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最後の夢の彼方へ ~for the light of tomorrow~  作者: edwin
第四章 最悪の反逆者
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第二十八話 『今までありがとう』

「アスカさんアスカさん、起きてください! 早く!」


 なんだ……。

 頭が痛くて、周りが真っ黒で、外がうるさい。


「アスカさん! 本当に大変です! このままじゃ、私達はすべてを失いますよ!」


 ……敵襲かな?

 偵察によると帝国軍はまだクリオファス領の領境にすら来ていないけど。


「何が起こった?」


 それともあのオークが何かしでかしでのか? やっぱり罠だったのか?

 でもただの三人で何ができる?


 サリアの顔は不安と恐怖だけじゃなくて、深い悲しみにも満ちている。


「フィンラが……フィンラがっ!!」


 着替える暇も余裕もなく、わたしはサリアと一緒に走り出した。

 我々の人軍へ。


   ※ ※ ※


「やっぱり来たのか……できれば、アスカが起きる前に出たかったけど、したかないか」


 その光景を見た瞬間は間違いなく、今までの人生で一番絶望を感じた瞬間だった。


「謝らないよ。私が間違っているとは思えないから」


 テントは片付いて、荷物を背負って、我々の人軍は行進を始めている。


「それでも勘違いしないで、アスカに感謝しているのは本当だったよ。ありがとう」


 東へ。


「さよなら、アスカ。さよなら、アルナリア帝国。私達はもう、戦えない」


 人軍の行動を見守っているフィンラが優しく、ちょっとだけ切なそうに、そう言い放った。

 隣に立っているタルノも、申し訳なさそうに目を逸らした。


「なんで」


 寝間着のままのわたしには、今晩の強い夜風は酷く寒く感じた。


「なんでよ! わたし達は自由な世界を作るんじゃなかったのかよ? わたし達は()()()、人間もエルフも平等に暮らせる社会を作るんじゃなかったのかよ?」


 こんなの酷いよ! 酷すぎるのよ!


「そうだよ。私も人類が解放される日をずっと夢見てきたんだ。子供の頃から、私はずっとアルナリア帝国の理不尽さと残酷さを見せられて、こんな風に戦いたかったわ」


「でもね、アスカ。私が戦っているのは人類のためじゃない。人類という概念ではなく、一人ひとりの可愛い子供のために、頑張っているお父さんとお母さんのために、私はずっと戦っている」


「だからアスカのやり方には賛同できないわ。セレクタス領で盾になっている人達を殺した時から、疑問に思ったよ。アスカは何のために戦っているの? 本当に人類のためなら、無罪の人間達を殺せるはずがないじゃない?」


「でもクリオファス領での交渉の時にユイが言ってくれたのよ。あなた達は大切な人、つまりアスカの友達であるユイとハルノのために戦っているだろう? 私達の世界の人間達より、そっちのほうが大事だろう?」


「それでも、素直に従うつもりだったよ。だって、アスカは人類の希望で、アルナリア帝国の最大の敵で、アスカなら本当に勝てると信じていた」


「だけど、オークと組む、だと? 人々が現在進行形に殺され犯され滅ぼされているオークと一緒に戦う、だと? 笑わせるなっ!!」


「オークのもとで苦しんでいる人々を救うことはできないけど、それでもオークの役に立つことだけはしたくない。オークの仲間になるのなら、アスカはもはや私達のリーダーでも、人類の味方でもないわ!」


 星空が輝いている下で、フィンラの怒りの声が響き渡った。

 隣でサリアがとても悲しそうな、でもちょっとだけ怒気が混じっているような顔をしている。


「仕方ないじゃない!」


 わたしが今この瞬間に必至に反論しフィンラを説得しなければ、すべてが台無しになる。


「フィンラも言ったじゃないか? 帝都テラシアの軍勢は比較にならないぐらい強くて、危険であると。結局このままだとアルナリア帝国には勝てそうになかったよ!」


「だからいくら嫌いでも、いくら最低最悪な種族でも、仲間が必要だった! 本当にアルナリア帝国を倒したいなら、手段を選んでる場合じゃない! 理想だけでは何も成し遂げないから!」


「わたしも、最初からオーク達の虐殺を見逃せるつもりはなかった。ただまず目の前の敵に勝とうとしただけで、そのあとは西帝国の問題を考えるよ」


「どう見ても論理的な判断じゃない! これで高確率でこの戦争を終わらせるはずだった! わたしを裏切る必要も理由もないじゃない!」


 ちょっと冷静さを失った気がするけど、わたしの正直な気持ちを伝えたならちょうどいい。


「そうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない。アスカは用済みになったら私達を捨てるつもりだったかもしれないし、オークにこの世界を引き渡すかもしれない。もう信用できないわよ」


「私のリーダーとしての役目はアルナリア帝国を倒すことでも、世界を征服することでもないわ。私はダリアン領の人々をもう焼き殺されないようにすればそれでいい。それが私の夢であり、私の悲願だった」


「だから、我々は逃げる。東の彼方へ、エンサスの荒野の向こうへ行く。アルナリア帝国も、オーク達も、アスカもいない新世界へ」


「今までの戦争はけっして無駄ではなかった。コルタルシ領からクリオファス領まで、多くの人々を救うことができた。私にはそれで十分。一緒に来たい人は連れてくるし、残ってまだ戦いたい人は好きにすればいい。私達の戦争はもう終わったわ」


「今までありがとう。そして、さよなら」


 その言葉だけを残して、フィンラとタルノは行進中の人軍と一緒に夜空の彼方へ消えた。


 結局見送ることしか、何もできなかった。


 サリアの目に、涙が微かに浮かんでいる。

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