表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の夢の彼方へ ~for the light of tomorrow~  作者: edwin
第六章 夢の彼方へ
51/56

第四十五話 『母なる神』

「それで、オーク達の状況はどうなってる?」


 残りの連軍の幹部と、一緒に帝都テラシアの戦場から逃げて来たガル達で作戦会議を行っている最中。


「正直良くないナ……俺らはアルナリア帝国の神様ではなく森の神様を崇拝してるから、あんた達の女神アテラは認められなイ」


 オークのゲンラ族のガルと、その仲間の青髪のヴィリアとピンク髪のヴァルナは何か決意にも似た、ものすごく険しい顔をしている。


「だから、これからもヴィリア達と一緒に戦って欲しいのです!」

「ヴァルナ達は誰にも支配されたくないです!」

「アルナリア帝国でも、よその神様でも」

「ゲンラ族は、静かに暮らしたいだけなのに!」

「あの、生意気な天界の子、女神イセーロを倒そう!」

「お願いします!」


 二人の綺麗な女の子が手を繋いだまま、一斉に恭しく頭を下げた。


「こちらも異論はないよ。女神アテラはわたしの可愛いエルちゃんの命を狙っているみたいだから、逆らいたい」


 エルちゃんが心底から嬉しそうに、少し赤くなった満面の笑顔を浮かべている。


「問題はどうやって勝てばいいんだろう。わたし考えたんだけど――」

「待ってください!」


 その甲高い声を上げたレイナ・サンザ・カントが、自分の耳が信じられないといった表情でわたしを見ている。


「何、言ってるんですか? 女神アテラに、逆らうだと? 私達の青空の神様と、戦うとでも言うんですか? どういう意味でしょうか、アスカ殿よ!」


 アルナリア帝国を捨てて連軍に入ったからは一度もわたしの命令に背いたことがないレイナちゃんの声が、困惑と混乱に満ちている。


「何ってそのままの意味だよ。我々連軍は、自由と幸福のために戦っているのよ。だから、神だろうが何だろうが、わたし達の未来を脅かす存在なら見逃せるわけないだろう」


 一瞬の静寂。


 レイナちゃんと一緒に、その場にいるすべての連軍の兵士達が一斉に立ち上げて、杖や銃に手を伸ばした。


「アスカ殿は異世界の者だからわかってないかもしれませんが、女神アテラは我々の母であり、我々の創造主です! 我々に光と温もりを与える、青空の神様です!」


「今私達は神の子供です。御母はどんなに素晴らしい愛を与えてくださったことでしょう。女神アテラの教えに背く行為は、例えアスカ殿でも、皇帝陛下でも、許せませんよ」


 エルちゃんもサリアも、レイナちゃんに対抗するかのように立ち上げたけど、わたしは動こうとしなかった。


「ほお……それはなぜでしょうか? あなた達、どうしてそれを信じられるのか? この国の皇帝陛下ですらも、嘘つきなのに、あなた達の言う異端者なのに、どうして?」


 その答えとして、まるで当たり前のことのように、レイナちゃんが眩い笑顔を浮かべながら、手を広げて青空を仰いだ。


「アスカ殿よ。あなたは日常の生活の中で、自分の心臓が動いていることを感謝したことがあるでしょうか。また、水や空気があり、食べ物が与えられていることを当然と思っていないでしょうか。綺麗な花が咲いているのも、必要な時に天から雨が降り、植物を成長させてくださるのを感謝したことがあるでしょうか」


「自分の体に目や鼻や耳があり、手や足があり、それらの器官が多様な働きをしていることを当然と思っていないでしょうか。いや、アスカ殿が今日生かされていること自体、当たり前のように思っていないでしょうか」


「この世界上の様々な自然界の営みや、美しい山や川を見て、また、広大な青空を仰いで感動することがありませんか。静かに沈んでいく美しい夕陽を見て感動することはありませんか。でも、あなたはその時、それらを創造された女神アテラに感謝したことがあるでしょうか」


「皇帝陛下も、崇高なるアルナリア帝国も、嘘をつくかもしれないけど、この世界の眩しい青空は嘘をつきません。母なる神の恩恵なしでは生きてゆけません。女神アテラに、心より感謝申し上げましょう」


 熱い太陽に照らされた広大な青空が、キラキラと輝いている。


 わたしがゆっくりと、レイナちゃんと直接視線を合わせた。


「バカかお前ら。神様なんてクソくらえだ。あまりわたしの時間を無駄にしないでくれ、レイナちゃんよ」


「わたしが今ここに生きているのは、わたしの心臓が動いてわたしの目が見ているのは、わたしが必至に戦って、悩んで、考えて、頑張って、愛して、そして強く生きたいと望んだからだ! それらすべてを神のおかげにするのは、わたしの努力に対して侮辱だ!」


「嗚呼実在する神なら、この世界も人々も作られたかもしれない。でもそんなの知るか! わたしを間接的に作った先祖様達にいちいち感謝してもキリがない! 重要なのは今この瞬間に幸せに生きようとしてるわたし達だ!」


「我々人類は自由であるべきだ! 我々は奴隷でも家畜でもなく心のある存在だと言うのなら、人間よりも高等な生物は認めない! エルフだろうが神だろうが、平等でなければならない! それがわたしが信じている唯一誇りのある未来だ!」


「お前らの神が本当にわたし達を愛してるなら、どうして辛くて苦しい生活を送っている子供達が毎晩毎晩泣いているんだろう! その無駄で無価値な愛に何の意味があるんだろう! わたしは遠すぎて届かない神様より、近くにいるわたしの大好きで大切な可愛い恋人達のほうを選ぶよ! 本当に、目の前にわたしのために全身全霊頑張っているわたしのかけがえのない家族達を!」


「そうだ。わたしにとって、エルちゃんは、結衣は春乃はサリアはわたしが崇拝する神様だ。わたしに愛と希望を与えてくれる、わたしを大切に想ってくれる、わたしの手を優しく握ってくれる恋人達が! お前らの神様なんて、死ねばいい!!」


 わたしの強くて熱い声が小さな町中にはっきりと響き渡った。


「貴様殺すっ!」


 レイナちゃんも、かつては忠実だった連軍の兵士達も、強烈な怒りに満ちている目で杖を捧げて銃を抱えた。


 でも、最初に口を開いたのは誰よりも早くて誰よりも強いわたしの金髪ツインテールの恋人だった。


「For() the() ligh()t of() to()morro()w, f()or t()he b()irth() of() our() drea()m.

 We br()ing h()ope,() we br()ing j()ustic()e, we() bri()ng fir()e and() dus()t.

 Befor()e daw()n com()es th()e shi()ning() brigh()t arm()ies o()f death.

 So b()e em()brac()ed i()n ou()r lo()ve, so() tas()te() the() h()eat() of() our() truth.」


 町中に熾烈な炎が溢れだして、わたしに逆らおうとした狂信者達を激しく包み込んだ。


 甲高い悲鳴の歌唱を聞きながら、わたしがエルちゃんの頭を元気よく撫でた。

 青空に上り始めた濃い煙が、その広場に立っているわたし達に暗い影を差した。


 あいつらはかつてわたし達の同志で、仲間で、信頼できる戦友だった。

 一緒に最強の千年帝国に挑んでそして勝った戦士だった。


 だから悲しくないわけでも、寂しくないわけでもなかった。

 わたしが連軍と一緒に過ごした時間は大切な思い出になるだろう。


 でもわたしにはかけがえのない恋人がいる。

 エルちゃんを守るためなら、神にも立ち向かう覚悟がある。


 大好きだったよ、みんな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ