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最後の夢の彼方へ ~for the light of tomorrow~  作者: edwin
第五章 最後の戦争
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第四十話  『お母様』

「それで次どうするの~?」


 周りは城壁の爆発に巻き込まれて石に押し潰された兵士達の死体だらけだった。


「逃げようか? はるはるを見つかったんだからいいんじゃない?」


 それでも、生き残っている連軍は強力な武器と強い意志を持って、わたしの命令を待っている。


「いやダメだ。ここまで来て逃げても、帝国軍が追ってくるだけだ。勝つしかないよ」


 今度こそ、この戦争を終わらせるんだ。


「エルちゃん! サリア! すぐに軍隊を動けるのか?」

「はい!」「はいです!」


 わたしの二人の可愛い恋人の眩しい笑顔を見て、自信が湧いてきた。


「よし。春乃、他に気を付けるべきことは?」

「そうだね……第二門にも爆弾が設置してあるからそっちは避けて、後は三つの櫓に魔法使い達の分隊が待ち伏せしてる~」

「サリア、大砲でその櫓をぶち壊してくれ。エルちゃん、もう一回帝都に攻めるぞ」

「了解!」「了解です!」


 そもそも大将軍ラムゼルとの闘いで帝国軍のほとんどが殺されたはずだ。

 だから、これでお互い様になっただけで、負ける要素がどこにもない。


「我々の完全勝利を信じて! 突撃!!」


 東門に入った途端、アルナリア帝国の兵士達が鋼鉄の銃を構えた。


「ここは私に任せて、アスカ! 熱き絢爛たる雷火使いの力を見せてやるぞ!」


 それに対して、一人の金髪ツインテールの少女が煌びやかな杖を空に捧げた。


「For() the() ligh()t of() to()morro()w, f()or t()he b()irth() of() our() drea()m.

 We br()ing h()ope,() we br()ing j()ustic()e, we() bri()ng fir()e and() dus()t.

 Befor()e daw()n com()es th()e shi()ning() brigh()t arm()ies o()f death.

 So b()e em()brac()ed i()n ou()r lo()ve, so() tas()te() the() h()eat() of() our() truth.」


 櫓に大砲の弾丸が衝突し崩れていく姿を背景に、エルフの兵士達が悲鳴を上げながら焼き尽くされている。

 熾烈な炎を肌で感じ、眩い光に手で目を覆って、わたしは凄く()()な気持ちに包まれた。


 確かに目の前のエルフ達には家族も友達もあるんだろうけど、確かに彼らの未来と彼らの子供の希望を奪われているんだろうけど、

 今のわたしにとってそんなのはどうでもいい。


 長かったんだけど、寂しかったんだけど、やっと春乃と再会できたんだ。

 やっと最高の、完璧な人生を一緒に送れるんだ。

 それの邪魔をすると言うのなら、潰してやる。


 その苛烈な炎より、わたしにとって春乃の右手のほうが百倍も暖かった。


Now th()e peop()le, th()ey are() frai()l and() weak

 like() bu()t st()ars i()n th()e sp()arkl()ing() skies.

 So let di()amonds ra()in upon t()he farms() and the h()ills

 and f()aithf()ully() follo()w m()y reign().」


 その瞬間、光が消えた。


 魔法の炎の熾烈な光だけではなく、帝都テラシアの生活の灯りだけでもなく、青空そのものが真っ黒となった。

 太陽も月も輝く星もない空は悪夢のように不自然で不気味だった。


「何これ……」


 世界で唯一の明りはエルちゃんの金色で煌いている杖と、その金髪ロングの端麗な女性の青色で薄暗く瞬いている杖だった。


「我は崇高なるアルナリア帝国の四十八代目の皇帝である! 反逆者どもよ、我の足元に跪くがいい!」


 静かとなった帝都テラシアの周辺に、かつては全世界の支配者だったエルフの声が神々しく轟いた。

 恐怖で震えている春乃の手を強く握って、わたしが前に出ようとした。


「待って、アスカ。ここは私に任せてくれ」


 一瞬の躊躇の後、わたしがその決心に満ちている目の少女にそっと頷いて、一歩下がった。


「お母様」


 エルちゃんの金色のツインテールが秋風にふわりとなびかせている。


「お母様、聞いてください。大将軍ラムゼルも、大臣アリアナも、最後の帝国軍の残兵も敗れています。崇高……アルナリア帝国は終わりです」


「どうして、エルカルサ! どうしてこの我に逆らうのだ!」


 皇帝陛下の声は怒りというより驚愕に近い気持ちに満ちている。


「逆に問いますけど、どうしてお母様は嘘をついたんでしょうか? どうして、人間は家畜のような下等生物と言ってくれたんでしょうか?」


「私、アスカに出会えてわかったんです。人間も、エルフと同じように心のある存在なんです。だから自由であるべきです。だから人類を虐げているお母様のアルナリア帝国は悪です」


「お母様、言ったじゃないですか。誇りのある生き方をしろって。自分の心で正しいと思える道を歩けって。だからわたしはお母様の教えに従っているだけじゃないですか!」


 暗闇の中、静寂が響いた。


「は……ははっ」


 四十八代目の皇帝陛下が実に愉快そうに、おかしそうに哄笑している。


「はっはははははははははぁ!!!」


「本当にバカな娘だね! 何も、何一つもわかっていないわ! いえ、やはり我のせいだ我が育ち方を間違ったから!」


人間(ヒューマン)でもエルフでもオークでも、すべてどうでもいい!! この世に息をするすべての女神アテラの子供達は皇族である我々の奴隷だ! エルカルサ、お前は我の娘ではないのか!」


「我々の血族は三千年以上も崇高なるアルナリア帝国の支配者であり続けた! 何万何億何兆のエルフや人間(ヒューマン)が我々のために、我々だけのために人生を捧げたのか!」


「この際だからエルカルサには真実を教えよう。この崇高なるアルナリア帝国の真の神様は女神アテラでも女神イセーロでもなく、この我だ! 我こそがこの世界の最高神であり、天皇である!」


 その言葉を言い放った瞬間、皇帝陛下の杖から夥しい量の青色の光が溢れだして、新しい太陽になったかのように世界を照らし出した。


 そして人軍でもエルフ軍でも帝国軍でも、結衣と春乃を除いてすべての周りの人々の顔は嫌悪と憎悪に満ち始めている。


「バカな……冒涜だ……異端だ……」


 エルちゃんが静かに、まるで本当にただの子供かのように、一歩前に踏み出した。


「いつか、遠い昔の夢を見た」


 さらに一歩前に、その輝いているツインテールの少女が歩き続いた。


「お母様は私の頭に手をそっと乗せて、優しくナデナデしてくれる。

 リリア姉様は純真な笑顔を浮かべながら、わたしをからかってくれる。

 ソルナ姉様は昨晩徹夜で作ってくれた愛情たっぷりのケーキをわたしに食べさせてくれる」


 エルちゃんの母である金髪ロングの女性と、目が合った。


「お母様。一つだけ、知りたいことがあります。どうか教えてください」


「どうして、私なんかに優しくしてくれたんですか? どうして、私を愛してくれたんですか? そして、どうしてそれをある日に完全にやめたんですか? それだけが知りたいです」


 突然、春乃がわたしの左手を優しく握り返して、わたしの手が微かに震えていることに気づいた。


「それは当然ではないか? だって、エルカルサは我の可愛い娘であろう? 我の大切な、かけがえのない家族であろう? 心から愛してるに決まってる」


「でもお母様はね、エルカルサに強くて、立派な大人に育ってほしいんだよ。いくらエルカルサの可愛い頭を撫でるのが大好きでも、甘えすぎるわけにはいかない。エルカルサが一人前になるためには、必要だったのよ」


「お母様も辛かったのよ! お母様も、エルカルサの愛しい笑顔を考えながら寂しい夜を過ごしたんだよ! でもエルカルサには、我の大切な娘には誇りのある道を歩いてほしかったんだから!」


 アルナリア帝国の四十八代目の皇帝陛下が涙で微かに潤んでいる目を自分の七番目の娘に向けた。


「そうだったのか……私のことが好きでしたから……私のことを第一に考えていましたから」


 エルちゃんがさらに一歩前に踏み出して、手と手が触れ合うほど近くで自分の母を見上げた。


「お母様は、本当は私のことを愛してるけど、私のために我慢してくれたんですね。お母様も、私と同じぐらい辛くて、寂しくて、心細かったんですね」


「そうだそうなんだよ! 大好きだよ、我の可愛い娘が!」


 エルちゃんのお母様が本当に心の底から幸せそうな笑顔を浮かべている。


「私があんなに頑張ったのは、無駄じゃなかったですね。お母様はちゃんと見てくれて、喜んでくれて、祝福してくれたんですね。私のために、その気持ちを隠し通しただけですね」


「うん、そうよ! 誰よりも、エルカルサが我の誇り、我の自慢、我のかけがえのない娘だった!」


 エルちゃんも、可愛らしい笑顔をそのお母様に向けた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そして炎のナイフを皇帝陛下の胸に差し込んだ。


「私はアスカが好きだ! 私を叱ってくれるアスカが、私を褒めてくれるアスカが、私を必要とされてくれるアスカが誰よりも何よりも大好きだ!」


「お母様なんかとは違う! アスカは私の未来だけじゃなくて私の現在を考えてくれた! 辛くて苦しい私の日々に光を差し出してくれた! 私と私の大切な仲間の幸せを望んでそして実現してくれた!」


「お母様の愛に温もりはない! 心がない! 私のことが本当に好きなら、本当に大切なら苦しんでいる私を見逃せるはずがない! それのどこが愛なのよ! それのどこが家族なのよ!」


 皇帝陛下の口から、一滴の血がゆっくりと零れ落ちた。

 空にも都にも日常の光が戻った。


「やめて…………我を殺すわけにはいかない…………我らがこの世界のために何をやったのか、何を()()()()のか、わからないくせに…………」


 エルちゃんがさらにそのナイフに力を入れて、自分のお母様の心臓まで刺した。


「黙れクズが。もうお母様の嘘なんか、聞きたくない」


 そして膝をついて、赤ちゃんのように号泣し始めた。


「アスカっ! アスカぁぁぁ!!」


 わたしがエルちゃんに駆け寄って、その小さな身体を優しく、けど力と愛情を込めながら、抱きしめた。


「よしよし、大丈夫だよエルちゃん。もう終わりだよ。誰よりも何よりもわたしの可愛いエルちゃんが大好きだよ」


「アスカアスカアスカアスカっ!!!」


「これからは、幸せに生きようね。これで戦いが、戦争が終わったんだ。だからわたしと、サリアと結衣と春乃と一緒に、()()として、未来に進もうね」


「うん! アスカ、愛してるぞ!」

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