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最後の夢の彼方へ ~for the light of tomorrow~  作者: edwin
第六章 夢の彼方へ
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第四十八話 『死にたくないよ』

 最初に口を開けたのは、金髪ボブの女の子だった。


「アスカさんは、人類を、この世界のすべての人々を、殺すつもりですか?」


 真剣な目と冷静な声で、小さな手と小動物みたいな仕草で、わたしを静かに見ている。


「そうだ。人類だけじゃなくて、エルフ類も、オーク類も、全滅させるんだ。エルちゃんの命を守るには、女神アテラを倒さなければならない。そして、女神アテラに勝つには、その力の根源である人々を排除しなければならない」


「いや、そう簡単な話ではないな。もしかして、他の選択肢もあるかもしれない。もっと簡単な、優しい方法で、女神アテラを倒すか説得できるかもしれない。わたしが無知で、無能で、その第三の選択肢を知らないだけかもしれない」


「でも時間がないんだ。今すぐ行動しないと、間に合わないだろう。この方法はとても酷くて、残酷で、許されないことなのは十分わかっているけど、だからと言ってエルちゃんを見殺しにすることだけは、したくない。全世界より、わたしにとってエルちゃんの方が大事なの」


「どう思う、みんな? やっぱりわたしが間違っていると思うのか? やっぱりわたしはただの、狂っている殺人鬼とでも、思うのか? それとも、わたしのことを、わたしの心を、理解できるんだろう?」


 サリアがいつも抱えている鋼鉄の銃をゆっくりと持ち上げた。

 そして一瞬で、躊躇などないとでも言うかのように、床に落とした。


「私は、アスカさんが好きです。でもアスカさんだけじゃなくて、ユイさんも、ハルノさんも、そしてもちろんエルちゃんも、自分の家族のように、大好きです」


「昔の私には、何もなかった。いくら努力しても、いくら頑張っても、才能のある人に敵えるはずもなかった。私はただの弱くて、役立たずな女の子でした」


「でもある日、第14区のあの畑で、アスカさんと出会いました。今思えば、あれは奇跡的な、運命的な出会いだったかもしれないです! 私の人生を変えてくれた、私に生きる意味を与えてくれたんだから」


「私がもうフィンラやタルノや、第14区のみんなを裏切りましたよ。もう私には蟠りも、後悔もないです。だから何があっても、どんな犠牲を払っても、私はアスカさんについていきますよ。永遠に」


 崇拝する神様を見るような目で、サリアが愛しく可愛らしくわたしを見ている。


「ありがとう、サリア。愛してるよ」


 次に口を開けたのは、赤髪ショートの幼馴染だった。

 結衣の目は真剣そのものだけど、その唇は微かな微笑を浮かべている。


「この世界に来た時に、あたしがエルフ達に捕まえられて、拷問と言ってもいいくらい酷くて残酷な扱いを受けたんだ。今でも時々あの痛み、あの苦しみを悪夢に見るんだよ」


「そのようなことをする人達なんて、死んじゃえばいいと本気で思っているよ。でもこの世界にはそういう人達だけじゃなくて、優しくて愛に満ちている人もたくさんいるのもわかっている。サリアやエルちゃんだけじゃなくて、どこにでもいるのよ」


「でもさ、あたしには大切な人がいる。彼女の声も顔も体も目も誰よりも大好きで、一緒に楽しく過ごした日々が何よりも尊いんだよ。あすちゃんはあたしの幼馴染で、親友で、家族で、そして恋人だ」


「あたしはこの世界の人々をよく知らないし、こういうことを言う権利も資格もないかもしれないけど、それでもあたしはあすちゃんが好き。だからあすちゃんか世界かのどちらしか選べないなら、あすちゃんについていくよ。どこまでも」


 キラキラな星空よりも眩しくてそして熱い目で、結衣がわたしに微笑んでいる。


「ありがとう、結衣。愛してるよ」


 隣の茶色ポニーテールの親友も、一歩前に踏み出した。

 いつの間に結衣の左手を強く熱く握っている春乃が、わたしと目を合わせた。


「わたしも、飛鳥ちゃんが好きだ。飛鳥ちゃんがわたしを守ってくれて、十年前のわたしを苦しみから救ってくれた、わたしの英雄でありわたしの王子様だった。その気持ちが変わった瞬間なんて、一度もなかったよ~」


「でもね。わたし、長い間帝都テラシアに暮らしたんだよ。優しいエルフ達と同じ屋根の下で生きて、美味しいご飯を作ってもらって、一緒にもっと平等な、裕福な未来へ突き進んだんだよ~」


「だから普通なら、こういうことなんて考えられないし認めるはずがないよ。だって、虐殺だよ! 罪もない人々を無慈悲に殺すんだよ! そんなの、酷すぎるし心のある人間がすることじゃないだろう~!」


「でもわたし聞いたよ、飛鳥ちゃんの言葉を。わたし見たよ、飛鳥ちゃんの愛情を! 十年以上も一緒に過ごしたわたしだからこそわかるんだ、飛鳥ちゃんの気持ち。本当に、エルちゃんが好きだね~」


「ならば仕方がない! 他に選択肢がないなら、他にエルちゃんを救う方法がないなら、仕方がないよ! わたしはどんな犠牲を払っても諦めない、どんな状況でも大切な人を優先する飛鳥ちゃんが、大好きなんだから!」


 その瞬間、十年以上のかけがえのない記憶がわたしと、春乃の頭に浮かんでいるだろう。


「ありがとう、春乃。愛してるよ」


 最後に、金髪ツインテールの少女へ視線を向けた。

 エルちゃんの、エルカルサ・フローラリア・ダリアン・アルナリアの目が決意と感謝と愛情と悲しみに満ちている。


「私からも言わせてくれ。ありがとう、みんな。私のために、私()()のために、全世界を敵に回してくれて、ありがとう」


「これはとても身勝手で、無慈悲で、残酷なお願いなのは十分わかってるよ。私はアスカが好きと同じように、世界中の人々にも大切な、かけがえのない恋人や家族がいるのも、わかってるよ」


「だからその人々の未来を奪っていいはずがないぞ! 倫理的に考えても、論理的に考えても、私にもアスカにも、その権利がないだろう! 私達は悪党で、罪人で、世界の敵になるんだろう!」


「でも私、()()()()()()()! アスカと一緒に、()()()()()! アスカの暖かい手を強く熱く握って、アスカに優しく頭を撫でて貰って、笑いながら最高に尊い日々を過ごしたいよ! それだけ、それだけなんだよ!」


「どうして私が犠牲なんかにならなきゃいけないのよ! 私の命より、全世界の人々の命の方が重要と誰が決めつけたんだよ! 私にとってアスカと一緒に、みんなと一緒に過ごす未来が何よりも意味のある、最高で崇高で至高な未来なんだよ! 世界なんて、滅んじゃえばいい!」


 熱い涙が滝のようにエルちゃんの瞳から溢れ出しているけど、わたしが気にせずにエルちゃんを強く抱きしめた。


「大丈夫だよ、エルちゃん。わたしが守るんだから」


 緑色で煌いている杖を持ち上げたわたしが、広大な青空を仰いだ。


「これはわたしがエルちゃんのために作った最高の魔術、全人類の最凶の武器」


 エルちゃんも、春乃も結衣もサリアも、静かにわたしを見守っている。


「昭和20年にアメリカ合衆国が作った、世界の終末すらも招ける最終兵器」


 これを作るにはわたしの物理学の知識も、エルちゃんの魔法の才能も、ヴィリアが与えてくれた特殊の力も、完全に使い尽くした。


「核融合反応で放出される膨大なエネルギーを利用する惑星規模の爆弾」


 それでも、この程度では全人類の計算力を持っている女神アテラは倒せないと思う。

 だけどその絶大な力を持っていない無垢な人々には、希望も未来もない。


「エルちゃん、愛してるよ! 心の底から!」


 わたしが杖を青空に捧げた瞬間、緑色の光が我々を祝福するかのように、綺麗に周りを照らし出した。


Wit()h a() f()lutt()er() in() my() hea()rt() and() a() spa()rkl()e in my eye

 I d()rea()m o()f y()our() w()armt()h a()nd() you()r v()oic()e a()nd your love

 I si()ng o()f yo()ur b()eaut()y an()d I() long() fo()r yo()ur praise

 and I() wis()h for() the d()ay we() can() be to()gethe()r aga()in」


「Oh() I l()ove() y()ou I() l()ove() you() I() lov()e y()ou() so() much

 Mor()e t()han() t()he s()kie()s a()nd() the() s()un a()nd() the() h()ills() a()nd t()he rain

 Mo()re() t()ha()n () fi()re() a()nd() b()lo()od()sh()ed() a()nd() s()la()ug()ht()er and pain

 Bey()ond() r()easo()n b()eyo()nd() hop()e b()eyo()nd() rhy()me() and() thought」


You() a()re m()y l()igh()t m()y c()lea()r w()ate()r m()y b()rea()d a()nd() my wine

 You() a()re m()y d()iam()ond()s,() my() gol()d,() my() pal()ace() and slaves

 For() you() I br()eath()e ai()r, f()or y()ou m()y he()art() beat()s

 For() y()ou I() b()ring() d()eath() a()nd d()est()ruc()tio()n a()gain」


So t()ake() my h()and,() so() rais()e yo()ur h()ead

 So p()ress() yo()ur wa()rm l()ovin()g li()ps a()gain()st m()ine

 Aban()don() your() fa()te, y()our() past() an()d yo()ur ch()ains

 Tog()eth()er() we() bri()ng() the() d()awn() of() our reign」

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