第一話 『異世界の膝枕』
「もしさ、もし異世界に転生されたらさ、どうする?」
「そうだね~ そりゃ仲間を集めて、冒険に出て、悪い奴を倒しまくるんじゃない? 結衣ちゃんは?」
「わたしならハーレムを作るよハーレムを! 一日中ずっっっと可愛い女の子とイチャイチャするわ!」
「そりゃいいね~ メイド達に家事をやらせて、魔法でモンスターとかを焼き尽くして、みんなからちやほやされたい~」
「最高だろう? ねぇ、あすちゃんは? あすちゃんならどうする?」
「いやそんな非現実的なことなんて起こるわけないから」
「あすちゃんのケチ!」
「飛鳥ちゃんはすぐそういう事言うんだから~」
「ていうか地球でもそういうことできるんじゃない? 冒険でもハーレムでも?」
「あすちゃんハーレム作るの!? すごい!」
「わたし飛鳥ちゃんハーレム第一号~」
「じゃぁあたし第二号! あすちゃん万歳!」
「もう……」
※ ※ ※
頭が痛い。
「夢か……」
頭だけじゃなくて、お腹も、腕も足も、体中全部がチクチク痛かった。
でも同時になんか気持ちいい。
「あの、起きてるんですか? 大丈夫ですか?」
真上からかわいい声がした。
「大丈夫……多分」
目を開けたら、前には大きな畑、上には金髪ボブの女の子の顔、そして下には……
「膝枕?」
「勝手にすみませんでした!! ただ、あなたが倒れてたから頭を打ったかなぁって思って、大変だって思って、だからなんとしなきゃって思って、でもどうすればいいのかわからなくて……すみません!!」
まるで小動物みたいに慌ててるそのかわいい女の子だけど、その体勢から動こうとはしなかった。
「大丈夫だよていうかありがとうございました助けてくれて。わたしは、伊吹飛鳥」
「イブキアスカ……さん? えっと、はい、私、サリアと言います! よろしくお願いします、です」
なにこの子? 明らかに日本人じゃないのに、ペラペラな日本語喋ってるし、ここも日本っぽくないけど先まで東京にいたし……
「ここ、どこですか?」
「ここ? えっと、ここ第14区なんですけど?」
「いやそうじゃなくて町は? 国は?」
「ああ、はい、えっと、崇高なるアルナリア帝国、ダリアン領、第14区、です」
……なに?
約十分後。
ところで膝枕されてるままなんだけど動く理由も特になかったので。
「ってことは、アスカちゃん異世界から来たんですか?
「そうみたいだね……サリアが見たあの光、ここだけだったの?」
「そうです! この畑からすっごく眩しい光がしたので、見に来たら、アスカさんが倒れてたのです!」
「他に、誰もいなかった?」
「そうですアスカさん一人でした」
「そうか……」
あの実験に巻き込まれてこの異世界に飛ばされたとすると、ここに結衣も春乃もいないのはおかしくない? でも、最後に手離したし、もしかして違う異世界に飛ばされたのか、この世界の違う地点に飛ばされたのか、それとも…… いや、それはありえない。
絶対生きている。
「とりあえず、私達の寮に来ませんか? 今の監督様なら、多分気づかないので、大丈夫と思いますよ?」
「そうだね……じゃぁお願い」
幸せな回復期間のおかげで問題なくて立てたわたしが、サリアと一緒に歩き始めた。
約二十分後。
「誰こいつ? 可愛い顔だね」
「すみません! タルノさん、こちらの方はアスカさんです! そういう事言わないでください」
「ども」
その赤色ショートで背が高くて存在感も強い女性の名はタルノ。
この世界の人って名字とかないの?
「んで、お前異世界から来たって? コルタルシ領から逃げたんじゃなくて?」
「そうです。信じられない話かもしれないけど、事実です」
「まぁいいか。監督様には言わないから安心して。とりあえず、空いてるベッドならあるから大丈夫、好きなだけ泊まっていいと思う」
「ありがとうございます」
「タルノさんは私達のリーダーみたいな存在なのです! 気になることがあったらタルノさんに聞いてください!」
「いやボクはリーダーじゃねぇだろうそれフィンラだろう」
「あぅ……すみません」
とりあえず、ここに数日間過ごして、できるだけ情報を集まったほうが良さそう。
この世界の現状を知る必要がある。
歴史も、政治も、経済も、技術レベルも。
もしファンタジーみたいな異世界なら、魔法も、種族も、生物も、危険度も。
まずは結衣と春乃を探す。この世界にいる可能性は高いと思う。
次は、地球に帰る方法を考える? いや、本当にユートピアならずっとここに住んでもいいの……かな? それとも、往復できる手段を作って、二つの世界を繋ぐ可能性も?
でも今は疲れた。
他に聞きたいことはいくらでもあるし、フィンラっていう人にも会いたいし、シャワーも浴びたいし。
でも明日にすればいい。
明日、このアルナリア帝国の現状を、真実を、聞き出そう。
結衣と春乃の夢をまた見ると、いいね。