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最後の夢の彼方へ ~for the light of tomorrow~  作者: edwin
第四章 最悪の反逆者
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第二十七話 『共通の敵』

「あすちゃんあすちゃん、フィンラが呼んでるよ」

「あっ、はい、今行く」


 最後の戦いに挑む準備を整えている最中に何の用かしら。

 結衣の顔は相変わらず元気で天然で、少なくとも悪いニュースではなさそうだけど……


 ローザルレ城の客間に入ったわたしの前には黒いマントを纏っている三人の姿。


「連軍の総統アスカでしょうか? ヴィリアと申します」


 左のは青髪の女の子の人間で、可愛げのある顔を恭しく下げている。


「ヴァルナの名はヴァルナです。長い旅の末にやっと人類の希望に辿り着きました」


 右のはピンク髪の女の子の人間で、綺麗な目でわたしを眺めている。


「初めまして、わたしは連軍のアスカです。よろしくお願いします」


 ちなみに真中の人は黒いマントを深く被ってて、顔がよく見えない。


「この三人は我々連軍に大事な話があるそうですわ。とりあえず聞きましょう?」


 フィンラも、詳しいことはまだ聞いていないようだ。


「ヴィリア達、タルピス山脈を越えて、アルナリア帝国の領土を通り過ぎて、ここに来ました」

「凄く大変な旅でしたけど、ヴァルナ達にはとても重要な使命があります」


「ってことは、西帝国から来たんですか? もしかして戦争の難民?」


 戦争の基本の基本は情報収集で、我々も出来るだけニュースや噂を積極的に集まっている。

 その中で最近よく聞く話は西帝国の戦争である。


 話によると、オークの森から大軍のオークが侵攻し、帝国軍が為す術もなく破られた。

 町も大都市も、人間もエルフも、貴族も農民も、オークに蹂躙されている。


 かと言って、ここから西帝国は遠くて、巨大な山脈が隔てている。

 だからアルナリア帝国を全体的に弱めていること以外に、連軍にはあまり関係のない話だとずっと思ってた。


「それは……実は違うんです」

「ヴァルナ達は西帝国の者ではなくて、その……」


 真中の人がゆっくりと、自信に溢れているかのように、真っ黒なマントを脱いだ。


「そうダ。俺の名はガルだ。ゲンラ族の酋長の次男で、俺らは()()と交渉するために来タ」


 その男の薄い緑色の肌はなんか不気味に光を照り返している。

 頭の上には二つの鋭い角がそびえている。

 そして、男の口は実に愉快そうに嘲笑している。

 オークだ。


「ケラフェコラセテ、ゼンカレェテライオンドラセ、ケラ?」


 ヴィリアの意味不明な言語の質問に対して、ガルは静かに頷いただけだった。


「えっと、それはもしかしてオーク語ですか?」


「正確にはゲンラ語だヨ。俺らオークには三つの部族があル。南のカルヴァ族、北のテラン族、そして俺らのゲンラ族で、それぞれには違う言語も文化もあるかラ」


 わたしの質問に対してガルの口調は相変わらず苦笑じみているけど、それでもオークとは思えないほど丁寧で、礼儀正しかった。


「なるほど……それで、ガルさんのゲンラ族は、わたし達連軍と交渉をしたいと?」

「その通りダ。俺らにはアルナリア帝国っていう共通の敵があるじゃないカ? だから協力して、情報も戦略も共有して、一緒に戦ってエルフの皇帝陛下を倒そウ!」


 確かに魅力的な案ではあるな。

 帝都テラシアでの最後の戦いに勝てるかどうかわからない状況で、突然の強い味方の登場は願ったり叶ったりだ。


「あなた達オークについて、聞きたいです。どうしてアルナリア帝国と戦ってるんですか? 何が目的で、誰がリーダーで、どうやってエルフの魔法使い達を倒しているんですか?」


「ヴィリア達が答えましょうか?」

「昔々、タルピス山脈より西はすべてオークの領土で、平和に幸せに暮らしていた」

「でもある日、カリアンにアルナリア帝国の大軍が現れた」

「森が燃え、子供が死に、空から雷が我々の家に落ちていく」

「だから逃げるしかなくて」

「戦う方を選んだ者はみんな死んだんだから」

「そしてアルナリア帝国が今の西帝国を我々の子供の屍の上に作り上げた」

「とヴァルナ達は教われています」


「……それで、どうして今この瞬間に、西帝国に戦争を仕掛けているんですか? それは千年も前の話ですよね? 何か状況が変わったんですか?」

「そう、今の俺らには一種の魔法があル。エルフが使う魔法とはちょっと違うけど、それで十分に戦えるヨ」

「ほお……」

「だからゲンラ族とカルヴァ族とテラン族が連盟を組んで、やっと我々の本来の領土を取り戻すんダ。あんた達もどうダ? 一緒に戦ってくれたら、東帝国は連軍に譲ってやるヨ。俺らが平和の世界を作ろうじゃなイ?」


 これが、わたしがずっと欲しかったチャンスなんじゃない?

 これで本当に、確実にアルナリア帝国に勝てるんじゃない?


「待ってくれ」


 わたしの思考をフィンラの突然の声が遮った。


「私も噂だけを聞いたんですけど、オークって男を殺し、女を犯せ、子供を奴隷にすると言われていますわ。大都市セリアーに住んでいる人々はオークに蹂躙され虐殺され殲滅されていると。それ、本当でしょうか?」


「もちろん嘘ですとも! ヴィリア達がそんな酷いことするわけが――」

「本当ダ」


 ガルが妙に先と変わらず笑顔のままに、フィンラの愕然とした顔にゆっくり向いた。


「嘘をついても仕方がなイ。そうだ、俺らはオークで、俺らの前に立ち向かう人々を無慈悲に蹂躙する生き物ダ。カルヴァ族は違うと聞くけど、ゲンラ族もテラン族も簡単に人間とエルフを殺すし、奴隷にもすル。それが俺らの報復であり、俺らの権利だと思っていル」


「でもそれは西帝国の人々であって、あなた達ではないのヨ。もし協力してくれるなら、連軍の領土に住んでいる人達には一切手を出さないことを誓おウ。悪くない話だと思うけど、どうだろウ?」


 一瞬の躊躇。


「わかりました」


 他の選択肢なんて、最初からなかったかもしれない。


「わたしの連軍はゲンラ族とテラン族とカルヴァ族と同盟を組もう。一緒に協力し、一緒にアルナリア帝国を倒そう。それしかないです」


 ヴィリアとヴァルナが純真な笑顔でお互いを抱きしめた。

 フィンラの顔は見ないようにしよう。


 春乃を救うためには仕方がない。

 いくら理想を述べても、アルナリア帝国に負けたら意味がないから。

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