五目チャーハンの冒険
五目チャーハンが自我に目覚めることも不可能ではない。
お米とグリーンピース、その間をつなぐ塩コショウ砂糖、
それらの混ざり方が生物の法則と重なり合えばいい。
もちろん、確率は天文学的に低い。だから五目チャーハンが
どんな冒険をしたのかは大事なことなのである。
フライパンから出ようとして、何度もすべり落ち、
グリーンピースをいくつも失ってしまった。彼は残念に
思い、ずっとここに居るつもりで静かにうずくまった。
しかし、どうにも退屈である。周りの音を聞いて、
自分のなかで繰り返してみる。五目チャーハンが言葉を
おぼえて話はじめる。
「これはいい。新しい刺激があって楽しいぞ」
「あのグリーンピースは、今なにしてるか」
「ふんふんふん、空気が美味い。まるで山の頂上みたいだ」
もう3年くらい経ったであろうか。ずっとフライパンの
上で過ごし、ついに人間がやって来て言った。
「おっ、チャーハンじゃないか。早く食べないと冷める」
そうして、五目チャーハンは人間に食べられて、
生涯を終えた。彼は最後に言った。
「グリーンピースはちゃんと食べてくれるのか。
それだけが気がかりだ。」
彼が生まれ、食べられた部屋には、どこにもグリーンピースは
落ちていなかったし、チャーハンの匂いだけが香ばしく残って
いる。完全な一生を送った、悔いのない3年であった。
チャーハンの匂いは部屋に充満し、蛍光灯のちかくには、
自我に目覚めたチャーハンの匂いが生まれる可能性も
残っている。
人間にとっては、数秒間の時間だったがそれでも、
彼は幸せだったのである。