第五話 『努力』
二年前。
「あすちゃんあすちゃんあすちゃーん!!」
「結衣、久しぶりー」
「寂しかったよ! 会いたかったよ!」
「まぁ自業自得じゃない? まったく本当に火薬作るなんて何考えてたんだわたし達」
「だってだって、花火だよ! 全然だいじょーぶだったよ! それなのに謹慎処分って酷いよ!」
「いやいやよく考えたら退学になっても文句言えないだろうそれ!? 結衣達を止めなかったわたしのミスだ」
「あすちゃんのバカ!!」
「結衣も反省しろよ!!」
「ごめんなさいー」
「もうこういう危ないことはしないでおこうね。結衣が怪我したら大変だ」
「あすちゃんあたしのこと心配してくれてたの?」
「当たり前だろう! 結衣はわたしの大切な親友だから!」
「……そう、だね。わかった、約束するよ。もう危ないことはしないって」
急にしおらしくなった結衣はめっちゃ可愛かった、と今でも覚えている。
寂しいよ。
会いたいよ。
※ ※ ※
やることが山ほどある。
フィンラはダリアン領の人達を説得するために他の区を訪れている。
もとから裏で他の区の人達と交流を持ってるフィンラだからこそ出来る困難な役目だ。
タルノは戦争の準備を整えている。
食料と武器を密かに集めて、みんなを訓練させている。
わたしは鍛冶屋で銃を作っている。
機関銃より火槍に近いごく素朴な銃だけど、専門知識はそんなに持ってないからしかたない。
「本当に私にも使えるんですか?」
もちろん、サリアと一緒に。
「ああ。銃は魔法ほど強力ではないけど、そのかわり誰でも使える最強の武器だから」
「凄いですっ! 私、なんか弱くて、小さくて、あまりアスカさんの役に立てないと思ってたんだけど、頑張ります!」
「あとで教えるね~」
「ありがとうございますありがとうございます!」
相変わらずサリアは教え甲斐のあるヤツだね。
「やっぱり難しいですぅ……」
「大丈夫だ。落ち着いて、わたしに言われたとおりにすればいいよ」
サリアと二人で、畑のかかしを的に銃の練習をしている。
「重すぎます……やっぱり私には無理でしょうか」
「いやサリアなら絶対出来る。信じているよ」
わたしが作った銃の可能性を証明したかった。
サリアみたいなか弱い少女でも、使えるはずだ。
「できませんよ……アスカさんを信じたいけど、とてもとても信じたいけど、こんなに頑張ってもできませんよ。やっぱり私なんか、役に立てるわけ、ないじゃないですか」
「ちょっと――」
「だっていつもそうです! 農作業でも、裁縫でも、料理でも掃除でも、私はいつも下手くそで、いつもいつも遅くて、不器用で、弱くて、全然全然役に立ててないですよ!」
「私が努力、してないからですか? いや、違います! だって、私は知ってますよ。他の人はテキトーにやってることを。他の人にとってはとても簡単な作業であることを。それなのにいつもいつも、いくら私が頑張っても結果は出せていないのです」
「だから、理由は一つしかないじゃないですか!? 私は使えない人だからです! いくら努力しても、成果を出せないなら意味がないからです!」
「アスカさんは凄いです! 本当に、本当に凄い人なんです! これを作って、これを使って、崇高なるアルナリア帝国に挑もうとしてる、私の憧れで、私のヒーローなんです!」
「でも私はアスカさんにはなれないのです。なれるわけがないのです。私の努力が、アスカさんの才能には勝てないのです。私も、いっぱい頑張れば、いっぱいアスカさんの言うことを守って、いっぱいアスカさんの話を聞いて、いつかアスカさんみたいになれるかなぁって思った私が、バカでした!!」
「だから、もういい。諦めます。やっぱり私には、無理です」
「……」
「そうだね。サリアはバカだね」
「っ」
「わたしを信じてないサリアが、バカだね」
「ぇ」
「どうしてわたしがこんなふうに、教えてると思ってるの? それは、サリアには可能性があるからです! それは、サリアには才能があるからです!」
「努力が報われないことなんて、ないよ。あるわけがないよ。積極的に、前向きに頑張れば、うまくなるのよ! それが人間だよ! それが才能だよ!」
「わたしがサリアに付き添ってるのは、可愛いからだけじゃ、ないのよ。だって、わたし見たよ。誰よりも努力してるサリアの姿を。誰よりも一所懸命頑張ってるサリアの顔を」
「ああ確かに、努力しても他人のほうが上手ってのはいくらでもあることだ。確かに、一番になることは、ないかもしれない。でもそんなのは、どうでもいい! どうでもいいのよ!」
「才能より、能力より、わたしにとって重要なのはやる気だ! いくら出来ても、やりたくないなら意味がない! だからサリアを選んだのよ! だからサリアを信じたのよ!」
「自分を信じないなら、わたしを信じろ! サリアを信じてるわたしを、信じろ! そして頑張れよ! わたしは、何があっても諦めない、最高の努力家であるサリアが好きだから!!」
「ぁぁ」
サリアも、わたしも、泣いている。
「わかりました。もう一度、やってみます」
「そして、もし失敗したら、二度も、三度も、やってみます」
「私を信じてるアスカさんを、信じます」
「はい!!」
日が完全に落ちるまで、続いた。
そして、出来た。
※ ※ ※
準備が整いた。
革命の、戦争の始まりだ。