第四十四話 『自分の命を』
「リリア姉様が……リリア姉様がぁぁ……」
帝都テラシアの戦場から大分離れた小さな町に、我々連軍の生き残りが逃げ込んだ。
「ごめんね、エルちゃん。やっとお姉さんと再会できたのに……」
わたしの可愛い金髪ツインテールの恋人の頭を撫でながら、休憩をとっている。
「ううん、アスカのせいじゃないぞ。お母様を殺したのは、女神アテラの封印を解いたのは私なんだから」
ずっと泣き続けたエルちゃんの目は赤く腫れている。
「だけどエルちゃんのせいでもないよ。封印のことを教えてくれなかった皇帝陛下が悪い。わたし達は何も間違っていなかった」
エルちゃんがちょっとだけ嬉しそうに頷いて、わたしの手を優しく握り返した。
「ね、ね、飛鳥ちゃん、そろそろ飛鳥ちゃんの可愛い恋人達を紹介してくれよ~」
隣で春乃が元気よく笑いながらわたしにそう話しかけた。
「そういえばまだだったね。春乃、こいつはエルカルサ・フローラリア・ダリアン・アルナリアだ。エルちゃんって呼んでいいよ」
「よろしくね、エルちゃん~」
「お前がハルノか……アスカから話は聞いてるぞ」
「ほお、どんな話をしたんでしょう~?」
「そうだね……凄く綺麗で、頭も良くて、素直で可愛い女の子って」
「えへへ~ ありがとう、飛鳥ちゃん!」
「でも朝はめっちゃ苦手で、自分では全然起きられなくて、いつも苦労かけてるって」
「ってなんてこと教えているのよ飛鳥ちゃんのバカ!!」
やはり春乃の怒ってる顔も凄く可愛いな。
「で、こいつはサリア。わたしの、えっと、初めて、をあげた人だよ」
「そうなの? ってえぇぇそうなの!?」
「よろしくお願いします、ハルノさん!」
「あ、うん、よろしく」
「アスカさんの幼馴染って羨ましいな、私も子供の頃のアスカさんを知りたかったです!」
「でしょう~! 幼女の飛鳥ちゃん凄く可愛かったんだよ! もちろん今でも可愛いんだけど!」
「そうですそうです! やはり目が、顔が!」
「それだけじゃなくて胸も、足も!」
「っておい本人の前になんて恥ずかしい話してんのよ二人ともやめろ!」
春乃の笑い声もあまりにも懐かしくて、わたしがとても幸せな気持ちに包まれた。
「そして、こいつは東峰結衣だ。仲良くしてね」
「知ってるわよ~!」
「よろしくねはるはる!」
「そういえば結衣ちゃんはその、大丈夫? 大変な目に合ったと聞いたんだけど?」
「うん、まあ、辛かったんだけど、今は平気だよ」
「よかった~。わたし、本当に結衣ちゃんのことが心配だったんだよ」
「はるはるこそ無事で良かった! 帝都テラシアみたいな楽な場所に飛ばされて良かったね」
「でも寂しかったんだ! わたし飛鳥ちゃんハーレム第一号なのにずっと会えなくて~」
「この世界では第四号だね! あたしのこと結衣先輩と呼ぶがいい!」
「結衣ちゃんのバカ! わたしは第一号なんだもん!」
本当にわたし達、無事に再会できたんだね。
今は三人じゃなくて五人で、日本じゃなくてアルナリア帝国で、親友じゃなくて恋人だけど、それでもわたし達はわたし達であることに変わりはない。
誰よりも何よりもお互いが大切で、大好きで、ずっと一緒に幸せに生きたいのだ。
桜ケ丘女子での他愛ない日々を思い出すと、あの時のわたし達は本当に子供っぽくて、無邪気で、可愛かったのを実感するんだけど。
正直今の会話を聞いて、連軍の総統になってもわたし達それほど変わってないと思う。
「それじゃこれから、どうしよう?」
だからわたしと一緒に未来を決めよう。
「逃げるだけじゃ、ダメだぞ。リリア姉様が殺されたのは、皇族だからだ。お母様の娘だからだ。私が一緒にいる限り、私が生きてる限り、みんなの命は危ないのよ」
悲しそうな、もう一度激しく泣き出しそうな顔を浮かべながら、エルちゃんがわたしを見上げた。
「ね、エルちゃん、バカなことを言うつもりじゃないよね。わたし達が生き残るために、自分が犠牲になる、とか」
一瞬の静寂。
「ううん、言わないよ。私は自分の命を、みんなと一緒に過ごす未来を、大事にする」
「正直、それも考えたんだよ。私はアスカがこんなに大好きだから、幸せになった欲しいんだから。私の命を捧げればアスカが安全になるなら、それでもいいんじゃないかなって」
「でも私わかってるよ。私はアスカのことが好きと同じように、アスカも私のことが好きなんだもん。アスカの幸せは私の幸せだと言うのなら、私の幸せはアスカの幸せでもある」
「だから私も、生き残りたい。私も、アスカと一緒に静かな町に引っ越して、アスカのために料理を頑張って美味しいって言ってくれるようなご飯を作って、アスカの暖かい肌と愛しい息を感じながら毎晩眠りに落ちたいのよ!」
「それ以外の未来は認めないぞ。私が一緒じゃないと、アスカも完全に幸せにはなれないと信じているから。アスカの私への気持ちを心の底から、本当の意味で、信じているから!」
「苦労をかけることになるのはわかってる。敵はアルナリア帝国よりも巨大で、強力で、危険かもしれない。だって、女神アテラなんだよ! 青空の神様なんだよ!」
「でも例え神が相手でも、私は諦めたくない! 私達の気持ち、私達の絆はどの神よりも強いはずなんだから! だって、私はこんなにアスカのことを愛してるぞ!」
突然立ち上げたエルちゃんが、強い決意に満ちている目でわたしと直接視線を合わせた。
なぜかわたしの心臓は痛いほどドキドキしてる。
「ありがとう、エルちゃん。それ、正解だよ。自己犠牲なんて、知らない。みんなが一緒じゃないと、エルちゃんも幸せじゃないと、意味ないもん」
「だから、一緒に戦おう。神の力なんて知らないけど、わたし達の力ならよく知っている。だからこの手をとって、その杖を青空に捧げて、そして神様を殺そうよ」