第六話 『新しい未来』
アルナリア帝国 ダリアン領 第14区
作戦当日 一○○○
「今日、私達は世界を変える」
フィンラの熱い言葉には力があった。
「今日から、我々はもう崇高なるアルナリア帝国の国民ではないわ! 今日から、我々は自分のために生き、自分のために死ぬのだ!」
サリアの手は暖かくて、そして優しかった。
「我々は仲間だ! 我々は家族だ! いつの日か、我々の子供達やその子供達が自由の歌を歌える世界のために、恐怖も差別も鎖も火刑もない世界のために、今日、我々が戦う!」
「「おおおおおおおおおおおお!!」」
これは、わたしだけの戦争ではない。
わたしがきっかけになっただけ。
わたしがいなくても、エルフ達は人間達を焼き殺し続けるだろう。
わたしがいなくても、いつか人間達が耐えられなくなってしまい、反逆したんだろう。
それでも、わたしには責任がある。
今、ここにいる人達はわたしの夢言葉を聞いていたんだから。
わたしの勝利の約束を信じていたんだから。
だから、勝てなければならない。
結衣と春乃のためだけじゃなくて、この世界の子供達のその子供達のためにも。
世界の平和、そして人類の未来のためにも。
※ ※ ※
アルナリア帝国 ダリアン領 第11区
作戦当日 一三○○
帝国軍の兵舎が爆発した。
生き残ったエルフ、ゼロ人。
アルナリア帝国 ダリアン領 第9区
作戦当日 一四三○
とある分隊が奇襲攻撃を受けた。
銃の効果は抜群。
アルナリア帝国 ダリアン領 第7区
作戦当日 一五○○
人間達が兵糧倉庫を制圧した。
使える武器は速やかに他の区に渡される。
アルナリア帝国 ダリアン領 第2区
作戦当日 一六○○
騒ぎに気づいた帝国軍が全隊出動を命ずる。
エルカルサ姫の近衛を除いて。
アルナリア帝国 ダリアン領 第1区 フローラリア城
作戦当日 一八○○
「みんな、準備はいいな」
「「はい!」」
様々な陽動のおかげで、わたし達が誰にも見つからずにお姫様の住処であるフローラリア城に辿り着いた。
ただの十三人。
わたしの隣には満面の笑みを浮かべてるタルノと、銃をしっかり持ってるサリア。
偉いぞ、サリア。
今では問題なく銃を使えこなせている。
やっぱり報われない努力なんて、なかった。
「よし! 標的は一つしかない、お姫様だ。わかってるな?」
「「了解!」」
「行くぞ!」
門が爆発し、木っ端微塵に吹き飛びされた。
「撃てー!」
反対側にいる兵士達に出来ることなんて、なかった。
「わたしに続け!」
弾丸をリロードしながら、城に入り込む。
お姫様の居場所はだいたい予想がついている。
大事なのは速さだ。敵が混乱してる間に、敵が対応出来る前に、決着をつけなければならない。
角を曲がる。
「あっ」
兵士二人。
引き金を引いた。
「By spirits of light,
be taken aflight!」
相手の杖からの衝撃波は圧倒的だった。
一瞬で身体が壁にぶつけ、床に倒れ、全身に痛みと痺れが走った。
でもわたしは一人じゃない。
次の瞬間、角を曲がったサリアが残りの敵の胸に弾丸を撃ち込んだ。
「アスカさん!? 大丈夫ですか?」
「痛ぇ……うん、なんとか」
「本当に? 立てますか?」
「ああ……それより、よくやった、サリア」
「えへへ~ 頑張ります!」
でも気をつけないと。
ファイヤボールとかなら、この程度の怪我では済まないだろう。
「よし! 行くぞ!」
このチャンスを見逃したら、その時点で戦争が終わるかもしれない。
人間達は焼き殺し、人類は奴隷のまま。
そして、結衣と春乃とはもう二度と会えないかもしれない。
「あそこだ! 走れ!」
一人の小さな少女が振り向いた。
手には煌びやかな杖。
目には怒りと軽蔑。
「Let God be――」
『ドーン!』
少女の肩に、わたしの弾丸が突き当たった。
「ああああぁぁぁぁぁ!!」
周りの近衛がわたしの後ろの仲間達に撃ち殺されながら、お姫様が甲高い悲鳴を上げながら、わたしが走った。
銃を落とし、恐怖を忘れ、全力で正義感に満ちた右拳をそのか弱いエルフのお腹に叩き込んだ。
「っ!!」
我々の勝利だ。
※ ※ ※
アルナリア帝国 ダリアン領 第1区 フローラリア城
作戦翌日 一○○○
フローラリア城の外側にはダリアン領に駐屯するほぼ全ての帝国軍の残り。
猿轡されてるエルカルサ姫の首に、わたしの右手にあるナイフはあたってる。
その目は恐怖より絶望に近い感情に満ちている。
「エルフの兵士よ、聞くがいい!」
「あなた達の大事な姫様は、わたしの手にある。一歩でも近づいたら、一文でも呪文を唱えたら、わたしが死ぬ前に、お姫様の命を必ず頂くことをここで宣言する!」
「だから降伏しろ。そしてこのわたしに忠誠を誓え。わたしはあなた達が知ってる人間ではなくて、わたしは地球の人間だ! わたしはこの領を、この帝国を、この世界を支配する者よ!」
「エルフの時代は終わりつつある。でも心配する必要はない! わたしの命令に従えば、わたしの戦略を守れば、あなた達の降伏を幸福に導くのよ! 戦争のない世界! 不平のない世界! それがわたしの夢であり、わたしの希望だ!」
「どうだっ!? わたしを殺して、お姫様も死なせるのか? それとも、新しい未来に一歩、近づくのか? ここで選べ、エルフどもよ!」
一瞬の静寂。
地面に剣と杖が落ちる音が広場に響いた。
ダリアン領の兵士達全員が、跪いた。