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最後の夢の彼方へ ~for the light of tomorrow~  作者: edwin
第二章 雷火と硝煙
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第十一話  『雷光の壁』

「雪の進軍~ 氷を踏んで~ どれが河やら~ 道さえ知れず~」


 かつて従順な農民だった人間達は鋼鉄の銃を抱えている。


「馬は斃れる~ 捨ててもおけず~ ここは何処ぞ~ 皆敵の国~」


 黒鎧のエルフ達は人間と共に礼儀正しく行進している。


「ままよ大胆~ 一服やれば~ 頼み少なや~ 煙草が二本~」


 そして連軍の先頭を率いているのはわたしとサリアだった。


「あの、アスカさん? なんですかその歌は?」

「いや気にするな。それより、コルタルシ領まであとどのくらいかかるの?」

「あと一時間しかないと思います」

「そうか……もうすぐだね」


 不安は相変わらず残っているけど、できるだけの準備は整えているはずだ。

 作戦をしっかり練って、銃や火薬を大量生産して、兵士達をきちんと訓練させて。

 そして……


「それにしても本当に凄い光景ですね……」

「ああ。これはわたしの自信作だ」


 千キログラムの鋼鉄の塊。

 この世界の最強の魔法使いにも引けを取らないレベルの威力と破壊力を誇っている我々連軍の最大の武器。

 大砲だ。


「と言ってもわたしが作ったわけではないな。設計図を鍛冶屋に持ち込んだだけ」

「それでも凄いと思います! これで負けるはずがありません!」

「そうだといいけどね……」

「そうですよ! コルタルシ領の領主を倒して、奴隷化されている人達を解放して、帝都テレシアに挑むんですね!」


 それだけじゃない。

 結衣と春乃を探さなければならない。

 帝都テレシアへ行進しながら、人間の農民にも、エルフの貴族にも聞き込みして、この世界のどこに飛ばされても見つかるんだ。


「これがコルタルシ領ですね! 私、ダリアン領から出るのは初めてです!」


 目の前に濃い緑の野原が広がっている。

 そしてその向こう、コルタルシ領の軍隊が並んで我々を待っている。


 不安を抑えながら、わたしが連軍に向き合って大声で叱咤激励し始めた。


「今日、我々は自分達だけのために戦うのではない!」


「我々はコルタルシ領の人々の希望のために、コルタルシ領の子供達の未来のために戦うのだ!」


「苦しんでいる人達は見逃せない! アルナリア帝国から人類を救うのだ!」


「だから、わたしに――」


When d()ark ra()ins be()fore u()s, whe()n doom() is o()ur hope()

 When() al()l we() hold() de()ar tu()rns() to a()shes() an()d smoke

 To() the() h()eave()ns() we() hai()l, oh l()et t()here() be() ligh()t

 The ai()r roar()s th()e skies() trembl()e th()e world() breaks() apar()t」


 空から舞い降りたその紫色の光は眩しすぎて、目が潰れるかと思った。


『ドカーーーーン!』


 野原に雷光が咲いて、連軍の目の前に広がっている。


 まるで巨大な壁に固まっているかのように。


人間(ヒューマン)ども、舐めやがって!」


 雷光の向こうに嘲笑してるのは一人のエルフ。

 紫色の兜を被って、不気味な薄暗い杖を掲げて。

 その距離にも関わらずエルフの声ははっきり聞こえる。


「俺の名はライナー・セレザル・コルタルシ! この領土の最高領主! 雷の将軍! ここから先は通せねぇ!」


「見ろ、俺の『雷光の壁』を! 死にてぇなら、俺のコルタルシ領に一歩でも入ってやがれ! 肌は燃え、手足は焦がれ、焼き肉にしてやる! どうだ、人間(ヒューマン)どもよ!」


「これが俺らの最強の防衛! オークでも、エルフでも、ドラゴンでも、入って無事に帰ってこれるやつは一人もいねぇ! この戦争はもう終わっている!」


「ああ、俺はここから攻撃しねぇ。する必要もねぇよ。帝都テレシアからの増援を待てばいい! 最強の帝国軍を揃って、テメーらの情けない反乱を壊してやる!」


「そしてテメーらが生まれてきたことを後悔させてやる! ああ、そろそろ()()()()()()()に飽きてきたからちょうどいいぜ!」


「俺らに牙を向いたらどうなるのか、教えてやる! 想像出来ねぇほどの苦痛や恥辱を見せてやる! 『殺してくれ!』って情けなく乞えても永遠に、無慈悲に生かしてやる!」


「それが嫌なら、テメーらの巣に帰れよ! 俺らエルフの奴隷に戻れよ! 俺は寛大だからね、この最初で最後のチャンスを与えてやる! 諦めるか、俺の監獄に苦しみながら死ぬのか! 選べ、人間(ヒューマン)どもよ!」


 ここからでも、冷や汗を掻いてる連軍の兵士達がちらほら見える。

 純真の恐怖に満ちている真っ青な顔も。


 だって、ダリアン領にもコルタルシ領の『監獄』の噂が広がっている。


 意味もなくて、目的もない、ただ好きでやっているからって。


 その拷問は人間だけじゃなくて、エルフの限界すらも遥かに超えているって。


 生き残っても人格が、心が完全に壊れて、ただの抜け殻になるって。


 コルタルシ領に近づくな。コルタルシ領で目立つな。そして、なにより、コルタルシ領の領主を怒らせるなって。

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