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最後の夢の彼方へ ~for the light of tomorrow~  作者: edwin
第五章 最後の戦争
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第四十一話 『最高のキス』

「もう待ちきれないよ。どうかわたしの話を聞いてくれ」


 皇帝陛下が刺し殺された瞬間から約七十秒後。

 まだ激しく泣いているエルちゃんのことを結衣に任せたわたしが、覚悟を決めた。


 もうわたしには不安も緊張も残っていない。

 あるのは愛と希望と幸福の夢だけだ。


 だって、この告白は凄く今更じゃないか。

 一年前にも、十年前にもこの気持ちを打ち明けたんじゃないか。


 だって、長い時間かかったんだけどわたしやっとわかった。

 わたし達の絆、わたし達の友情、わたし達の思い出は永遠なんだから。


 かつてのわたしはまだ子供で、変化を恐れていた。

 知らない未来の知らない関係より、今の安心で快適な繋がりのほうを選んだ。


 あの時の気持ちを忘れたわけでも、捨てたわけでもないけど。

 今でもこの大切な時間を死んでも守りたいと思ってるけど。


 しかしわたしは心の底から信じることをできるようになった。

 相手だけではなく、世界だけでもなく、わたし自身を信じることができるんだ。


 だから最早心配する必要も理由も感じていない。

 何があっても、どんなに辛くても、わたしがわたしの道を貫くんだから。


 わたしは、わたし達はやっとこれで幸せを手に入れるんだ。

 過去よりも今よりもキラキラな未来へ歩き始めるんだ。


 今日この瞬間は始まりでも終わりでもなく、わたし達の大切な一ページに過ぎない。

 この十年の日々が幸せだったように、これからの十年も最高に楽しもう。


   ※ ※ ※


「一年も待たせてごめんね。わたしの返事を聞いてくれる?」


 生臭い血だらけのこの戦場でも、汗を微かにかいている春乃の可憐な顔は眩しい笑顔で輝いている。


「もちろん春乃の恋人になるよ。今のわたしにとって世界で、宇宙で一番欲しいことは春乃の恋人になることなんだよ。それ以上に嬉しいことなんて、あるわけがない」


「それでも、一年前に断ったのは、わたしが信じられないほど怖かったんだから。親友の春乃と一緒に過ごす時間があんなに楽しくて、あんなに尊くて、その大切な関係を失うのが何よりも嫌だった」


「でも本当は春乃のこと、友達だけじゃなくて一人の綺麗な女の子として大好きだったんだよ! 春乃のお淑やかな仕草も、春乃の可愛い笑い声も、春乃の愛情に満ちている瞳も、大好きだったんだよ!」


「わたし達は幼馴染で、姉妹よりも近くて親しくて、そんな風にお互いを意識するのは普通じゃないと思ったんだ。でもさ、普通って何よ! 普通なんてどうでもいいじゃない! わたし達の気持ちのほうが百倍も重要じゃないか!」


「結局、わたしに必要だったのは自信だけだ。春乃を素直に愛する自信。春乃を正直に信じる自信。春乃への気持ちを声高く全世界に宣言する自信さえあれば、もう怖くないんだ」


「だからアルナリア帝国の中心のこの都で、わたしの一番大切な人の前に、言ってやるぞ。わたしは心の底から、わたしの全部を捧げても足りないくらい、春乃を愛してる」


「わたしには夢がある。わたしのかけがえのない日々を取り戻したい。わたしの大好きな人にもう一度『大好き』って言いたい」


「大好きだよ、春乃。付き合ってくれ」


 最早春乃の愛しい息しか、何も聞こえていない。


 春乃の眩い青空が映っている目しか、何も見えていない。


 春乃の芳しい女子高生の体臭しか、何も嗅いでいない。


 春乃の懐かしくて大切な温もりしか、何も感じていない。


「わたしのほうから、もう一回告白するつもりだったのに~」


「この戦いが終わった瞬間、飛鳥ちゃんの手を優しく取って、飛鳥ちゃんの目を真剣に眺めて、飛鳥ちゃんへの気持ちを素直に遠慮せずに打ち明けたかったのに~」


「やっぱりどう考えても、どう頑張っても、飛鳥ちゃんには叶わないよ~。全力で戦略を練っても、最強の千年帝国と手を組んでも、鳴瀬春乃は伊吹飛鳥には勝てない~」


「それでも言わせてくれよ、飛鳥ちゃん。一年前にもう言ったことも、一年前に言えなかったことも、今日この瞬間に言いたいのよ。もう我慢できないししたくもない」


「確かに飛鳥ちゃんは強くて、かっこよくて、わたしの憧れでありわたしのヒーローだった。確かに人生で一番苦しんで泣いて絶望した時に、飛鳥ちゃんがわたしを救ってくれた」


「でもそれだけじゃないのよ! その程度でこの気持ちが生まれるわけがないから! わたしが好きな飛鳥ちゃんはそれより遥か以上に深くて、繊細で、可愛い女の子なんだから!」


「わたしは勘違いなんか、していなかったのよ。あの時、飛鳥ちゃんの震えている手も、かいている汗も、恐怖に満ちている目も、見たんだから! 最初から、わかってたんだ!」


「だからこそ、わたしは飛鳥ちゃんが好きだよ! 必死に強く振る舞っている飛鳥ちゃんが最高に可愛かったんだから! 夜で泣けるほど怖くてもわたしのために立ち向かう飛鳥ちゃんが本当に凄かったんだから!」


「勇気のある人なんて知らない。恐怖を感じない人なんて興味がない。わたしが好きなのはその恐怖を乗り越えてなお戦い続ける、誰よりも女の子っぽい飛鳥ちゃんだ!」


「わたしは飛鳥ちゃんが好き」


「強くてかっこいい飛鳥ちゃんが好き」


「弱くて可愛い飛鳥ちゃんが好き」


「世界を制圧してる飛鳥ちゃんが好き」


「わたしの胸で泣いてる飛鳥ちゃんが好き」


「わたしと、付き合ってください」


 周りは知らない兵士だらけでも。


 わたし達の軍服は血塗れでも。


 皇帝陛下の死体はすぐそこに落ちているでも。


 春乃もわたしも全然気にしない。


 その最高のキスしか頭になかったから。

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