第四話 『人類の武器』
「本当に出来るの?」
疑わしい視線をわたしに向けているその茶色ロングの女性の名はフィンラ。
「もちろん本当に人類を崇高なるアルナリア帝国から解放できるなら私だってしたいわ。勘違いしないでよ」
第14区の人達から尊敬され、そして信頼されているリーダー的存在だ。
「でもエルフ達には魔法がある。いくら私達のほうが数が多くても、いくら剣や矢を作っても、炎の波に勝てるはずがないわよ」
この人を説得しないとわたしの、わたし達の戦争は始まらない。
「そうだ勝てるさ。わたしがいるから」
「あなた……アスカ、だっけ?……熱き絢爛たる雷火使いより強力な魔法を使えるのか?」
「いや、魔法は全然できないけど、それでも方法がある。『武器』がある」
「ほお……」
「火薬だ」
「……それは?」
「刺激によって魔法のように激しく燃える粉です。火薬を使えば、敵を爆発することも、銃っていう武器で撃ち殺すことも可能だ」
「魔法のようなものって、魔法じゃないの?」
「そうだ。火薬は木炭と硫黄と硝石の混合物。誰にでも使える科学の武器」
「なるほど……じゃあ、どうしてわたし達も、エルフ達もそれを知らないけど、あなたが、アスカが知ってる?」
「わたしの世界に、地球に魔法はないけど、技術レベルはこの世界より千年、もしくは二千年より高いのよ。こんな基本的な化学知識、わたしみたいな高校生が知ってる簡単なレシピでも、千年前はまったくの未知の領域。あなた達が知らなくても不思議じゃない」
「……わかったわ。では、その『火薬』を作ってくれ。そして、わたしにその力を見せてくれ。話はそれからだ」
※ ※ ※
サリアと一緒に小さな旅に出た。
サリアって本当にかわいい子だね。わたしの指示を素直に従って、わたしの話を真剣に聞いて、わたしの背中を優しく洗って、真面目な小さな頑張り屋さん。
木炭は簡単に木材から作れる。
硝石は時間かかるけど牛糞から生成することができる。
硫黄は第12区の鉱山に忍び込んで採った黄鉄鉱から作れる。
実は、中学の頃に黒色火薬を作ったことがある。いつものように結衣が突然に提案して、春乃が楽しく乗って、わたしが止められなくて、三人ともめっちゃ怒られた。
楽しかったな。
でも今回のは遊びじゃなくて戦争で、花火じゃなくて爆弾で、必要な量も質も遥かに高い。
それでも、サリアは結衣より静かで、春乃より素直で、いつもわたしの懐かしい話に興味津々で、一緒に頑張れるのは嬉しかった。
いつか、サリアを結衣と春乃に紹介できたらいいな。
※ ※ ※
「凄い……凄いわ」
真夜中。
「これなら、これなら本当に勝てるかもしれないよ」
住宅地からだいぶ離れている無人の林。
「いやボクも驚いているよ。本当に魔法は使ってない?」
フィンラも、タルノも、そして一緒にあれを作ったサリアすらも、目の前の光景に唖然としている。
「ボクは賛成だ。この威力ならエルフの魔法使い達に全然負けてない。アスカを信じるよ」
タルノが賛同の声をあげた。
「……これで、エルフ達の軍隊を爆発するの?」
「そう。あと、銃を作れば、遠くから鉄の弾を打って相手を殺すこともできる」
フィンラはまだ悩んでいるけど、その声に微かな希望が混じってる。
「……魔法は確かに強力だけど、一つの弱点があるわ。魔法を使うには、呪文を唱えなければならない。魔法が強力であればあるほど、その分呪文が長くなる」
「ああ」
「それでも剣より、矢より早いよ。今まででも、数人のエルフは殺せたかもしれないけど、本格的に、対等に帝国軍と戦う方法はなかった」
「……」
「わかったわ。協力しよう。アスカを、アスカの『火薬』と『銃』を信じて、崇高なるアルナリア帝国に反逆しよう。戦争を、始めましょう」
「やった! やったね、アスカさん!」
サリアは満面の笑顔で喜んでいるけど、わたしは思ったほど嬉しくなかった。
戦争って、怖いよ。
でもやらなければならない。
結衣と春乃を取り戻すんだ。
「さっそくだけど私の作戦を言うわ。実は、この間ずっと考えてた」
もう待ちきれないかのように話し始めたフィンラ。
「もちろん別に最初からアスカを信じてたってわけではないけど、万が一のために備えての作戦だ」
『勘違いしないでよね』とは言わなかったけど、面白い人だね。
「エルカルサ姫は確かに強力な敵だけど、最大の弱点でもある。なぜなら、ダリアン領の兵士達は全員、お姫様に絶対忠誠を誓っている。他の領は違うと聞いてるんだけど、ここでのお姫様の命令は絶対。大将軍より、皇帝陛下より、女神アテラすらより、ダリアン領の兵士達はお姫様を優先するだろう。だから、お姫様を捕虜に取れば我々の勝ちだ」
「もちろん、そう簡単にはいかないだろう。熱き絢爛たる雷火使いの力は測り知らずだ。だから奇襲を仕掛ける。他の区の仲間達に陽動をさせて、フローラリア城に忍び込む。誰も呪文を唱える前に、お姫様を捕獲する」
「はい!」
「必ず勝つわよ。もう二度と、私の子供を焼き殺させないわ。人間はもう、奴隷なんかじゃない。お姫様はもう、私達の神様なんかじゃない」
「はい!!」