第三十九話 『三人で』
「撃てーーー!!」
千年以上も神々しく立ち続けている帝都テラシアの東門に、大砲の弾丸が激しく炸裂した。
今日は、この世界の歴史に残る日にはなるだろう。
「全軍、突撃ーーーー!!」
杖や銃を手に、わたし達連軍がその門に入り込んだ。
そうだ、これが最後の戦いだ。
ここで勝てば、アルナリア帝国はわたしの支配下に落ちるんだ。
そしてオーク達と平和条約を結んで、春乃を探して、みんなと一緒に幸せに暮らすんだ。
わたし達の前に立ち向かう人は完全にいなくなる。
自由に、愛に溢れている日々を楽しんでいく。
この世界に来てからは辛いことがたくさんあったんだけど、大切な仲間にもたくさん会ったんだ。
だから幸せな、意味のある人生を切り拓けることを信じている。
わたし達には、これからの未来があるんだから――
『ドーーン!!』
一瞬で、世界が変わった。
全方向から太陽より眩しい光が激しく煌いた。
空から巨大な石が雹のように降って、無力な兵士達を押し潰した。
悲鳴と叫喚が全軍中に鳴り渡った。
次の瞬間、何が起こったのかをやっと理解した。
目の前の城壁が文字通り爆発したんだ。
突然額に焼けるような鋭い痛みを感じ始めた。
よかった、わたしはまだ生きているみたい。
周りは血まみれの兵士達の死体だらけだった。
その生臭い匂いがあまりにも酷くて強烈で、反吐が出そうになった。
立つことが急に辛くなったので、煤だらけの地面に膝をついた。
やらなきゃいけないことがあったはずなのに、もう思い出せない。
黒い影がわたしの視野にそっと現れた。
目を瞬いた瞬間、その影が茶色ポニーテールの女の子に変貌した。
銃を抱えているその女の子は、どこかで見覚えがある気がした。
その明るくて綺麗な顔、細くて白い腕、やる気に満ちている黒い瞳。
「飛鳥ちゃん?」
その元気で、いつも楽しそうで、わたしにとっては音楽よりも綺麗な声。
「……春乃?」
時間が止まった。
「飛鳥ちゃん~!!!」
銃も遠慮も捨てたわたしの可愛い幼馴染が、強く熱くわたしを抱きしめた。
その暖かい身体があまりにも懐かしくて、涙を必死にこらえた。
「飛鳥ちゃん、大丈夫~? 酷い怪我してるじゃない~?」
「春乃……会いたかったよ! 凄く、凄く会いたかったよ!」
「うん……わたしもずっと、ずっと飛鳥ちゃんに会いたかった~」
「良かった! 春乃が無事で、本当に良かった!」
「結衣ちゃんは? 結衣ちゃんに会った?」
「うん! 結衣も結構前に見つかったんだよ!」
「本当に~? みんな、無事なの~?」
「そうだよ! わたし達はやっと三人でいられるんだよ!」
春乃も、わたしも、場所も立場も戦争も完全に忘れて、まるで子供に戻ったかのように号泣している。
「反乱軍って、飛鳥ちゃんのことだったね……ごめんね~」
「いいの……こうしてまた会えたんだから、いいの」
「でも飛鳥ちゃんの怪我、わたしのせいだよ~。わたしがアルナリア帝国のために爆弾を作ったんだから~」
「そんなの気にしないで……春乃に会えたんだからそれでいい」
「うん~……大好きだよ、飛鳥ちゃん~」
「わたしも、わたしもだよ、春乃!」
これほど幸せになっても、いいのかな?
「どうしてこうなっちゃったんだろう~。まさかわたし達が敵対するなんて……」
「わたしは、ダリアン領っていう場所に飛ばされた、そこで春乃と結衣を探すために」
「わたしも、帝国に協力を得るために、戦争で手伝っただけ~」
「似た者同士だね」
「うん~」
「そうだ、春乃を探す途中でわたし、サリアっていうかわいい頑張り屋さんと、エルちゃんっていうかわいい生意気な子に出会ったんだよ! あとで紹介するね」
「さすが飛鳥ちゃんだねこの人気者が~」
「えへへ~」
春乃の笑顔って、こんなに眩しかったっけ?
「この世界ね、魔法があるの~。テラシア大学で見たんだけど~」
「うん、わたしもちょっとだけ使えるようになったんだ」
「えぇ本当に? 凄いな飛鳥ちゃんは~」
「春乃にも、教えるね」
「うん~。それで、地球に帰る方法は見つかったの~?」
「まだだよ。低水準魔術で素粒子の操作をやってみたんだけど、なかなか難しくて……」
「何言ってんのかわからないの~」
「あはは……」
春乃の笑い声って、こんなに愛しいんだっけ?
「そうだ、結衣に会いたい~! ね……どこなの?」
「うん、一緒に探そう。無事なら、多分あっちなんじゃない?」
「じゃ行こう~」
春乃と手を繋いで、生き残っている連軍の方へゆっくりと歩き始めた。
「こりゃ酷いね……わたしがこの可能性を考えなかったから」
「いやわたしのせいだよ~。飛鳥ちゃん達が反乱軍にいるとは思わなくて」
「だからいいの。この戦争は春乃の責任じゃないから」
周りが文字通り死屍累々で、まるで世界の終末に二人だけが生き残ったみたいな感覚だった。
「飛鳥ちゃんも、その怪我は医者に診てもらった方がいいと思う~」
「そうかもね……今はあまり痛くないけど」
「うん、大丈夫と思うけど……多分」
春乃の手を優しく、でもしっかりと愛情を込めながら、握った。
「ね、結衣ちゃんは飛鳥ちゃんと一緒だったんじゃないの?」
「そう……だったかな? よく、覚えていないな……」
「結衣ちゃんは無事だよね? ね?」
「…………」
もう一度、あの生臭い血の匂いを思い出した。
「…………」
「…………」
急に、額が熱くなった気がした。
「…………」
「…………」
わたしが覚悟を決めて、頭を上げた。
「あすちゃんーーーー!」
「っ!」
「あすちゃん、無事だってね! って!!」
その赤髪ショートの女の子と目が合った瞬間、涙が溢れだした。
「結衣ちゃん~!!」
「はるはる!!」
三人で、抱きしめ合った。
「結衣ちゃんも無事で良かったね~!」
「うん、はるはるも! って言うかどこから来たの? 帝都から?」
「そう、長い話になるんだけどね~。ごめんね爆弾を作って~」
「それはるはるだったのか? いやぁ死ぬかと思ったよ!」
「本当にごめんっ!」
「エルちゃんが咄嗟の魔法であたしとサリアを守ったんだから、大丈夫だよ」
「良かった~」
このままだと一生、涙が止まらないかもしれないな。
「本当に久しぶりだねこれ」
「うん~。でもやっと三人に戻ったんだね~」
「ずっと会いたかったよ、はるはる! 大好きだよ!」
「うん~! わたしも、結衣ちゃん大好きだ~!」
「って言うかあすちゃん、そろそろ泣くのやめてくれない?」
「ふえぇぇ、ぅぇぇぇ、結衣、春乃、大好き!!」
「あたしも、あすちゃんが好きだよ」
「もちろんわたしも、飛鳥ちゃん大好き~!」
「うわああああああああぁぁぁぁ……みんな……ああああああああぁぁぁぁぁっ」