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魔術師と賢者

 カインにとって、『賢者』のゼノは畏怖の対象でもあるが、憧れの存在でもあった。

 だから遥かな力量差があろうと、いつも鬱陶しそうに扱われようと、出会えば絡み続けていた。しかし、流石に本気の怒りをぶつけられると、恐怖に体が震えてしまう。

 猫背の背中をより小さく丸め、丸眼鏡の下の顔を青くしながら、カインの執務室に押しかけたゼノに弁解をする。


「僕は、ゼノさんがアルジュマの姫君と将来を誓ったという話をしただけでしてぇ……」

「本当か?」

「うぅん……、姫君が、まだ幼体だってことも、言った、かなぁ……」


 そろり、と視線を上げればゼノが未だかつて見たことがない満面の笑みを浮かべていた。


「ゼノ、さん……?」

「お前、それを、風の系譜の者に、話したんだな?」

「う…………。はいぃ……」


 笑顔ながら圧倒的な濃度の魔力をぶつけられ、カインはしばし息が出来なくなる。

 強すぎる魔力は、耐性のない人間には毒だ。カインとてヒュメール国一番の魔術師だから、一般人に比べれば圧倒的に耐性は高い。そんなカインが息が出来なくなる程の魔力だ。きっと余波を受けた周辺に居た者は、何人か倒れていることだろう。


 顔色が白くなったカインを見たゼノは大きくため息を吐き、魔力を散らした。


「……っはぁ! かはっ!!」

「生きてるか?」

「っぅぐ、はぁ……。……まぁ、何とか……」


 執務机に倒れ伏して息を整えるカインに舌打ちをしたゼノは、部屋の一角に置いてあるソファーにどかりと座る。未だに苛立ちは収まっていないようだが、力に訴えるのはやめてくれたようだ。

 ほぅ、と小さく息を吐いて強張った体の力を抜き、数週間前の自分を思い出す。


 あの日は久しぶりの非番で、結構日の高いうちから行きつけの店でお酒を飲んでいたのだ。そして大分お酒が回った頃相席になった風を司る妖精と、他愛もないことを色々と話していた。

 その中の話題の一つが、ゼノとミネアがつがいの約束をしたことだった。


 カインとしては、単純にゼノが大切に思える存在を見つけられたことが嬉しかったのだ。だから、喜ばしい出来事として語っただけだった。

 しかし、風の系譜の者は面白い噂話が大好きで、勝手な解釈をことも多々ある存在だ。しかも、今回相席した風の妖精はなかなか性格の悪い者だったようだ。

 面白おかしい噂話として、ゼノがロリコンだと広めてしまったのだ。


「すみません……。つい、嬉しくってぇ」

「は? なんでお前が嬉しくなるんだよ」


 意味が分からない、と眉をしかめるゼノにへにゃりと笑いかける。


「ゼノさんて、皆に怖がられてるじゃないですかぁ。本当は優しいのにぃ」

「ぁあ?」

先視さきみの巫女殿も仰っていましたけどぉ、放っておけば良いのに、ゼノさんはバカな人間をつい助けちゃいますよねぇ」

「……うっせぇ」


 そっぽを向いたゼノはバツが悪そうな顔をしている。きっと本人にも自覚はあるのだろう。

 カインがゼノと初めて出会ったのも、そんなゼノのお節介のおかげだ。


 まだ学生だったあの頃のカインは、かなり無謀な愚か者だった。

 学院で一番だった自分には、他の者より圧倒的に力があると思っていた。そして自分の力を試したくて、とある禁術に手を出そうとしていたのだ。

 今であれば、当時のカインにそんな禁術が扱える実力がないことは分かる。きっと禁術を発動しようとした所で、手に負えない術に食われ、命を落としたことだろう。

 だが、実際には禁術を発動する前にゼノの干渉を受けたのだ。そして禁術を跡形もなく消されたあと、圧倒的な実力差で叩きのめされた。


 ぎったぎたに痛めつけられ、どれ程愚かな真似をしようとしたか淡々と説教されたとき、カインの変な矜持はポッキリ折れた。そして何年か経ち、当時の自身の行いがどれ程無謀で、ゼノに助けられたのだということを理解した。

 さらにカインが主席王宮魔術師になったとき、先視の巫女からあの時のゼノの行動は国の依頼などではなく、個人的な善意だったのだということを聞いた。


 だから、こんなにも優しいゼノが、『賢者』であることが悲しかった。

 この世界には人間以外にも獣人や妖精など、様々な種族が居るが、皆命に限りがある。永遠の時を生きることになる『賢者』は、どうしても置いて行かれる存在なのだ。

 人間嫌いと称し、横暴な振舞いをして他人と距離を取っているが、優しくてつい人に手を貸してしまうゼノだ。そのことにとても打ちのめされているだろうことは、想像に難くない。


 本当はカインも、先視の巫女も、大好きな優しいゼノを孤独から救いたかった。しかし、ただの人間である自分たちでは、むしろ傷付けることしかできない、と諦めていた。

 そこにミネアが現れ、獣王の系譜の番、という方法でゼノの永遠に希望をもたらしてくれたのだ。


「本当に、ゼノさんとミネア様が巡り会えたのは、素晴らしい奇跡ですねぇ」

「どうだかな」

「もう、照れちゃってぇ」


 ニヨニヨと笑いながらゼノを見れば、再び満面の笑顔を向けらた。


「もう一発、喰らっとくか?」

「ごめんなさいぃぃぃ!!」


 カインは、禁術を止められた時よりも深く、心から謝罪をしたのだった。

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