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 そして夜が明けた翌日。ゼノとミネアは暇を持て余していた。

 ヒュメール国の人間は、出兵のために色々と準備があるので忙しくしているのだが、身一つあれば十分な『賢者』であるゼノは特にやることもない。

 朝一で王の執務室に突撃してミネアも同行する、と告げて少年王(マリス)達を混乱の極みに突き落とすだけ突き落とし、あとは気の赴くまま城内をフラついていた。


「つっても特に見て面白いものもないだろ」

「そうかえ? 妾は楽しいぞ」


 ニコニコ笑って突っ走って行こうとするミネアが、武器庫などの危険な場所に迷い込まないよう時々軌道修正しながら、かれこれ1時間ほどうろつき廻っていた。

 行きあう人々でも、下級の使用人や兵士は獣人のミネアのことを珍しそうに見ることはあるが、ゼノには特に意識を向ける者は居ない。しかし上級の人間になると、『賢者』であるゼノに気付くとギョッとした様子で道を譲るのだった。


「ゼノ、お主は一体何をしたのじゃ? 人が避けてゆくぞ?」

「はんっ。別にいいだろ、歩きやすいし」

「そうじゃが……」


 ゼノが避けられている、という状況に不満を抱いているいる様子のミネアに、小さくため息をつく。変なトコだけ(さと)いものだ。


「『賢者』が城に居るなんて、普通じゃねぇんだ。だから、俺が『賢者』だって分かる人間はビビるんだよ」

「……そう、なのかえ?」

「そーなの。それより、ここ下るぞ」


 ゼノがそう言って指すのは、何の変哲も無い階段だ。

 強引に話題を変えようとしているのは明らかだった。しかし、ミネアも特に文句は言わず、意識を切り替える。


「この先は何があるのじゃ?」

「まぁ、大したもんじゃねぇけどな」


 城はゼノのものではないのだが、勝手知ったる場所とばかりに、階段を降りきった先の巨大な扉を押し開く。

 その場所は、無骨な石造りの広い部屋だった。壁や天井にはほとんど装飾も施されておらず、まるで倉庫のようだ。しかし床にはびっしりと細かな紋様が描かれ、所々に青白い光を放つ石が埋め込まれている。

 薄暗い中、床から青白い光が立ち昇っているそこは、幻想的な空間だった。


「キレイじゃ……! ここは、転移陣かえ?」

「ああ、そうだ」

「すごいのじゃ! アルジュマの城にある転移陣はこんなに大きくないし、美しくもなかったのじゃ!」

「ま、俺がわざわざ手を入れて強化したからな」

「なんと! ゼノが作ったのか! すごいのじゃ、流石ゼノじゃ!」


 ピョンピョンと飛び跳ね、金色の瞳を輝かせるミネアに苦笑する。ここまで褒められると小っ恥ずかしい。


「この陣を使えば、一気に千人は運べる。ヒュメール国の兵はアルジュマ国民程強くないが、短時間で大人数運べれば、それだけ有利になる」

「ええ、その通りです。あなた様がわざわざその陣を補強した甲斐が、ございましたでしょう?」


 唐突に後ろから掛けられた、ゆったりとした声にゼノが振り向くと、そこには思った通りの人物が居た。模様のように呪印が刺繍された布を頭から被り、唯一見える口元が柔らかな笑みを描いている、小柄なその人。


先視(さきみ)の。珍しいな、あんたがこんな所に来るなんて」

()えたものですから。賢者殿にお会いするとは思っておりませんでした」


 そう言って小さく笑う彼女は、この国唯一の先視(さきみ)の巫女。ゼノも長い付き合いのあるこの人物の力は、本物だ。

 このタイミングで現れたことに、ゼノは目を眇めて見据える。


「で? あんたはこの状況を視てたのか?」

「いいえ。わたくしに視えたのは、多くの兵が転移陣に乗っている姿のみ。アルジュマ皇帝のことが視えていれば、また違った手を打てたでしょう……。力不足を、悔やみます」


 皺が多く刻まれた手を握り締め俯くその人に、ゼノはキツくしていた視線を和らげる。

 先視の能力は、視たい場面を視れるものではない。意味のない様な様々な場面が、断片的に視えるのだ。それが何を意味し、重要かどうかを判別するのは視た者自身で行わなくてはいけない。


 だから、この状況で転移陣の補強を事前に行えていただけでも、幸いなのだ。


「いや。兵を早急に送れるだけでも大手柄だ。あんたが悔やむことなんか、ねぇだろ」

「……ふふ。賢者殿に慰められるとは、稀有(けう)なことがあるものですね」

「うっせぇよ」


 金茶の髪を乱雑に掻き回して舌打ちをするゼノに、先視の巫女はしばらく密やかな笑いを零す。そして何やらふくれっ面でゼノを見ていたミネアの側で身を屈め、布越しに彼女の金色の瞳を見据える。


「小さき獅子のお嬢さん。本当に欲しいと思うものであるならば、何があっても諦めたり、手を離したりしてはいけませんよ」

「……?」


 先視の巫女の言葉を全く理解出来ていなそうなミネアの様子に、ゼノはため息を吐きながら口を挟む。


「先視の。それも視えたことなのか?」

「いいえ。これはただの、年寄りのお節介」


 そう言って小さく笑う先視の巫女は、どこか後悔を滲ませていた。

 一体何なのか。そう問いただす前に、何かを感じ取ったらしいミネアが、ハッキリと宣言をする。


「巫女殿。妾は迷わぬし、一度狙ったものは諦めぬ。妾は、獣王の系譜じゃからな!」

「ふふ……。それならば、よかった。どうか、あなた方に善き道がひらかれますように」


 それだけ言うと、先視の巫女は小さく礼をして去っていく。


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