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最後の夢の彼方へ ~for the light of tomorrow~  作者: edwin
第四章 最悪の反逆者
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第三十四話 『家族』

「フィンラさんに大事な話があります。どうか聞いてください」


 人軍とエルフ軍が対立してる中で、サリアの声だけがはっきりと通った。

 何も言わずに、フィンラが静かに頷いた。


「ある時、こんなに幸せであることに気付いた」


「からっぽだったはずの私の周りは、実は笑い声と眩しい笑顔だらけでした」


「両親も兄弟もない役立たずな女の子を受け入れてくれる優しくて素敵な人達がこんなに近くにいるんですから! 才能も希望もない私でも、家族になってくれたんですから!」


「それでも、それでも私はバカですから、気づきもしませんでしたよ。自分のことばかり考えて、周りが全然見えなくて、こんなに大切にされていたのに、こんなに愛してくれたのに、すみませんでした!」


「私はフィンラさんも、マックスさんもジャンちゃんも大好きでした! 私に優しく接してくれたことが本当に本当に嬉しかった! でも、でも同時に嫉妬もしたと思います……私もあんなに楽しそうな、愛しそうな家族がほしかったんですから! ずっとほしかったんですから!」


「やっと言えます。フィンラさんは私の憧れでした。みんなに丁寧に教えてくれて、みんなから尊敬されて、自分の幸せを迷いなくみんなに分けてくれるフィンラさんみたいな人になりたかったんです」


「だから、だから言わせてください! 私の大好きなフィンラさんだからこそ、私の本当の家族だからこそ、この気持ちを聞いてほしいのです!」


 その言葉で、その決意に満ちている目でサリアがフィンラの方へ歩き始めた。

 突然のことで人軍の兵士が銃を構えようとしたけど、フィンラが一言でやめさせた。


「私も、サリアのことが好きだったわ。お母さんとしてジャンと一緒に遊んでくれたことが嬉しかったし、サリアが誰よりも頑張っているのもずっとわかっていた」


「でも、まさかそこまで想ってくれたとは知りませんでした。私はやはり自分のことしか見ていなかったかもしれない。私はやはりサリアのことも、第14区のみんなのことをちゃんと考えていなかったかもしれない」


「だって、私の家族があんなに素敵だったんだよ。マックスくんの笑顔さえあれば、ジャンの暖かささえ感じれば、それしかいらないと思ったんだよ」


「でもそうだね、サリアの言う通りだわ。もちろんマックスくんとジャンは私のかけがえのない宝物だったけど、サリアも、みんなも大切な家族なんだよ。みんなのことが本当に好きだよ」


「うん、聞くよ。勘違いしないでくれ、私もアスカ達と戦いたいとは思ってないし、出来ればずっと仲間でいたかったよ。だからサリアの言いたいことを聞かせてくれ」


 青空から光が差し込んで、キラキラと周りを照らした。

 まるでその場にいるみんなの心のように、温かさに満ちている。


 フィンラの目の前に、サリアがそっと立っている。


「それで私がやっと会ったのです。誰よりも何よりも私のことが好きな人に。フィンラさんにとってのマックスさんみたいな人に」


「私も新しい家族を作り上げることができたのです。アスカさんだけじゃなくて、エルちゃんも、ユイさんも私の大切な人になってくれたんですよ。みんなのことが死んでもいいくらい愛しています」


「でも好きな人ができたからこそ、新しい家族を手に入れたからこそ、第14区のみんながどれほど好きなのか、どれほど大切なのかをやっと実感できました。だってこの温もり、この暖かい気持ちはこんなに懐かしいんですから!」


「だから私も戦いたくなんてなかった! みんながずっと仲良く一緒に頑張ればそれでよかったのです! どうして逃げるんですか、どうして一緒にいてくれないんですか、フィンラさん?」


 サリアの熱い言葉に、サリアの輝いている目に、フィンラが直視できずに目を逸らした。


「仕方なかったのよ」


「ああ私は家族が大好きで、ずっと守りたいのよ。でもそれは誰だって同じなのよ。私にとってのマックスくん、私にとってのジャンはね、人間なら誰にでもあるんだから! それが人類だよ!」


「だから私のために、私の大切な家族のために、西帝国の名も知らない誰かを犠牲にしてもいいかしら? 私にはできないのよ」


「それで正しいのか、私にはわからないわ。だって、私が話せるようになったのも、リーダーになったのもマックスくんのおかげだった。彼が励ましてくれたから、彼が笑って愛してくれたから、私がちゃんと頑張れるようになった」


「だから彼がもういない今だと、ちゃんとやれているのか、ちゃんとリーダーの役目を果たしているのかはわからない。もしかしてアスカのほうが正しいかもしれない」


「でも覚えているよ、ジャンの悲鳴を。あんなに苦しそうに、あんなに悲しそうに、助けを求めている私の愛しい娘の泣き声を。辛かったよ、死にたいほどずっと辛かったのよ」


「だから許してくれ。どうしても、他の人を苦しむことだけはできないよ。ごめん、サリア」


 フィンラの瞳から、涙が静かに流れている。


「辛かったんですね」


 サリアが優しく、お母さんのように優しく、フィンラを抱きしめた。


「大切な人を失ったのに、私達のためにずっと、一所懸命働いたのね。アスカを信じてくれて、みんなを纏まってくれて、自分の役目を信じきれないまま突き進んだんですね」


「寂しかったんですね。ジャンちゃんがあんなに可愛くて、あんなに愛しかったのに、人生の最大の光を失ったまま生き続いたんですね」


「よく頑張ったね。偉いぞフィンラさん」


「でもね、フィンラさん。私にも、私達にも大好きな人を守りたい気持ちがありますよ。私達にも、誰よりも何よりも大切な人がいますよ」


「そのために、そのため()()に、アスカさんが頑張っている。私達が頑張っている」


 サリアの目から、その暖かい光が突然消えている。


「だからアスカさんを裏切ったフィンラさんを、許せませんよ」


 サリアの手にあるナイフから血が滴れて、ゆっくりと地に落ち始めた。


「ぁぁ…………」


「好きでしたよ、フィンラさん。でも私の家族はアスカさんだけでいいんです」


 フィンラの身体から息が、鼓動が、温もりが消えた。


「抵抗をやめて! 降伏しろ!」


 もしタルノが生きているなら、その場で反撃したかもしれない。


 でもここにいるリーダーを失った人間達には戦う意思も、勇気もなかった。


「死にたくなければ今すぐわたしに忠誠を誓うがいい! 連軍万歳!」


 そして人軍の最悪の反逆がやっと終わりを迎えた。

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