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最後の夢の彼方へ ~for the light of tomorrow~  作者: edwin
第三章 結衣のために
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間話三   『春乃』

 同時刻 帝都テラシア


「何この子~ 凄く可愛いんですけど~」


 テラシア城の最上階に全然場違いな元気満々な声が響き渡った。


「ここで見たこと、聞いたこと全部は他言無用であることを忘れないでくださいね」


 帝国議会の大臣アリアナの隣に立っている茶色ポニーテールの女の子の目は興味津々で、猛烈に興奮している。


「どうして鎖で縛られているんですか~? 何か悪いことでもしたんですか~?」


 ポニーテールの女の子は知らないようだけど、その青色の目の少女はアルナリア帝国の最高神、女神アテラ。


「これは我が国の最大の秘密であり、最大の罪でもありますわ」


 でも大臣アリアナの声は悲しくて、辛くて、そして非常に疲れているように感じた。


 二人の目の前に、青色の光の粒がチカチカと瞬いた。


「アリアナ、これはなんだ。どうしてここに人間(ヒューマン)がいる」


 次の瞬間、そこに立っているのはアルナリア帝国の四十八代目の皇帝陛下であった。


「陛下、これは……」


「えっと、初めまして、わたしは()()()()と言います~」


 皇帝陛下の御前にも関わらず、桜ヶ丘女子高校二年生だった春乃は恐れずに、堂々としている。


「アリアナっ」


「はい! 大変失礼いたしました! どうかこの無礼をお許しください!」


 大臣アリアナの声は焦りというより真の恐怖に近い感情に満ちている。


「この人間(ヒューマン)は異世界から来ました、とおっしゃっています。もちろん、それは大変信じがたいことですけれど、妾は真実だと思っていますわ」


「我々の世界では聞いたことないような様々な知識をこの人間(ヒューマン)が持っています。テラシア大学の科学研究者の話によると、虚言である可能性は極めて低いとのことです」


「具体的な原因はまだ不明ですけど、その異世界で行われていた実験のせいで、世界の境界線が破れ、そして近くにいたこの人間(ヒューマン)は帝都テラシアに飛ばされました」


「これはもしかすると、女神イセーロ以来の異世界との接触ですわ。これは新たな時代の始まりかもしれません。陛下、どう思われますか?」


 女神イセーロの名前を聞いた瞬間に、青空の神様である女神アテラがショックを受けたみたいで、手と足を虚しく動こうとした。


 春乃以外に、誰もその可哀想な少女の言動を気にもしなかった。


「なるほど……ラムゼル、どう思う?」


 今まで一言も出さなかった帝国軍の大将軍ラムゼルに、皇帝陛下がいきなり話しかけた。


「大変興味深い話かもしれないけど、今は関係ないであります。西帝国はオークどもに侵略され、北の領が飢饉で混乱に落ち、そしてダリアン領の反逆者どもがクリオファス領まで来ています。他のことを考えている時間も余裕もありません」


「でもやっと、我々帝国軍はこの帝都テラシアに集合したであります。今すぐにでも、反逆者どもに真の戦争を持ち込むことが出来ます。陛下の命令次第であります」


 テラシア城のすぐ近くに、十万人以上の兵士が杖や剣を持って、その勅令を待っている。

 それはアルナリア帝国だけでなく、この世界のどの国でも最大で最強の軍隊である。


「えっと、ちょっと話してもいいですか~?」


 この緊迫の場面に全くそぐわない声で、春乃が手を上げた。


「…………いいだろう」


「わたしは『銃』という強力な武器を作れますよ。もしよかったら、あなた達の軍の鍛冶師に作り方を教えましょうか? 銃があれば、この世界の剣や矢に負けるはずがないですよ~」


「アリアナさんから話は聞いています~。このアルナリア帝国は最高の千年帝国で、平和と繁栄を守っているって。あなた達の敵は蛮族のオークとかで、もし負けたら人々が無残に犯され殺されるだろうって。だからもちろん、わたしも協力したいです」


「その代わりと言っては何だけど、わたしには大切な友達がいます。飛鳥ちゃんと結衣ちゃんは恐らく、わたしと同じようにこの世界のどこかに飛ばされたと思います。だから、わたしの親友を一緒に探してほしいです~。どうでしょうか?」


 一瞬の躊躇の後、皇帝陛下が大臣アリアナに視線を送った。


「妾も、テラシア大学の研究室でその『銃』の威力を見ました。あれは間違いなく本物ですわ。是非とも、この人間(ヒューマン)の協力が欲しいのです」


「…………わかった。約束しよう」


 春乃の顔は本当にホッとしたように、純粋に眩しく笑っている。


 帝都テラシアの狭くて汚い道路に飛ばされたあの日から、春乃には一つの目標があった。


 それは、もう一度大切な友達と一緒に笑い合うことだった。


 運がよかったかどうかはともかくとして、最初に話しかけたエルフは優しくて、頭の柔らかい男だった。彼は春乃の突拍子もない話を半信半疑に聞いて、そしてとりあえず住める場所と簡単な仕事を提供した。どうすればいいのかわからないまま、春乃は長い間その男の店で働いて、アルナリア帝国についていっぱい学んだ。


 やがて男の研究者の知り合いに紹介された春乃はテラシア大学に通わされて、いろんな実験に参加した。彼らはすぐに春乃の話を信じ始めて、そして大学の最高責任者である大臣アリアナにその旨を報告した。


 必死に憐れな人々を助けようとしている大臣アリアナの姿を見た春乃は、やっと計画を考え始めた。地球の技術をアルナリア帝国に提供する代わりに、国の力で大切な友達を探し出してもらう。


 簡単だ。アルナリア帝国の敵である反逆者達を潰せばいい。


「く、くく……」


 青色の光に照らされながら、皇帝陛下はもう一度神々しく笑っている。


「そうと決まれば話が早い! ラムゼル! 全軍出撃を命ずる! その反逆者どもに、我々の力を見せてやろう!」


「はっ!!」


 そして、新たな武器を手に、世界最大の軍隊は東へ、クリオファス領へ行進を始めた。

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