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最後の夢の彼方へ ~for the light of tomorrow~  作者: edwin
第五章 最後の戦争
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第三十六話 『紅色の騎士』

 帝国軍との交戦はクリオファス領のとある平野で行うこととなった。


「敵は銃をもってるのか……()()()()()()


 隣のピンク髪の少女が偵察の報告書を持ったまま自信満々に頷いた。


「そうですね、アスカ殿の言った通りでした。どうやってその技術を手に入れたのかわかりませんけれど、私の部下の報告によるとテラシア大学の協力で銃を大量に生産してるのです」


 この前まではカント領の領主だったレイナ・サンザ・カントは、帝都テラシアでのエルフの協力者を諜報員として働いてもらっている。


「まぁ、おそらくわたし達から盗んだんだろう。それが戦争だ、強力な技術はいつも真っ先に狙われている。だから我々科学者が常に敵より早く、敵より効率的に新しい武器を開発しなければならない。『正に必要は発明の母だ』」


 結局この世界の戦争でも、地球での戦争でも、そんなに変わりはないと思う。


「エルちゃん、最終確認は完了したんだろう。問題は?」

「ないよ! やっぱりアスカの計画は完璧だぞ!」


 科学者が魔法を使っているのも変な話かもしれないけど。

 でも、結局魔法でも物理法則には従うし、原因と結果の法則にも従うから。

 ニュートンが思いついた物理法則とは()()違うけど、それでも論理的推論は破綻してるはずがない。


「ガル達の準備も大丈夫?」

「ああ、いつでもいけるゾ」


 連軍と合流したゲンラ族の小部隊も、我々と一緒に戦ってくれるんだ。

 この世界の子供達にとってオークは忌々しい悪の存在かもしれないけど、わたしにとって味方は多い方がいい。


 すべては春乃ともう一度会うためだ。

 あのかけがえのない可愛い笑い声をもう一度聞くためだ。


「人類万歳!! 連軍万歳!!」

「「おおおおおおぉぉぉ!!!!」」


 わたし達も敵軍も、銃と杖を抱えている巨大な軍勢だ。

 相手のほうは数が多いけど、わたしの人軍のほうは銃の使い方に慣れているはず。


「エルちゃん、今だ! 敵の銃を壊してやろう!」

「了解!」


 左手でエルちゃんの手を強く握って、右手で煌く杖を帝国軍のほうへ突き出した。


In t()he h()eart() of() our() worl()d li()es a() lo()nely() youn()g gi()rl

 Her() brea()th a()s so()ft a()s a() butt()erfl()y's() flut()ter

 Her s()kin g()rants() war()mth to() the() creat()ures() galore

 With() he()r lo()ve we() ca()ll fo()r an() en()d to() the() war」


 わたし達の杖から、白くて濃い霧が敵軍のほうへ激しく溢れ出した。

 これは徹夜でわたしが混合気体を計算してエルちゃんが呪術で作り上げた切り札の魔法。

対銃特殊霧状(ガンスレイヤー)』。


 簡単に言えば銃は火薬を着火し爆発することによって弾丸を打ち込む装置だ。

 だからこの魔法の霧で火薬を着火できないようにすれば、敵の銃は完全に使い物にならなくなる。


 当然、帝国軍の魔法使いはそう簡単にはさせないだろう。

 だからもう一つの切り札が必要になった。


「ガル、頑張ってくれ!」

「いくゾ! 女神ヴィリアンドレのためニ!」

「「女神ヴィリアンドレのために!!」」


 ガルと他のオーク達が腕を組んで、大きな身体で一つの円を作った。


Pain(痛い) pain(傷い) pain(悼い) pain(悽い)

 fear(怖い) fear(恐い) fear(懼い) fear(悸い)

 dark(暗い) dark(昏い) dark(冥い) dark(闇い)

 fall(落ちれ) fall(墜ちれ) fall(隕ちれ) fall(堕ちれ)


 まるで太陽が消えたかのように、黒いオーラのようなものがオーク達を包んだ。

 同時に、帝国軍から甲高い悲鳴が突然響き始めた。


 これがオーク独自の新しい魔法だ。

 巨大な爆炎(ファイアボルト)は作れないし、熾烈な雷光(ライトニング)も撃てない。

 その代わり、オーク達の魔法は直接に相手の心に響くんだ。


 もちろん、大将軍ラムゼル抜粋の最強の魔法使いを相手に長くは持たないだろう。

 でも、わたしとエルちゃんの『霧』が敵の武器に届く瞬間を作ればそれで十分。


「今だっ!! 全軍、突撃ぃぃぃ!!!!」

「「おおおおおおぉぉぉ!!!!」」


 その後はほとんど一方的な虐殺だった。

 銃がもう使えないエルフの兵士達は必至に剣や杖を抜いて、そして我々に無慈悲に撃ち殺されていく。


「行けぇぇぇ!! 自由のためにぃぃぃ!!」


 わたし達はアルナリア帝国を倒して、春乃を助けるんだ!

 輝く未来へ進め、我が兵どもよ!


「みんな、敵の魔法使い達を狙え! 一人も見逃すな!」

「「了解!!」」


 エルちゃんのエルフ達とガルのオーク達が協力し、帝国軍の強力な魔法使いを徹底的に潰していく。

 相手はオークの心霊術にうろたえ、エルフの爆炎魔法に対応できないまま飲み込まれている。

 連軍の素晴らしい連携に感動しながら、わたしが適切に指示を出す。


 そして、帝国軍の最高司令官まで辿り着いた。

 紅色の騎士、大将軍ラムゼル・コロサリア・テイレエカ。


 名前の通り紅色の鎧に身を包んでいるその男の表情は、怒りと絶望に満ちている。


「自分の負けであります、人間(ヒューマン)よ」


 その伝説のエルフを前に、わたしが静かに、意気揚々と笑っている。


「その通りだ。これは人類の勝ちであり、未来そのものの勝ちでもあるのよ。死ぬ前に、何か言い残すことある?」


 大将軍ラムゼルが視線を下に向けて、大きな手が振るいながら語った。


「やはり自分なんか、この程度の男だったね……オークに負けて、部下を死なせて、そしてただの人間(ヒューマン)の女の子に殺される運命だったね……」


「自分はかつて、最強になりたかったんであります。誰よりも早くて、誰よりも強くて、誰よりも権力がある最強の男に。それが自分の生きがいだったよ」


「だからいっぱい頑張ったんだ。タルピス山脈の果てまで行って、毎日剣と魔法の特訓をして、誰にでも一騎打ちで勝てるまで強くなって、すべては世界一になるためだった」


「でもある日、とある女性に会ったであります。自分と同じように、特別な血筋も家柄もないまま最高の地位を手に入れたトーライン領出身の美しい女性だった」


「でも彼女は自分とは全然違う! 彼女は民のために、飢えている子供達のためにここまで一所懸命来たのよ! 部下の言葉と心を優しく聞いて、悩んでいる人々の相談に一人残らず乗って、この世界がもっと煌くために人生を捧げたんだよ!」


「その時、気づいたんであります。自分がやってることに意味はないって。最強になっても、誰も幸せにはならないって。自分はまだ結局何も成し遂げていないって」


「残念ながらその女性には旦那様も娘もいたんだから、その気持ちは誰にも打ち明けなかったんだけど、自分が決心したんであります。これからは他人のことを考え、みんなの幸せを目指すんだって」


「だから自分の部下であるアルナリア帝国の全軍の兵士達を守ろうとした。だから西帝国の人々を救おうとした。自分は自分のためではなく、国民の一人ひとりのために戦っている……はずだった」


「でもやっぱり自分は無力だったであります。大将軍になってもしょせん皇帝陛下には逆らえず、補給も兵士も確保できず、挙句オークにも人間(ヒューマン)にも完全に敗北した最弱の男だった。自分のためには何でもできても、他人のためには何も、何一つもできなかった」


「殺してください。今日この場で死んだ我が部下達と違って、自分には妻も子供もいない。死んでも、誰も悲しまないだろう。やっぱり最強だったはずのこの男は結局、誰よりも無意味で、無価値な人だった」


「でもこれだけは約束してください。今よりもっと輝いている未来を目指しているなら、負けないでください。自分と同じような失敗を繰り返さないでください。みんなが笑える、みんなが幸せに暮らせる安全な世界を作ってください。


「そのために自分が死ぬんだと言うのなら、自分の人生に意味は少しだけあったかもしれない」


 周りから帝国軍の悲鳴が一切止めずに響きながら、大将軍ラムゼルがちょっとだけ期待で潤んでいる瞳でわたしを見上げた。


「いいだろう。最初から、わたしはわたしの大切な親友達のために、わたしの可愛い恋人達のために頑張っているんだよ。お前も、そのための犠牲になってくれるなら、喜んで受け入れる」


「でもね、エルフの大将軍よ。お前の人生は無駄なんかじゃなかった。わたしはこの世界に来たばかりの人だけど、それでもわかるんだ。どれだけの子供達がお前の伝説に憧れていたのかを。どれだけの人々がお前の勇気と強さに奮激され、頑張ってきたんだよ」


「お前より、この世界の人々の心に影響を与えた男はいないかもしれない。良くも悪くも、小さな男の子はお前の伝説を聞いて、『強くなりたい! 諦めない!』って思い続くんだろう。それがお前の言う生きる意味だったら、それでいいんじゃない?」


 大将軍ラムゼルの瞳から、大量の涙がゆっくりと零れていった。


「……ありがとう……本当に、本当に、ありがとうでありますっ」


 その言葉だけを残して、伝説の騎士の最後の息が絶えた。

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