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最後の夢の彼方へ ~for the light of tomorrow~  作者: edwin
第五章 最後の戦争
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第三十五話 『聖戦』

 十年前。


「おまえら! なにしってんの!?」


「うぅ……ぅぅっ……」


「はるの、だいじょうぶ?」


「ぅ……うん……ありがとう、あすかちゃん」


「あいつらひどいよ! ゆるせないんだから!」


「ありがとうぅぅぅ……ぅぅ……ぅぇぇぇぇ」


「よしよし、もうだいじょうぶだよ! わたしがまもるから!」


「ほんとうに? ほんとうにわたしをまもるの?」


「うんうん! まかせとけって!」


「でも、でもあいつらおとこだよ? つよいんだよ?」


「そんなのかんけいないもん! わたしがなんとかする!」


「すごい~! あすかちゃんすごいよ~!」


「まぁね~」


「まるでせいぎのみかたみたい~!」


「そうだ! わたしがじんるいを、せかいをまもるんだ!」


「でもまだこどもだよ? そんなのできないよ?」


「えっと、えっと、じゃあいまはわたしのせかいだけでいい! はるのたちだけでいい!」


「はい!! あすかちゃん!!!」


 ※ ※ ※


「連軍よ! 聞くがいい!」


 わたしの手には薄暗く煌いている赤色の杖。


「我々の相手はアルナリア帝国の巨大な軍勢だ! 厳しい戦いになるだろう!」


 目の前に整然と並べているのは人間とエルフの史上最大の連盟軍。


「そして敵軍のリーダーはあの伝説の大将軍ラムゼルだ! アルナリア帝国の最強で最凶の軍人!」


 帝国軍の大将軍の噂はこの世界の子供なら誰だって知ってるぐらい有名で、現に真っ青な顔を浮かべている兵士達は少なくない。


 かつては、タルピス山脈を自力で乗り越えた勇敢な冒険者。

 かつては、剣士の天才と言われたキャリアン・ジョールを一騎打ちで倒した希代の戦士。

 かつては、ガステーリナ領の反乱を一日で潰した無慈悲な軍師。


 今は、アルナリア帝国の全軍の最高責任者、紅色の騎士。

 大将軍ラムゼル・コロサリア・テイレエカ。


「でも恐れるな! あの伝説のエルフでも我々は必ず勝つのだ! なぜならわたしは総統飛鳥なのだ!」


「みんなはもう知っていると思うけど、わたしはこの世界ではなく地球っていう惑星から到来したんだよ! わたしには未来の知識も、異世界の技術もあるんだよ!」


「でもわたし一人では何も成し遂げない! あなたがいるから、あなたが我々のために戦ってくれてるからわたしがここまで来たんだよ! みんなの力を合わせば負けるはずがない!」


「だからわたしのために戦わなくてもいい! 自分自身のために戦うのだ! 自分の家族を、友達を、国を世界を守るためにその銃や杖をあげて帝国に挑むのだ!」


「だから連軍への裏切りは人類へ、未来への裏切りでもあるんだ! これから逃亡者は問答無用に処刑にする! 利敵行為は絶対に許されない!」


 わたしの兵士達を誇らしげに見渡した。

 次の刹那、大喝采と言えるほどの拍手が広場中に溢れかえった。


「「アスカ万歳!! 連軍万歳!!」」


 これだこれ!


 今の連軍にわたしに逆らえる奴は一人もいない。

 わたしの命令は最早絶対であり、至高だ。


「エルちゃん、出番だ!」

「わかったぞ!」


 演壇の上でエルちゃんが自分のツインテールのような金色で光っている杖を高く空に捧げた。


「これは人類の戦いだけではないぞ! これは我々エルフもやっとアルナリア帝国から自由を取り戻す戦いなのだ!」


「私の名はエルカルサ・フローラリア・ダリアン・アルナリア! そう、私こそが皇帝陛下の七番目の娘だ! でも、それでも私はお母様に、この腐っている帝国に立ち向かうのよ!」


「連軍のエルフの兵士達よ! もう貴族には従わなくてもいい! あなた達はもう平民の血が流れている下級の人々ではない! あなた達は私と同じように、人間達と同じように、心のある人なんだよ!」


「だから、私のためでも、人類のためでもなく、自分のために戦ってくれ! 未来の希望を差し出してくれる総統アスカを信じてくれ! 私と一緒に、人類と一緒に自由の世界を作るのだ!」


 エルちゃんの瞳は熱き絢爛たる雷火使いの炎魔法のように熾烈に燃えている。


「「エルカルサ姫万歳!! 連軍万歳!!」」


 エルフ達も、人間であるわたしの命令に忠実に従ってくれる。

 わたしを信じているエルちゃんとレイナ領主を信じている。


「サリアも、頑張れ!」

「はいです!」


 サリアは杖ではなく鋼鉄の銃を抱えて演壇に上がった。


「みなさん、聞いてください! 私は総統アスカの補佐で、人軍の新しいリーダーになったサリアです!」


「私達人類は千年以上もこのアルナリア帝国で奴隷として生きてきました! 畑で働いて、鉱山で頑張って、エルフの貴族達のために命を捧げてきました! 終わりにしましょう!」


「夢を見ましょう! この世界で生きるすべての生き物が同志として、仲間として、お互いを支え合えながら一緒に生きる未来の夢を! ダリアン領の第14区で、かつての奴隷の娘達とかつての貴族の娘達が、姉妹として手を繋げるようになるという夢を!」


「だから共に戦って、共に大将軍ラムゼルを倒して共に新しい世界を作り上げましょう! エルフだけじゃなくて、私達人類も女神アテラの子供ではないですか! これは自由のための聖戦ですよ!」


 女神アテラの名を言い放った瞬間に、サリアが輝く青空に銃を捧げた。


「「自由万歳!! 連軍万歳!!」」


 皇帝陛下はその青空の神様に選ばれたと言われているけれど、もうこの場にそれを信じている人はいないだろう。

 むしろわたしこそが女神アテラの使徒だと信じているかもしれない。


「春乃を救おうね、結衣」

「うん!」


 結衣の暖かい手を取って、強く熱く握った。


「あすちゃんならできるよ。いや、あすちゃんじゃないとできないよ。エルフも人間も纏めて、帝国の軍勢に真正面から立ち向かって、そして勝つんだ。信じているよ」


「はるはるも、あたし達の大切の親友だもん。何があっても、どんなことをしても、絶対に助かるんだ。もう一度、三人で一緒に笑い合おうね」


「大将軍とか、魔法とかはまだよく知らないけど、あすちゃんの戦略は間違っているはずがない。だから頑張ってくれ、そして勝ってくれ、あすちゃん。はるはるのために」


 そうだ。

 みんな、わたしを信じている。


 負けるわけにはいかない。

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