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小話

小話2個です。

【ご両親】


 アルジュマ国の宮殿で療養しているゼノの元には毎日ミネアが入り浸っていた。そんな二人の所に、ある日一組の男女の獣人が訪れる。


「失礼してもよろしいでしょうか?」

「ん? 構わないが……?」


 ゼノは見覚えのない獣人に首を傾げていると、ミネアがぴょこん、と飛び上がる。


「父様っ! 母様っ!」

「はぁ!?」

「ミネア、久しぶりですね」

「元気にしていたかしら?」


 駆け寄ったミネアの頭を撫で、優しく微笑む男女は、確かに獅子の獣人だ。

 男性は獅子の獣人にしてはほっそりしている。しかも珍しいことに、髪の毛と頭の上の獣耳は白銀色だ。瞳は獅子獣人らしい金色のため、恐らく白変種だろう。

 女性は美しい金色の髪と獣耳を持ち、つり目がちな金色の瞳をしている。気が強そうなその顔は、どことなくミネアと似ている気がする。


「なぁ、ミネア。お前の両親は遠いところに行ったんじゃねぇの?」

「そうじゃぞ!」

「そうですね。私が体が弱いもので。大分長いこと、南方の穏やかな気候の地域で暮らしているんです」


 そう説明するのはミネアの父親だという男性。申し訳なさそうにミネアの頭を撫でている。


「何もない南方の離宮より、王宮の方が学ぶことも多いと思いましたので、ミネア一人王宮に残していくことにしたんです」

「それに、お義父様がものすごくミネアを可愛がっていて、王宮から連れて行くなんて言える状態ではなかったの」


 困った様に笑った母親は優しくミネアを抱きしめた。嬉しそうに笑うミネアを見て、安心するとともにゼノは戦慄する。

 前に、両親は遠いところに行った、とミネアが言うのを聞いて既に亡くなっているものと勝手に思っていたのだ。それが勘違いで、こうして両親は健在だった。

 そしてゼノはミネアとつがいの約束を交わしている。


 幼体こどものミネアと、だ。


 恐る恐るミネアの父親を伺うと、ばっちりと目が合う。


「さて、ゼノさん。少しお話、しましょうか?」


 そう言って笑う父親の瞳は、獲物を見据えた獅子のものだった。





【お猫さま】


 怪我も十分に癒えたゼノは、ヒュメール国にある自宅に戻っていた。この自宅に戻るまで、ミネアがごねまくり、非常に大変だった。

 ミネアが成体になるまでまだ20年もある。そんな長期間アルジュマ国の宮殿で暮らすなど、ゼノは真っ平御免だった。しかし幼体のミネアが宮殿から出て暮らすなど、保護者たちが認める訳がない。

 両者の主張は長いこと平行線を辿ったが、アルジュマの宮殿とこの家の直通転移陣を設置することで決着がついた。転移陣の上で必要なだけの魔力を込めれば自動で転移出来るという、破格の代物だ。


 そして自宅に戻ったゼノだったが、ミネアは毎日のように転移陣を使ってこっちに来ていた。おかげでミネアを連れ戻しに来た父親にも何度も会い、肝を冷やすハメになった。

 ミネアの両親は、ゼノが今すぐどうこうする気がないことと、ミネアが絶対に譲らないのを知り、二人の関係については特に口を出さないと言っていた。しかしそれはそれとして、気に食わないものがあるのだろう。

 父親は会うたびに笑顔で威圧してくるのだ。

 優美で儚げな印象の男性なのだが、流石は獅子の獣人で王族だ。結構怖い。


 なのでゼノとしてはミネアにはさっさと宮殿に帰って欲しいものだが、今日もゼノの家に居座る気満々の様子だ。

 いい天気なので大量の洗濯物を家の外で干しているゼノの後ろをちょろちょろとついて回り、風に舞うシーツに巻かれたりしていた。次第にシーツ相手にじゃれ始め、ゼノはため息を吐く。


「おい、ミネア。遊んでんなら帰れよ」

「ぬ! 遊んでいるのではない、鍛えておるのじゃ」

「何を鍛えてんだよ……」

「反射神経じゃ!」


 小さい胸を張って偉そうに言うミネアに、ゼノは鼻で笑う。


「猫かよ」

わらわは猫などではなく獅子ぞ!」


 いつぞにも聞いたようなセリフで主張するミネアは、ゼノを力いっぱいボコスカ殴る。ミネアの拳は小さいが、力が強いので物凄く痛い。


「いってぇ! 殴んな、ミネア」

「ゼノが猫などと言うからじゃ!」

「分かったから、ちょっと殴んのやめろ!」


 さらに数発殴って落ち着いたらしいミネアは、腰に手を当ててゼノを睨みつける。


「妾に構わぬからこうなるのじゃ!」

「はぁ? ……まぁ、いい。とりあえず家入んぞ」

「分かったのじゃ」


 ミネアの主張は分からないが、とりあえず思いついたことがあるので家に戻ることにする。そして家にあった適当な糸の先に大きめな羽数枚を括りつけ、ミネアの前にぶら下げる。


「なんじゃ?」

「いや? ちょっとな」


 不思議そうに見上げるミネアの目前で羽をフリフリと上下左右に動かす。

 流石に目の前でこんなに動くものがあれば気になるだろう。顔ごと動かして羽を追っている。そしてしばらくそんなことを続けていれば、限界に達したのだろう。

 ミネアが羽に飛びつこうとした時、ひょい、と羽を高く持ち上げる。


「ぬ! ゼノ!!」

「なんだ?」


 そう言いながらもう一回羽をフリフリと目前で動かす。そうするとまた羽を追って顔を動かし始める。

 ひょい、ひょいと羽を動かせばミネアもつられて手を伸ばす。しかしゼノは軽く風の魔術も使いながら羽を操作しており、そう簡単に捕まえられるものじゃない。


「ぬ、んにゅ! ぬぬ、んにゃ!!」


 必死に羽を追うミネアが面白くなり、結構大人げなく羽を操作していた。すると流石に業を煮やしたミネアが、羽ではなくゼノの飛び掛かる。


「うおっ!?」

「ゼノ! 妾で遊ぶでない!!」


 力いっぱい飛び掛かったミネアはゼノを押し倒し、腹の上に乗る。そしてゼノの胸元をボスボス殴りながら、詰るのだった。

 そしてある程度殴って満足したらしいミネアはゼノの腹の上で丸くなる。


「おい、ミネア?」

「疲れたのじゃ。ゼノは、罰として妾のベッドになるのじゃ」

「はぁ?」


 しかしゼノのことはお構いなしで目を閉じたミネアは、しばらくすると小さな寝息を立て始める。丁度窓から心地よい日差しが差し込み、日向ぼっこには最適だったのだろう。

 気持ちよさそうに眠るミネアの小さな頭を優しく撫で、ゼノは仕方なさそうにため息を吐く。


「全く……。これじゃあ、まるっきし猫じゃねぇか」


 小さく零された言葉は、とても優しい声色だった。

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