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翌朝・・・
「貴方達!一体何を考えているの!!」
「ごきげんよう、テレーズ様、朝っぱらからお麗しいっす・・・・」
「うるさい!」
挨拶もなしにいきなり部屋に怒鳴り込んできたツンデレ領主様。
そうカッカしてると若いうちから高血圧に悩まされちゃうぜ?
「おはようございますわ。テレーズ様、失礼ですけれど顔を洗ってきてもよろしくて?」
「さっさといってきなさい!」
妻はいつもマイペースです。
「テレーズ様?他のお客様のご迷惑になりますので、あまり大きなお声は・・・」
「ウィルヘルム・・・う~、もう!」
「淑女たるもの、もう少し落ち着かれては?」
「貴方達のせいでしょうが!」
ッくぁ・・・キーンときたキーンと・・・・
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「ホントにもう。昨日は耳を疑ったわよ・・・ドラゴンの討伐なんて。」
「ああ、その件でしたの、朝から何事かと思いましたわ。」
「そりゃ怒鳴り込むわ!この街は任せてください!って言ったそばから何を自殺しに行こうとしてるのよ!」
単身でドラゴン退治は自殺もんですか、そうですか・・・
「いい?あんな大昔の依頼をずっと放っておいたこちらにも責任はあるけれど、ドラゴン討伐ってのは本来、国が戦力を整えて、万全の態勢で初めて挑める物なのよ?」
「魔王が動き始めてから、ドラゴンまで手がまわらなくて、先々代の領主が依頼を出していたみたいだけれど・・・とにかく、そんな無茶な依頼は取消なさい!」
「・・・テレーズ様、そうご心配なさらないで?私達も本当に討伐出来るとは思っておりませんわ。でもこの先、魔王と対峙する事を考えると、この世界の強者の実力を私達は知っておく必要がある、と思いますの。」
よくもまあそんなセリフを・・・昨夜は旅行気分でウキウキしながら準備されてましたよね?ハニー?・・・
「そうなの?・・・そうよね、普通は倒そうなんて考えないわよね?ごめんなさい。貴方達は規格外の力を持ってるから・・・早とちりしてしまったみたい。」
いいえ、妻は本気です。多分本気で3千万を取りに行く気です。
すいません、ウチの大黒柱は頼りになりすぎる嫁なのです。
「ええ、あくまで様子見ですわ。危険なようでしたら、すぐに退散いたします。」
「そう・・・わかったわ。そういう事なら「悪夢の森」までの交通手段は、こちらで馬車を手配します。今の状況で、あまり長い間、貴方達を街から遠ざけておきたくないの。なるべく早く帰ってきてちょうだい。」
「わかりましたわ。何から何まで、テレーズ様にはお手数おかけしますわね。」
「・・・いいのよ。そのかわり、無事戻ってきなさいよね?」
「かしこまりました。大事な妻です、イリスに無茶はさせませんよ。」
「頼んだわよ!」
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「イリス、さっきのは?」
「嘘は申しておりませんわ?それに、良かったのではなくて?移動手段も確保できましたし。」
したたか・・・圧倒的したたかさ・・・頭が上がらないねホント・・・
「まあね、でも本当に危なかったら逃げるぞ?別に他に稼ぐ手段だってあるんだからさ。」
「ええ、その時はあなたの運に頼る事にいたします。」
やれやれ・・・そんな気は微塵も無さそうですよ?
「さあ、数日分の携帯食糧の用意。衣類も持ちましたし。「悪夢の森」のおおまかな地図も入手しました。あなたも準備はよろしくて?」
「おう!それじゃ東門へ向かうとしようか!」
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「お待ちしておりました!その節はどうも!お世話になりました!」
おや?この人は・・・
「ああ、西門防衛の時の・・・・」
「はい!ジャックと申します!」
いつぞやの若い門兵さんだった。
「どうも。えっと・・・」
「テレーズ様からのご指示で、「悪夢の森」までの案内を仰せつかりました。よろしくお願いいたします!」
「そうですの、よろしくお願いいたしますわ。」
「は、はい!こちらこそ・・・」
おっと?顔を赤いぜ?・・・悪いな坊主、この嫁はやれん。なんちゃって。
「申し訳ありません、こちらの馬車は少々揺れますがご容赦願います。今がちょうど正午ですので、明日の午前中には「悪夢の森」入口に着くかと思います。」
ほぼ丸一日かかるのか、行くだけで少し疲れそうだな。
「今夜はキャンプとなります、あとその・・・道中、護衛方よろしくお願いいたします。」
「ええ、問題ありませんわ。」
「では、出発いたしましょう。」
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ガラガラガラガラ・・・・
おおう・・これはなかなか・・・
酔わないようにしなくちゃ・・・衰弱状態でドラゴン退治とか笑えん・・・・
「あなた?大丈夫ですの?お顔の色が優れませんわよ?」
「なんとか大丈夫・・・それにしても良い景色だよね。」
異世界の馬車窓から・・・ちゃらっちゃっちゃっちゃ、ちゃっちゃちゃ~・・・。
「ええ。こんな世界でも戦争だなんて・・・種族での争いという物は本当に・・・どこにいってもありますのね。」
「このまま平穏に収まるって事はないだろうね。めんどうな事にならなきゃいいなぁ。」
「そうですわね。・・・あら?」
ガタタンッ!
「ん?何かあったかな?」
急停車・・・
「どうかされましたの?」
「あ、お二人とも、どうかお静かに・・・」
「聖鳥グリュフォーンです・・・エルフの民の守護獣との噂ですが、何故こんな所に・・・比較的穏やかな習性のはずですので、こちらがおとなしくしていれば襲ってはこないと思います。」
ふ~ん・・・色んな動物がいるんだな。
「たしか「悪夢の森」にはエルフの里があるのでしたわね?何事か起こっているのではないかしら。」
「・・・かもしれませんね。どうしましょう?一度エルロンドへ戻り報告したほうが良いでしょうか?」
「もう夕刻だ、とりあえず今日はこのままキャンプして、明日も予定通り森まで行ってみよう。状況の確認をして、必要ならすぐに戻って報告すればいいんじゃないかな?」
「わかりました。では今日はもう落ち着くとしましょう。この辺りにちょうど川があったはずです。」
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「人の嫁さん覗くなよ?ジャック君。」
「覗きませんよ!」
イリスは川で水浴びなう、と。
偉いな~・・・例え人妻でも、俺なら絶対覗くけどね。
「冗談だ。さて、明日の事だけど、俺達は到着後すぐに森の探索に動く。第一目的はドラゴンの捜索。第二目的でグリュフォーンの異変の原因を確認する。状況次第じゃ即刻とんぼ返りとなるわけだけど、君はどうする?」
「馬車では森に入れませんので、当初の予定では、魔獣を警戒しつつ入口付近にて待機しているつもりでしたが・・・」
「先の件を考えると、グリュフォーン以外にも森から魔獣が出てきてる可能性はあるね。」
「はい、情けない話ですが、森からはかなり離れていたほうが良いかもしれません。」
「ふむ、なら隠れやすそうな所を見つけて待機しておいて、危険が迫ったら街まで逃げちゃっていいよ。」
「ええ!?お二人を置いて行けっていうんですか!?そんなわけにはいきませんよ!」
「まあ、それはあくまで最悪の話ね?俺達が帰ってこないって状況にはならないと思うけど、時間がなぁ・・・あ!良い方法思いついた。」
アレなら合図に使えるかも・・・・
「良い方法ですか?」
「おう!さっきの話の通り、君は多少離れて待機しておいて、んで空を見ていてほしい。」
「空?ですか?」
「俺達が帰るって合図を送るよ、森の空に光の柱が昇ったらそれが合図。」
「光の柱?」
「なるほど、『ハヴァマール』・・・ですわね?」
おや、お帰りハニー。
「正解。お帰りイリス。」
「ただいま。良い月光浴でしたわ。たまにはこういうのも良いですわね。」
「ッ・・・お、おかえりなさいませ!イリス様!」
妻よ、他の男、特に年頃の青年の前で色気は出しすぎないように。
「はい。それで、先ほどのお話ですけれど。」
「うん。合図に使うとか怒られるかもしれないけど・・・・」
「構いませんわ。減る物ではありませんもの。」
前から気になってたけど、エネルギーとかどうなってるんですかね?
無制限であんなのポコポコ撃てるなら、もうこの子に勝てる存在いないだろこの世界。
「さいですか。つーわけだ、ジャック君。君は身を守りつつ、空を眺めてなさい。」
「はぁ・・・よくわかりませんが、そうします。」
「午前中に着くんだっけ?じゃあ夜までには戻るようにするよ。合図もない、夜になっても戻らない、そんな状況になったら、エルロンドに戻ってテレーズさんの指示を受けなさい。」
「わかりました!」
「よ~し、じゃあ飯食って寝ましょうかね。」
旅って移動が一番疲れるよね・・・・
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ガタガタガタガタ・・・・
「あ~・・・腰痛い。イリス、後であの宝玉頼める?」
「わかりましたわ。乗り物、弱いんですのね。」
「いやぁ・・・馬車なんて乗った事ないからねぇ。こんど乗る時はふかふかの敷物を用意しよう。イリスは平気?」
「聖装衣と法衣がありますので、全く問題ありませんわ。」
ズルい。
「着きましたよー!」
お、ようやくか・・・っていうかこれは・・・・
「樹海?」
「ここから先が「悪夢の森」です。ど、どうかお気をつけて。では!」
ジャック君もう行っちゃったよ。
そりゃ怖いよね・・・俺も一人じゃ絶対入りたくねぇもんこんなトコ・・・・
「『ヴェルスパー』」
ありがとイリス、頼んだの忘れてたわ。それ、懐中電灯代わりに持ってていいですかね?
「さて、では早速、宝を狩りに参りましょう。」
それもうドラゴンを金って言っちゃってるよね?こんな人間味溢れる子だったかなぁ・・・
あ、宝で思い出した。悪夢の森には確か・・・「月光の雫」だっけ?
ついでにうっかり見つけられないかな・・・・・
夫婦で初めてのダンジョン探索・・・果たして先に待つものは・・・・
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