賊どもに強奪されていますわ! 可愛そうな子供達が食べるはずの食料を! あなたはそれでいいかしら、大将軍ラムゼル?」


「いいわけないでしょう! だが、だからといって後先考えずに行動するのがいいとも思えないであります! 自分は国民だけでなく、崇高なるアルナリア帝国そのものを守るためにあります。北の領が苦しんでいるのはわかるけれど、他領を犠牲にしていいはずがありません!」


「バカ言わないでくださる? 崇高なるアルナリア帝国は最強の千年帝国ですわ。数個の軍隊を北に派遣しても何も起こりませんわ! それともオークどもに負けるつもりかしら軍人さんよ!」


「だから自分の報告を――」


「もういい」


 皇帝陛下のその言葉だけで、部屋が一瞬で静まった。


「盗賊どもを見逃せるわけにはいかない。軍隊を送れよ、ラムゼル」


「は!」


 絶対忠誠。


 それがアルナリア帝国。


「次。ラムゼル、報告を」


「了解であります! 西帝国の戦争は日々悪化してるであります! オークどもの襲撃はさらに激しさを増し、戦死者も大いに出ています。トウラ要塞からも、サンラ要塞からも、至急に兵士の補給を要求してるであります。これは崇高なるアルナリア帝国の一大事であるかと自分は思います!」


「あなた、正気かしら? 本当にオークどもに負けるつもりかしら?」


 大臣アリアナの声は驚愕と軽蔑に満ちている。


「本気であります。ここ数年のオークどもの動きは普通ではありません。まるで同盟を組んでて、戦略を立てて、兵站を狙っているぐらい適切で効果的な襲撃を繰り返しているであります。我々が直ちに対応しないと、手遅れになる可能性があります」


「ちょっと――オークですわオーク! 下等生物ですわ! そんなこと出来るはずがありません! 我々エルフには魔法も知能もあるのではないかしら? 負けるはずがないですわ!」


「自分もそう思います。ただの偶然である可能性も高いであります。だが万が一のために、億が一のために、西帝国に軍隊を派遣すべきかと思います」


「そこまで。我が崇高なるアルナリア帝国は千年帝国であり、サンラ要塞は世界最大の要塞である。オークどもに負けたことは過去にもなくて、将来にもないだろう。これ以上兵士を送る必要はない」


「は!」


 皇帝陛下の言葉に、二人のエルフはもう一度頭を下げた。


「以上か?」


「自分からもう一つ、報告があります。ダリアン領の人間(ヒューマン)どもが反逆し、フローラリア城にも攻撃を仕掛けた、とのことであります。詳しいことはまだ調査中であります」


「ダリアン領? まったく、我が娘エルカルサは何やってるの……詳細を調べ」


「は! 以上であります!」


「では、退室するがいい」


 大将軍と大臣が動こうとした瞬間。


「まっ……て……」


 その声は大将軍ラムゼルのものでも大臣アリアナのものでも、皇帝陛下のものでもなかった。


 皇帝陛下の後ろにある巨大な石から青色の光の粒が精霊のように舞っている。


 そしてその不思議な魔法石に、一人の裸の少女は縛りついた。


 手首にも、足首にも、そして頸部にも、銀色の鎖がついていて、完全に動けなかった。


 少女の裸は月よりも真っ白で、少女の髪は太陽よりキラキラな金色で、少女の目は空よりも、後ろの魔法石よりも真っ青。


 一瞬で、大将軍ラムゼルも大臣アリアナも、そして皇帝陛下も跪いた。


「そのだりあん領の、にんげんたちの大将を、あてらのもとに、つれてきて、ください」


 その少女の名はアテラ。


 大陸と大洋を彫って、人間とエルフとオークを産んで、アルナリア帝国に恩恵を与えるはずの、青空の神様。


 女神アテラ。

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