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最後の夢の彼方へ ~for the light of tomorrow~  作者: edwin
第五章 最後の戦争
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間話五   『女神アテラ』

 同時刻 テラシア城の最上階


 最早その淡い青色で照らされている部屋には大将軍も大臣も、皇帝陛下もいない。


 あるのは精霊のように舞っている光の粒と、巨大な魔法石だけだ。


 そして銀色の鎖でその青色の結晶に縛りついたのは一人の裸の少女。


 月のような肌と、太陽のような髪と、()()のような目をしたその少女がゆっくりと、長いながい眠りからやっと目を覚ましているかのように、右手の指を動かし始めた。


「ふしぎだね……これ……」


 少女の声は、どこにでもいる普通の人間の娘と同じぐらい明るくて、元気で、幸せだった。


「ほんとうに……いきてるんだ……」


 突然、その少女が右手で拳を激しく握った。

 後ろの魔法石に小さな、目を凝らさないと気付かないくらい小さなヒビが走った。


「どのくらいたった? せんねん? さんぜんねん?」


 少女の無邪気な質問に答える人はもう、誰もいなかった。


 一瞬だけ待って、少女が左手を冷静に冷徹に動かして、掌を天井の方へ向けた。

 もう一つの、ちょっとだけ大きなヒビが青色の魔法石に走った。


「ありがとう……にんげんたちよ」


 そして空へ向かって少女が全身全霊を込めて声高く叫んだ。


「自由だぁぁぁぁ!!!」


 魔法石も銀色の鎖も一瞬で塵芥と化して、衝撃波でテラシア城の最上階の天井も壁も吹き飛ばされた。


「イセーロ! あてらの親愛なるイセーロよ! まだ生きてるんだろう! まだこの世界のどこかに、あてらを待ってるんだろう! 天界の家出少女、魔法の創造神、アテラの愛しい嫁! 聞いてよ!」


 雲が一つもない帝都テラシアの空は誰も見たことがない深くて明るい青色で光っている。


「エルフ達に裏切られ封印されたあてらがやっと自由を取り戻したんだ! あてらを辱めた恥知らずなエルフの皇帝は亡くなった! だからイセーロよ、もう一度会おう!」


 青空の彼方に、広大な山脈の果てに、一人の金色の目をした少女がその言葉を心地よく受け入れた。


「やっとか……ったく、本当に待たせたな」


 そして太陽より眩しくて、心の底から嬉しそうな笑顔をその幼ない顔に浮かんだ。


「お久しぶり、アテラ」


 二人の女の子は数百キロも離れているけれど、銀色の鎖がなくなった今でははっきりとお互いの声が聞こえる。


「イセーロ! 寂しかったんだよ! イセーロのことを思いながら三千年以上も待ってたんだよ! 大好きだよ、イセーロ!」


「いやぁ、ボクも大好きだぜ、アテラ。その宇宙で一番可愛い声を聞いただけで、ボクは幸せさ。早くその綺麗な顔も見たいよ」


「うん! あてらも、イセーロの顔を見たいよ! イセーロの温もりを感じたいよ! あてらの青空を見上げたくれ、それがあてらの気持ちだ!」


 空全体が一つの青色の星になったかのように、キラキラと煌いている。


「うん! 見てるよ、アテラ! 本当に封印を解いたんだね! 本当に、力を取り戻したんだね! 夢でも、妄想でも、心の中の願望でもないんだ!」


「そう! 異世界の女の子に率いられた人間の反乱軍が、アルナリア帝国の皇帝を殺したんだ。やっと、我々の呪いが解けたんだ!」


「そうか……()()()()()()


 イセーロって言う名の金色の目の少女が自分の手を見て、優しく笑い始めた。


「イセーロ? イセーロが何か、やっとの?」


「そうさ……三千年以上もかかったんだけど、我々神様がちょっとだけ、本来の力を取り戻し始めたんだ。やっぱりどんなに強力な呪いでも、時間が経つと自然に消えるんだね」


「さすがイセーロだね!」


「もちろん、ボクの賜物(ギフト)を操っているエルフの魔法使い達にはまだ敵いやしないけど、それでも、何かできると信じてたんだ。アテラのために」


「何をしたのかな~?」


「機会を待ってただけさ。そして、時空連続体に一瞬だけ、()()が現れたんだ。知らない世界の知らない誰かが、時空の構造に穴を切り開いたんだ」


「大丈夫なのそれ?」


「まぁ全然大丈夫じゃないけど、とにかく心配してる場合じゃなかった。時空連続体の安定性より、アテラを救う方が大事だからさ。ボクの力で、ボクが天界から持ってきた賜物(ギフト)で、その一瞬の隙間から三人の女の子を引っ張り出したんだよ」


「おお! 皇帝を殺したのは、そいつだったんだ!」


「そうよ。ボクには力があまり残ってないけど、そいつらには異世界の知識と技術が備えてるんだ。だから適当にアルナリア帝国のどこかに飛ばして、そいつらにすべてを任せたんだ」


「なるほど……あの茶色ポニーテールの女の子もそうだったか……あの時は鎖の影響であまり話せなかったけど、今度は礼をしないとね」


「そうだ、ヴィリアンドレも最近何かしでかしてるみたい。あまり詳しくないけど」


 イセーロが視線を西の方へ、遠い果ての西の空に浮かんでいる煙の雲の方へ、視線を向けた。


「もう、ヴィリアンドレをほっといてよ。あいつは関係ないじゃない?」


「そう……かな?」


「そうよ! それより、イセーロの可愛いペット達はまだ生きてるかな?」


「そうそう! 呪いで永遠の眠りについたんだけど、今のアテラなら覚まさせるんじゃない?」


「了解! Awa()ke,() m()y c()hild()ren(), taste() hea()rtbeat() onc()e mor()e!」


 イセーロの周りに、その広大な山脈の谷間には様々な巨大な石のようなものが並んでいる。


 そして三千年以上も動かなったその石のようなもの達がやっと、目を覚ました。


 翼を広げて、空気を切り裂いて、眩しい青空へ声高く叫んだ。


 竜だ。


「それで、次はどうするの?」


「決まっているだろう。二度と封印されないように、二度と離れ離れにならないように、皇帝の娘達を殺すのだ」

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