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最後の夢の彼方へ ~for the light of tomorrow~  作者: edwin
第四章 最悪の反逆者
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第三十一話 『シミュレーション仮説』

「大丈夫?」


 サリアの儚い微笑は信じられないくらい可愛いんだけど、同時になんか切なかった。


「はい……これでいいと思います」


 わたしとタルノにはただ数ヶ月程度の浅い関係でしかないけど、それでもそれなりに好きな人だった。

 元気で、一所懸命で、自分に自信のある尊敬できる人だった。


 でもサリアにとっては生まれてきた頃からいつもそばにいてくれた家族のような人だった。

 サリアを励ましてくれて、サリアと一緒に遊んでくれて、サリアを大切に想ってくれた貴重な存在だった。


「私、決めたんです。何があっても、アスカさんについていくって。だからアスカさんを裏切ったタルノさんはもう私の家族でもなんでもないですよ」


「人類を、世界を救えるのはアスカさんだけです。私は誰よりもアスカさんが好きで、アスカさんのためならなんだってします。愛しています」


 まるで自分自身を説得するために言ってるかのように、サリアがわたしの手をそっと取った。

 涙をけっして流さずに、潔く振る舞っている。


「うん、頑張るよ。信じてくれてありがとう。わたしはサリアの期待を裏切らないように、みんなの夢が叶えるように頑張るから」


「そのためにはどの武器でも使おう。地球の科学でも、この世界の魔法でも」


 その言葉で、みんなの視線が自然にエルちゃんに集まり始めた。


「そうだぞこの私に頼るがいいぞ! まぁ私は熱き絢爛たる雷火使いって呼ばれている超最強魔法使いだし当然といえば当然よね――痛っ!」

「調子に乗るな」


 一瞬でドヤ顔から涙目に変わった金髪ツインテール少女の姿はとても微笑ましかった。

 かつてはダリアン領の領主だった第7王女とは思えないくらいわたし達に馴染んでいる。


「でもそうだね、やっぱり魔法に関してはエルちゃんに頼りっきりなのは危ない。わたし達も、本格的に魔法の勉強をしたほうがいいかもしれない」

「わかった! じゃぁ私のことはエルカルサ先生と呼ぶがいい!」

「よし頼むエルちゃん先生」

「アスカのバカっ!」


 今までの敵には銃があったから勝ったようなもんだけど、今回の相手はわたしの作った銃を持って、わたしに訓練されている人軍だ。

 だから科学と魔法の併用が必要になった。


「それじゃぁ始めようか! まずは小さなlight(明り)からやってみよう」


   ※ ※ ※


 結論から言うと、わたし達人間でも魔法を使うことは可能だった。

 かと言って、さすがにまったくの初心者であるわたし達は薄い光を作ることがせいぜいで、全然役に立ちそうにない。

 それでもわたし達の小さな先生は満足そうに笑っている。


「初めてにしては上出来じゃん! いやぁまさか人間がこうも簡単に魔法を使えるとはね、昔は想像もできなかったぞ! といっても、もちろん子供の頃の私ほどではないけどね――痛っ! やめてよアスカ!」


「エルちゃんの自慢話は置いといてとして、わたしも驚いている。魔法は女神イセーロから()()()()の生物への賜物(ギフト)らしいけど、わたしも結衣も使えるよね……」


 さすがに地球では魔法が使えない。

 いくらそういう噂や都市伝説があってとしても、もし実在してるなら誰かが観察し証明してるだろう。

 それが科学的方法であり、世界の原理だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()


 だからこの魔法は生物としての素質ではなく、世界そのものの性質だと考えよう。

 まぁ最初からそれはわかってたはずだ。エネルギー保存の法則は絶対だから、あんなに大きい炎をエルちゃんの小さな身体で生み出せるわけがない。

 でもそれだとどこから? どうやって?


「あすちゃん見て見て! あたし魔法の光ビームを撃っているよ! 凄い、まるでゲームみたい!」

「……そうだったっ」

「あすちゃん?」


 もしも、この世界すべてはただのシミュレーションだとしたら?

 だからゲームみたいな魔法も、神様も、ファンタジー世界の種族も存在してるのだとしたら?

 SAOみたいなVRMMOとか、マトリックスみたいな仮想空間だとしたら?


 でも少なとも今の地球の技術レベルでこれほど高質なシミュレーションは不可能だ。

 ってことは、もしかして未来に飛ばされたのか?

 いや過去から来た人をシミュレーションに閉じ込めるわけないし、そもそもタイムトラベルは物理的に不可能なはずだし……


 ってことは地球も単なるシミュレーションの一種なのか?

 あの実験でもう一つの仮想空間に飛ばされただけで、基本的に何も変わってはいない?

 言語も生態系も同じなのは、本当の世界の人達がそういう風に()()したんだから?


 確かそれが哲学者ニック・ボストロムのシミュレーション仮説だったはず。

 知的種族が現実性のあるシミュレーションを作らないはずがないし、そのシミュレーションの中の人達もいつか自分でシミュレーションを作るから、確率的に我々は、ほぼ確実にそのようなシミュレーションの中で生きている。


 でも確かに高校生のわたしはその仮説を否定したんだ。

 なんでだっけ?


「ね、結衣」

「ん?」

「もしこの世界がゲームだとしたら、シミュレーションだとしたら、どうする?」

「いや、()()()()()()()()()()()()()()?」

「!」


 そうだった。


「シミュレーションだろうが、現実だろうが、我々にとってはどうでもいいじゃん。それでも生きるしかないから」


 そうだった!!


 それほど現実性のあるシミュレーションなら、現実と変わらないから。

 シミュレーションでも現実でも、何かの法則に従って動いているから。

 それを観察し、実験し、理解するのが科学者じゃない?


 まずは毎日魔法の練習をしよう。

 そしてフィンラを倒して、人軍を取り戻して、帝国軍と戦おう。

 わたし達の現実に、わたし達の力で、輝く未来を切り拓こう。

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