第二十六話 『人類に栄光あれ』
アルナリア帝国 セイラ29年(帝歴3748年)現在
クリオファス領のローザルレ城の作戦会議室。
そこに集まっているのは我々連軍の最高責任者であり、アルナリア帝国の史上最大の反逆者だ。
総長フィンラ。ダリアン領出身で、人軍のリーダーで、この異世界の人間達のヒーローで、大切な人々を助けるために戦っている茶色ロングの女性。
エルカルサ・フローラリア・ダリアン・アルナリア。かつては帝国の姫様でダリアン領の領主で人間達を虐げている共犯者で、今は我々のエルフ軍の総長でわたしの愛しい恋人で、赦されざる罪を償うために戦っている金髪ツインテールの少女。
大将タルノ。フィンラの右手で、わたしの反逆を最初に応援した人で、人類の未来を信じている赤髪ショートの女性。
サリア。総統であるわたしの可愛い補佐で、女の子であるわたしの初めての恋人で、わたしがこの世界で最初に会ってそしてずっと一緒にいてくれたわたしの大切な金髪ボブの女の子。
レイナ・サンザ・カント。かつてはカント領の領主で、我々連軍に快く入ってくれた意識高いピンク髪の女の子。
東峰結衣。わたしの幼馴染で、親友で、一緒にこの異世界に飛ばされてそして恋人になってくれた何よりも大好きな赤髪ショートの女の子。
そしてわたし、伊吹飛鳥。
「我々は自由の世界を作るのだ! みんなが平等に、幸せに暮らせる最高の社会を! それがわたし達の理念であり、わたし達の夢だ!」
わたしは大事な友達である春乃を探すのだ。結衣とはやっと文字通り繋がったんだけど、この残酷な世界に春乃はまだどこかにある。
もう一度会いたいよ。
「これが最後の戦いだ。帝都テラシアに勝てば、皇帝陛下を倒せばこのアルナリア帝国は我々の思うままになるだろう。ここで勝利すれば、我々の夢は叶うだろう」
ここで勝利すれば、わたしは世界中に部下達を送り出して、春乃を見つかるんだ。最初から、それが目標だった。
「やっと、人間とエルフが平等に暮らせるのだ。奴隷も不幸も不平も泣いている子供達もいない世界を目指そう」
いつか、わたしの大切な人達と一緒に平和に暮らしたい。結衣と春乃と、サリアとエルちゃんと一緒に笑いながらのんびり生きたい。
「みんな、覚悟はいいのか?」
一瞬の静寂。
「本当に、勝てるの?」
フィンラの声は静かだけど決意と信念に満ちている。
「確かに、今までの敵には問題なく勝ったよ。それは、間違いなくアスカのおかげで、感謝もしている。勘違いしないでくれ」
「でも、帝都テラシアの軍勢は比較にならないぐらい強くて、危険なのよ。数は私達より遥かに多くて、熱き絢爛たる雷火使いより強力な魔法使いもいるだろう」
「もちろん、私も勝ちたいし、私もその幸福な世界を作りたいけど、負けたら死ぬよ。この作戦会議室にいる私達だけじゃなくて、私の人軍だけじゃなくて、領のみんなが処刑にされるわ」
「もう二度と、私の大切な人達が焼き殺されるのを見たくない! 私達は冷静に、客観的に戦略を考えないと、すべてが台無しになる」
「だから正直に答えてくれ。本当に、勝てるの?」
フィンラとわたし以外の人達は何も言わずに、何も言えずに、わたしの返答を待っている。
「わからないよ」
「もしかして、確率はほぼゼロかもしれない。我々は未熟で、わたしはただの女子高生だよ。それに対して、相手は数百年の経験を積んでいるエルフの将軍だよ」
「でもやるしかない。ここで引いたら、この機会はもう二度と訪れないだろう。だから全力で帝国軍に立ち向かうしか、選択肢はない」
「だから未来のために、一緒に戦おう! 人類に栄光あれ!」
「「おお!!」」
※ ※ ※
数時間前。
わたしの部屋に、結衣とサリアとエルちゃんが集まっている。
「これがあすちゃんのハーレムか!? いやぁ本当に凄いなぁ……」
結衣もわたしも昨晩は全然寝てないけど、興奮は全然収まらず。
「アスカさんはまた愛人を作ったんですか?」
「まったく、私さえいれば十分だと思うぞ」
サリアとエルちゃんはさすがにわたし達のだらしない姿に呆れているけど、あまり驚いていないようだ。
「でもさでもさ、この二人めっちゃ可愛くない? さすがあすちゃん、わかるじゃん!」
「そうだろうそうだろう、結衣ならわかると思った!」
わたしも結衣も可愛い女の子達が大好きで、一緒に百合百合しい夢を語り合ったことだって何度でもあった。
「ね、ね、あたしも貰おうか? やっぱりあすちゃんだけじゃ不公平じゃん! あたしのハーレムにしようよ!」
「ちょっと、最初に告白したのは私じゃないですか? むしろ結衣さんは私の後輩になります」
「いやいやいや私はお姫様だぞ! これを私のハーレムに」
「お前らうるさいよっ」
「「「ごめん」」」
まったく、サリアの小動物みたいな仕草も、エルちゃんの自信満々な少女っぽさも、結衣の自然なカッコよさも、本当に本当にかわいいなぁ。
「わたし達がみんなで愛し合えばいいじゃない? みんながわたしだけじゃなくて、お互いが大好きで、誰でも仲間外れにされずに一緒に暮らせばいいじゃない?」
「愛に、制限も法律もないのよ。わたしが心の底から、みんなが誰よりも何よりも大好きなら、それで十分だと思う。だから心配も遠慮もいらないよ。愛しているから」
「「「はい!」」」
「だから何があっても、あなた達……わたしの一番大切な、一番愛しい人達を失いたくないよ。だからこれからの戦いに我々連軍が負けても、死んでほしくないよ」
「負けたら、逃げよう。もちろんわたし達を信じている人々を裏切りたくないけど、見殺しにしたくないけど、だからと言ってわたし達が死ぬ理由にはならない。あいつらより、全人類より、あなた達のほうが大事」
結構酷いことを言っている自覚はあるけど、間違っているとは思えない。
わたしの手を、結衣の手が強く強く握った。
「わかったよ。あたしも、やっぱりどの世界でも、どの世界よりも、あすちゃんが一番好きだよ」