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最後の夢の彼方へ ~for the light of tomorrow~  作者: edwin
第四章 最悪の反逆者
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間話四   『会いたいよ』

 同時刻 帝都テラシア


「クソオークどもが!!」


 春乃の怒りに満ちている声がテラシア城の最上階に響き渡った。


「今時我々は反乱軍を潰しているはずなのに~! 飛鳥ちゃん達を探しているはずなのに~! どうしてわざわざ西帝国から来て襲撃を繰り返して邪魔すんのよ~!」


 その地球出身の茶色ポニーテールの女の子は現在、帝国軍の特殊軍事顧問を務めている。


「でももう大丈夫であります。昨日の戦いで我々がやっとオークどもを退けたであります。今から反乱軍に挑めますよ」


 紅色の鎧を纏っている右隣のエルフは帝国軍の最高責任者である大将軍ラムゼル・コロサリア・テイレエカであった。


「はい……そうですね~。もうすぐ飛鳥ちゃん達とまた会えますよね~。いっぱい待ったんだけど、凄く寂しかったんだけど、これでアルナリア帝国の協力を得て飛鳥ちゃん達を探してもらえますよね~」


 その場に本来の主である皇帝陛下はいない。


「ハルノ殿はそのアスカっていう人が本当に好きですわね……ハルノ殿の世界での幼馴染、だったかしら?」


 金色のドレスに身を包んでいる左隣のエルフは帝国議会の最高上位である大臣アリアナ・セラシア・トルセリアであった。


「そうなんですよ~。わたしね、小学生の頃はいじめられたことがあって……あれは本当に辛くて、寂しくて、死にたいってずっと思ったんだけど、飛鳥ちゃんに助けられた~」


「それで飛鳥ちゃんと結衣ちゃんと友達になったんだけど、一緒にいるのが凄く楽しかったよ~。結衣ちゃんはとにかくいつも元気で、いたずら好きで、よく笑う可愛い女の子です……そして飛鳥ちゃんは、素直じゃないところもあるんだけど本当は凄く弱くて繊細で女の子っぽい人なんです~。二人とも凄く好きです~」


「アリアナさん達にはとても優しくしてもらっているんですけど、帝都テラシアでの生活には不自由も不満もないんですけど、それでもやっぱり寂しいです。もう一度、わたしの大切な親友と会いたいです」


 それは、春乃の心からの言葉だった。


「なんて素晴らしい友情なんだろう……妾にも、ハルノ殿と同じ年の娘がいましたわ。キリエも友達が大事で、一緒にいるためにファフノに引っ越しました。妾が反対したんだけど、キリエってば全然聞いてくれなくて……」


「オークどもの侵攻で、最悪なことになったんだけど、それでもキリエが間違っているとは思えませんわ。あんなに大切で大好きで、一緒にいたいのは当然のことじゃないかしら? 誰が、オークどもに敗北することを予想できただろう……」


「だから、妾もハルノ殿を応援しますわ。もちろん、この反乱を抑えて、飢えている人々に食料を送ることのほうが重要だけど、その後はハルノ殿の友達を一緒に探しましょう」


「妾には娘がもういないけれど、それでも妾はこの崇高なるアルナリア帝国の大臣ですわ。だからすべての人々の夢が叶えますように、粉骨砕身いたします」


 大臣アリアナの微かに震えている手を取って、春乃がその気持ちに優しく答えた。


「ありがとうございます~。わたし、アリアナさんの娘には会ったことないけど、きっと素敵な女の子だったんでしょう。もし会えたらきっとすぐに友達になれたんでしょう」


「だって、こんなに素晴らしいお母さんがいるんだもん~! 帝国の国民のためにこんなに頑張っている立派なお母さんなんて、わたし羨ましいです~!」


「だから誇りを持ってくださいよ、アリアナさん~! きっと、キリエちゃんも大事なお母さんと分かれるのが凄く寂しかったんでしょう。でも、同時に友達も大切で、どちらしか選べなくて、だからファフノに行ったんでしょう。わたし、同じ年だから、同じ気持ちだから、わかりますよ~!」


 その瞬間、大臣アリアナの瞳から一粒の涙がゆっくりと零れた。


「その通りであります。アリアナと意見が合わないこともあったんだけど、それでもアリアナが国民を第一に考えていることは誰の目にも明白であります」


「自分は軍人であり、兵士達のことを優先的に守る義務があるんだけど、正直に言うとアリアナのことはいつも尊敬していました。尊敬と言うか……、好意を抱いていると言うか……、いや、これ以上は言えないであります」


 大将軍ラムゼルの純粋な言葉に対して、大臣アリアナが本格的に号泣し始めた。


「あり……ぅ……ありがとうぅぅ……」


 数分間、テラシア城の最上階に大臣アリアナの泣き声だけが鳴り響いた。


「……そういえばこの子は誰なのか、どうして縛られているのか、言ってなかったよね~」


 銀色の鎖で巨大な魔法石に縛りついた少女の目は純粋な青色だった。


 青空の神様、女神アテラ。


「ね、聞いている? わたしの言葉、わかる?」


 春乃の何気ない問いに対して、青色の少女が静かに、でもちょっとだけ嬉しそうに、頭を上げた。


「うん……あなた、だれ?」


「わたしは春乃と言います~。君は?」


「あてらは、あてらです……」


「そうかそうか~。どうしてアテラちゃんはこんなところにいるんですか~?」


「わからない……あてらはなにも、わるくないのに」


「はぁ~。でもここ、アルナリア帝国の玉座の間なんだろう? アテラちゃんは何、姫様?」


「ううん、あてらはあてらですよ……それいじょうでもいかでもない」


「そうなの~? それじゃぁ、皇帝陛下達について、どう思う? やっぱり嫌い?」


「好きです……あてらはエルフたちも、にんげんたちも、おーくたちも、みんな大好きなんです……」


「かわいいっ!! 何この子めっちゃかわいい~! お持ち帰りしたいぐらい!」


「えへへ」


「ああ~~」


「でも、あてらは、いせーろにあいたいです……すごくあいたいです」


「そうか~、わたしも、会いたい大事な友達がいるよ」


「うん……しってる」


「……しってる? とにかく、今はさすがに余裕がないけど、この戦争が終わったら、助けに来るよ~。こんなに可愛い女の子をずっと閉じ込めるなんて酷いんだから!」


「うん、ありがとうおねえさん……」


 東のほうへ、反乱軍がいる帝国の領のほうへ、春乃が向いた。


「そうだ。この戦争を終わらせるんだ」


 小さな拳を握りながら、春乃はそっと呟いた。


「飛鳥ちゃん……」

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