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ん~・・・寝足りない・・・さすがにまだイリスが横にいると、ぐっすりとはいかないな・・・幸せな悩みだけど・・・・
「おはよう、今日も良いお天気ですわよ?」
「おはようイリス。朝食、受け取ってくれたのか、ありがとう。」
「顔を洗ったらいただきましょうか。」
「うん。」
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「「ごちそう様でした。」」
「昨日の夕飯も美味しかったけど、この世界は食事が豊かだよな。前の世界とあんまり変わらない。」
さすがに米はないようだけど、しっかりした洋食といった感じだ。
「そうですわね。お肉も・・・鳥や豚を使っているようですし、どのように仕入れているのかしら。」
豚・・・・オーク肉だったら嫌だなぁ・・・なんとなく・・・・
「その辺も、今度フリックさんに聞いてみようか。」
「ええ。そういえば、今日はどれくらいの予算で買い物をしますの?」
「予算か、う~ん・・・」
昨日の報酬が50万で、カード費で1万、フリックさんに3万、宿で10万5千だったから、残りは35万5千・・・・これからまだ依頼は受けるつもりとはいえ、昼食分や借家のために残す事も考えると・・・・
「15万5千セルくらいの中で必要な物を順次買って行こうか。」
「わかりましたわ、心もとなくなってきたら、また討伐の依頼を受けましょう。」
「うん、イリスに任せっきりで情けない話だけど、頼りにしてるよ。」
「はい。」
今はずっと一緒に行動してるけど、このまま収入をイリスに任せるのもな・・・そのうち1人で依頼を受けてみようか・・・・・探索依頼とかあるみたいだし・・・・
「あなた?そろそろ準備をして、出掛けません事?」
「そうだな、食器を片づけたら、行こうか。」
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「・・・・(わー!ママ!あの人すっごくキレイだねぇ!)」
「・・・・(そうね。でも知らない人に指を差しちゃだめよ?)(・・・うん!」
「・・・・(ウホッ!いい漢!)」
おい、最後のヤツ誰だ。・・・・・
「あなた?着きましたわよ?」
「ここか・・・・」
宿屋の受付のミスタージェントルマンことウィルヘルムさんに服の店を教えてもらい、やって来たが・・・・
「高そ~・・・・・・」
下手すれば予算を使いきってしまいそうな店を紹介されてしまった・・・・元々イリスに使う分は惜しまないつもりだったけれど、これは・・・・
「別の店にしますの?」
「いや、相場もわからないし、ためしに入ってみよう。」
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「らっしゃい!」
店内に入るとまるで魚屋を訪れた時のような粋な挨拶が俺達を出迎えてくれた。おかしい、ドアを間違えたか?・・・・中には中年女性しか見えなかったはずだが・・・・
「おや?あんたたち、もしかして例のとんでも夫婦じゃないのかい!?フリックが言うには旅人らしいが、ウチに来たって事は、手持ちの装備でもボロくなったって所かね。」
「あら、お姉様、フリックさんのお知り合いですの?」
お姉さま・・・・空気の読めるイリスさん・・・さすがでございます・・・
「おうともさ!あそこの嫁さんがお得意様ってヤツでね。フリックにゃ贈り物の相談なんかを受ける間柄さね。」
「そうですのね、品物、拝見してよろしくて?」
「かまわないよ!いくらでも見ていきな!」
勢いにのまれているうちに、物怖じしないイリスは店内を物色しに行ってしまった・・・
っと、俺も俺も・・・・・
「どうも、フリックさんのお知り合いだそうで・・・僕はツヨシ、あちらは妻のイリスです。」
「そうかい!あたしゃアンナってんだ、この「バビロヌ」の店主兼製作者をやってる。怪力亭主なんていうから、どんなオーク野郎かと思えば、ずいぶんな優男じゃあないか。」
オークかよ・・・どんな噂なんだ?・・・・美女と○獣にすらならんわ・・・
「ははは・・・・えっとアンナさん?何やら色々な商品が置いてありますが、こちらは服屋なのですか?」
「正しくは服屋じゃないさね、衣装、装飾、装備、身につける物ならなんでも揃えてるよ。」
なるほど・・・どうりで、剣や鎧なんかも置いてるわけだ。
「兄さんの方は、見たところ丸腰だが、何か入用かい?拳闘士の装備は今は置いてないがね、特注で作成出来るし、作成依頼だけなら割高になるが、素材を持ってきてくれりゃ値段も安くしとくよ?」
つまり鍛冶屋みたいな物か・・姉御肌なのも得心がいった。
「いえ、今日は衣類が欲しくてやって来ましてね、男物女物、両方ありますか?」
「衣類かい?それなら2階に上がって見てくるといい、さっきの嬢ちゃんも上がったみたいだよ?」
確かに、イリスの姿が見当たらない、一人で行っちゃうなんて珍しいな・・・・
「買い物に来てんだ、女なら目の色が変わって当然さね!ほら、行っといで!」
促されて俺も2階へ上がる・・・・・
「・・・すげぇな・・・・」
規模の広いアパレルショップ並みに取り揃えられた衣類を見て驚愕せずにはいられなかった。
「全部作ってるってのか・・・・」
近くのシャツを手に取ってみると、細部まで丁寧に編まれているのがわかる。
「ここは素晴らしいですわ。前世でもこれほど良い出来の物はなかなかお目にかかれません。」
いつのまにか隣にきていたイリスの言葉にも興奮がうかがえる。
「あなた、ここのお店は私達には少し高級ですけれど、私は是非ともここの商品を利用したいですわ。ダメかしら?」
「いや、これからはここに通ってもいいと思う。俺も気に入ったよ。」
「ありがとう、・・・仕事、頑張りませんとね。」
つづくイリスの声に応じようと顔を向けたが、思わず目をそらしてしまった・・・・
なんですか!その最高の笑顔は!可愛いのはいつもだけど!いつもだけど!今日はなんか3割増しくらい輝いてますよ!!
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「ほい、と、男物の上下合わせが3セットに下着が5着。で、女物が赤と黒のカジュアルドレスがそれぞれ1着ずつ、白いワンピース1着・・・・あんた、ほんとにこんなのが欲しいのかい?」
「えぇ、普段着なら動きやすい服のが好みですの。」
「ならいいが・・・女盗賊風衣装が1式、と、あとは・・・・」
盗賊衣装はどうしても、とねだられたので即決だったが・・・
「せっかく教えていただいたのにごめんなさいね?出来上がりしだい、必ず装着しますわ。」
「うん、気長に待とうね・・・」
まさか、上の部分の下着のサイズが無いとは・・・つまりイリスはエルロンド1の巨にゅ・・・
「下に合わせて作っとくよ、まあそんなに時間はかからないさね。支払は後日、上下が揃ってからでいいよ。」
「わかりましたわ。ありがとうございます。」
「いいって事さね!夫婦揃ってご贔屓にしてくれるんだろ?これからもウチをよろしく頼むよ!」
「ええ!もちろんですわ!」
イリスの口数がいつもより多いな・・・この世界に来てから、早めに連れて来れて良かった。
「さて、じゃあ支払だが、全部で12万セルだね。手持ちはあるかい?」
ほっ・・・下着の代金があったら今日の予算超えてたかもしれないな・・・
「大丈夫です。」
「毎度あり。じゃあ下着の代金だが・・・」
「あ、すいません。これから作成されるんですよね?その下着、値段は割高で良いので出来るなら最高品質の物を作っていただきたいのですが・・・・」
「はぁん?・・・兄さん、こんな女神さんみたいな子と新婚で熱々なのはわかるけどね・・・念を押されなくてもそれなりに燃えるヤツを・・・」
「いやいや!そういう意味じゃなくて!イリスには良い物を身に着けて欲しいってだけで!」
「おやそうかい、安心しな!このアンナさんの腕は確かさね!だがそういう事なら・・・今日買ったのは早めに必要なんだろう?なら、次に買い足す時、良い素材を用意しな。なんならあたしが必要な素材を依頼に出しておいてやる。報酬は出ないし代金はいただくが、その代わりに格安の最優先で作ってやる。」
「なるほど、わかりました!よろしくお願いします!」
「はっは、よかったね嬢ちゃん、こいつは良い旦那になるよ?」
「えぇ、存じておりますわ。世界でただ一人の、私の旦那様ですもの。」
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「よし、じゃあ一旦宿に戻って着替えようか。」
「そうですわね・・・ねぇ、昨日は昼食をいただきませんでしたし、着替えた後は食事に行きません事?」
「いいね、それじゃあ午後は街を見てまわろうか。」
「あ、そうだ、服の洗濯はしなくちゃな、イリスの法衣はどうする?」
「こちらはまだ問題ありませんわね、宿に着いたら畳んでおきます。」
「りょーかい。」
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「ふー・・・スッキリ。」
宿に着いてそれぞれ風呂に入り着替えを済ませた。イリスが風呂に入ってる間に洗濯を済ませようと思ったのだが・・・・
・・・「お帰りなさいませ、おや?いかがされましたか?」・・・
・・・「ああ、ウィルヘルムさん、先ほどはありがとうございました。無事買い物ができましたよ。」・・・・
・・・「お役にたてましたら何よりでございます。」・・・
・・・「ところで、これから洗濯場をお借りしたいのですが・・・」・・・
・・・「洗濯でございますか?それでしたら、私共で承りましょう。部屋も綺麗に使っていただいておりますし、奥様を含め、他の従業員にもお優しくしてくださってるとの事でしたので、洗濯程度でしたら、喜んでお引き受けいたします。」・・・・
・・・「いいんですか?それじゃお言葉に甘えさせてもらいます。よろしくお願いします。」・・・
・・・「お任せくださいませ。」・・・
というわけで、今後も洗濯はやって貰える事になった。当分雨の兆しもないとの事で、大体一日で片付くそうだ。あと、ついでにお茶を淹れてもらった。
いい人だなぁウィルヘルムさん・・・いやこの街に来てから知り合う人は全員良い人だ・・・
人生二つ分の運気か、ありがたく恩恵に与ろう。
「あなたー!ショーツを忘れてしまいましたの、こちらに持ってきてくださらない?」
「ブフォッ!・・・あーハイハイ!今行くよー。」
イリスの洗濯物は、ちゃんと本人に出してもらおう・・・
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「お待たせしましたわ。どうかしら?どこかおかしい所はありまして?」
この世界で初の普段着を、イリスがチョイスしたのは・・・
「すっごく、よく似合ってるよ!」
白のワンピースでした!天使かな?・・・いや女神だけど・・・
「もうイメージが付いちゃったからかもしれないけど、イリスは白がよく似合うよね。いやまぁ、似合わない物なんて無さそうだけどさ!」
「あら、妻にお世辞なんて言う物じゃありませんわよ?でも、嬉しいですわ。ありがとう。」
「あなたも似合ってますわよ?いつもより、少しワイルドに見えますわ。」
「あいがとう、冒険者って感じか?これで、少しは街で浮く事も無くなるかな。」
でも本当に・・・服装自体は一般的なのに、貴族のご令嬢とかに見えるんだもんなぁ。
普段の様子を見てるから、慣れてきてたけど、やっぱり凄まじいオーラだわ。
「さて、ではそろそろ出掛けません事?少しお腹が空いてきましたわ。」
「そうだね、じゃあ適当にブラブラしようか。」
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昼食は宿の近くの店で済ませた。
パスタ・・・本当に異世界か?大昔のパリに旅行に来ました、とかじゃないとな?
電気が無い以外、特に支障が無いぞ。
「陽光石」って呼ばれる太陽光を吸収する石とやらを使ってるおかげで夜でも街は明るいしな。
下手すりゃ前世より生活しやすいかもしれん・・・
食後のデートにイリスとブラついていると・・・
「・・・・(急げ!西門だ!)」
「・・・・(前回は3カ月前だぞ!ルルーイエは何をしてるんだ!)」
ん?・・・・
なんか騒がしくなってきたな・・・・・
「何かあったのかしら?」
「ん~・・・。ちょっと野次馬にいってみるか。」
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「お前ら!良かった!兵をまわして探しに行かせようとしてた所だ。」
西門に向う途中、フリックさんとはち合わせた、随分と慌てているようだ。
「まさかこんなにすぐになるとはな・・・・。悪い、早速になっちまったが、お前らの力を貸してもらいてぇ。どうやら西方から魔獣の群れがエルロンドに向かってるそうだ。」
まったく余計な事は言わねぇもんだぜ・・・ぼやくフリックさんだが。
「いいよな?」
「えぇ、そういうお約束でしたもの。(・・・・獣ごときが邪魔を・・・・後悔させてあげますわ・・・・)」
おや?ちょっとご機嫌斜めそう・・・・ここのところ連戦だからかな・・・・
「助かるぜ!なに、防衛戦はこっちも手慣れたもんだ、適当に迎撃してりゃなんとかなる。」
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「状況は!」
「フリック体長!はい、少々数が多いですね・・・ウェアウォルフ、ハイゴブリンの混合隊が200、インセクトナイトが20騎程だそうで・・・魔王の軍勢で間違いないかと・・・」
西門到着後、近くの門兵に状況確認するフリックさん。
「エルロンドを攻めるにしちゃ少ない戦力だが・・・・パッと追い払える数でもねぇな。」
「そうですね・・・隊長?そちらのお二人は?」
「おう!噂の傭兵夫婦よ!強力な助っ人だろ?」
「例の・・・ご協力感謝いたします!」
敬礼する門兵さん、若そうなのにしっかりしてるな。
「しかし、ん~・・・ギルドに応援依頼を要請するか・・・高くつくが城壁を傷めるよりはマシだろ。」
「わかりました、ではテレーズ様に・・・・」
「応援を呼ばれますの?その必要はありませんわよ?」
どこかに行こうとする門兵をイリスが制す。
「どういうこった?まさかお前らがなんとかするってのか?」
「フリックさん、恐らくイリスに任せれば大丈夫だと思いますよ?」
門兵もフリックさんも唖然としている。
そりゃ、こんなどこぞのお嬢様みたいな嫁に丸投げとかね・・・お前じゃねぇのかよ!って思われたらどうしよう・・・・
「いやお前らが強いってのは知ってるがよ・・・ああ、でもBランク依頼を半日で達成しやがったしなぁ・・・・」
「Bランク依頼を!?それほど凄腕でしたか・・・・」
「う~む・・・わかった、おい!今の件をテレーズ様に報告!だが念のため、緊急依頼の準備をしておいてくださるよう要請しておけ!」
「は!」
足早に駆けて行く門兵を尻目に・・・
「よし、とりあえず城壁の上で防衛準備だ!お前らは・・・戦闘の準備を整えてこい!二人ともそんな格好じゃ戦えないだろ?」
「いえ?特に問題は・・・」
「イリス!一回宿に戻って武器と防具を取ってこよう!」
危ない・・・神器の換装を見られるのはな・・・
ただせさえ注目されてるのに・・・これ以上目立つのは・・・なんとなく良くない気がする。
「あなた?・・・ええ、わかりましたわ。」
一端フリックさんと別れ、宿へ向かう途中・・・
「あなた?どうかされましたの?わざわざ戻らなくとも『アルヴィース』・・・聖装衣は神器ですから、すぐに召還装備出来ましてよ?」
「うん、ごめん、なんとなくの勘で悪いんだが、今はまだイリスのその・・・神がかり的な力をおおっぴらに見せちゃいけない気がするんだ。あくまで強い人間の範疇で、出来れば戦闘も派手にしないでほしい、お願いできる?」
「ええ・・・あなたがそうおっしゃるなら、私に異存はございませんわ。では・・・『グリームニル』でゆっくり時間をかけて・・・・・嬲って差し上げます。」
あれれー・・・
やっぱり今日は不機嫌みたいだ、まいったな・・・・
「わがまま言ってごめん、えっと・・・ほどほどにね?」
瞬殺させてあげたほうが良かったかな・・・
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宿に戻り換装を終え・・・まあ俺はそのままなんだけど・・・
いざ出陣!といったところで・・・
「そのお出で立ち・・・西門の防衛に向かわれるので?」
ウィルヘルムさんに声を掛けられた。
「はい!フリックさんから応援と頼まれまして。」
「左様でございますか・・・ところでお客様、当宿では宿泊費のご返却はいたしかねますので、必ずお戻りいただきますよう、お願い申し上げます。」
激励・・・かな?。
やだ・・・この紳士、カッコいい・・・・
「・・・夕食、疲れがとれそうなメニューを頼みますよ!」
「かしこまりました、いってらっしゃいませ。」
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「む?フリック!彼らが?」
急ぎ城門に戻り城壁の上へ向かうと、見たことのない女性に出迎えられた。気品のあるお嬢様といった感じだが・・・
「は!」
「ん・・・お初お目にかかるわね。この街の領主、テレーズ・エルロンドです。話は聞いています、新婚旅行で訪れたそうだけど・・・厄介事に巻き込んで申し訳ないわね。」
領主様だったか・・・
「初めまして、僕はツヨシ、妻のイリスです。どうかお気になさらず、この街ではよくしていただいておりますので。」
隅々まで見たわけじゃないけど、この街は汚い部分が見当たらない。
きっと良い領主・・・なんだろう。
「そう言ってもらえると助かるわ。腕が立つと聞いているけれど・・・おの様子だと奥方も戦われるの?」
「お初お目にかかりますわ。イリスと申します。ええ、お力になれると思います。」
「・・ご報告!およそ3キロ前方、敵勢出現いたしました!」
「来やがったか・・・まだ万全じゃあねぇんだが・・・」
「では領主様、失礼いたします。あなた?行ってまいりますわ。」
え!ちょ!・・・
言うや否やイリスは城壁から軽やかに飛び降りていった・・・・
「おい!ここ30メートルは超えてんだぞ!!何考えてんだ!!」
慌てて下を覗き込む俺とフリックさん。これにはテレーズ様も茫然です。
二人ともごめんね・・・うちの嫁、たまに行動が読めないんだ・・・争い事が絡むと特に・・・・
「あ~あ・・・イリーーーース!」
「・・・なんですのーーー!」
「気をつけてねーーー!早めに帰っておいでーーーー!!」
「・・・・わかりましたわーーー!」
「・・・・お前の嫁・・・マジですげぇな・・・本当に人間か?」
いいえ、女神です。
「あの・・・奥方は大丈夫なの?というか魔族、ではないのよね?」
「大丈夫だと思います。魔法が使えますが、人間です。」
「そう・・・貴方は行かないの?」
「ええ。かえって邪魔になりますので。」
「そう・・・。」
・・・わー、もうほとんど見えないな・・・足も速いんだね、ハニー・・・・
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なにが起きた・・・・
インセクトナイトは考える・・・いくら考えても見つからない答えを求めて・・・・
いつものように魔王様の命令で人間を狩猟していた・・・ついでに人間の街を適当に破壊して帰還するつもりだった・・・
するとどうだ!その街から上質なメスがたった一人でやってくるじゃないか!
配下の者は皆狂喜した!アレを連れて帰れば魔王様に直接献上出来るに違いない!
褒美に指1本くらいいただけるかもしれない!
捕えろ!捕えろ!なるべく傷をつけないように!
我先にと、200を超える荒ぶる魔獣たちが、極上の獲物を瞬く間に蹂躙する・・・はずだった・・・
「後悔なさい・・・」
戦場に似つかわしくない美しい声・・・魔獣の耳には入らない・・・・
斬!斬!斬!斬!・・・・・・・・
獲物の持つ、光纏う剣の一振りで、数十の魔獣がその命を散らす・・・
はじめの勢いなどとうになく・・・半分以上の同胞が死に絶えた時・・・
自分たちが狩られる側なのだと、魔獣たちははっきりと認識した。
「・・・はぁ・・・飽きましたわ。どれくらい時間をかければいいのかしら・・・一人で戦うのは今後やめましょう。あの人がいないと退屈です。今、戻りますわね、あなた。」
斬!
1騎で人相手なら5人の兵を相手取る屈強のインセクトナイトは・・・身動き一つ取れないまま・・・全騎その意識を失った。
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「も、物見より報告!敵勢、動く者なし!恐らく全滅した物と思われます!」
あ、戻ってきた戻ってきた・・・・ん?なんか行きより早くありませんかね?全力疾走かな?・・・
ダンッ!・・・・スタ・・・。
「お待たせいたしました。戻りましたわ。」
もうね、城壁とか関係ないんですね・・・・目立つなって方が無茶な話かね・・・・
「お疲れ様。じゃ!俺達はこれで・・・・」
もろもろドン引きしてる今がチャンス!・・・・
「待ちなさい!帰るな!手荒な真似はしないから!これからわたしの執務室に来なさい!」
くッ!もう復活とは領主様・・・なかなかやるじゃない・・・・
「?」
イリス・・・きょとんとしてる所も最高に可愛いよ・・・・・
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「なるほどね・・・信じられない話ではあるけれど、納得はいくわ・・・・そう、戦いの女神なのね・・・」
この世界の人は理解が早くて助かるね。普通もっと混乱しない?いや当事者の俺達が言える事じゃないけどさ。
「そして貴方は天運を持っている、と・・・・何その称号、頭おかしいんじゃないの?」
うるさいな・・・結構便利なんだぞ?ってか意外と失礼だな、猫かぶってたのか?このツンデレ領主(仮)、その金髪ツインテール引っこ抜くぞ。
「夫婦って事自体信じられなかったけど、その称号じゃあね・・・なんの文句も言えないわ。」
「ふふ・・・。」
嬉しそうなイリスさん。軽いドヤ顔も美しい。
「うん、でも良かったわ!最初に訪れたのがこの街だったなんて、貴方達がいなかったら今回の件で街に被害が出てたかもしれない。領主として、お礼を言うわ。」
「いえいえ、お役に立てて何よりです。」
「貴方は特に何もしていないじゃないの・・・いずれにせよ、領主権限で何か褒美を出します。」
しょうがないだろ!運て、パッと使えるもんじゃないんだよ!
「褒美・・・ですの?あなた、どうします?」
「え?ああうん・・・俺としては、この街でしばらく普通に暮らせればそれでいいかなって思ってるし、特別欲しいもの・・・・家とか?」
「家?そっか、宿暮らしって報告だったっけ・・・というか、貴方達このまま街に留まってくれるの?」
「そのつもりですよ。目的があるわけじゃありませんしね。」
「そう・・・・(こっちからお願いしようと思ってたのに)。わかったわ!では、屋敷を提供します。豪邸とはいかないけれど、新婚の新居なのだからそれなりの所を用意するわ!」
気前のいい・・・ツンデレ領主、ありがたや・・・・
「(魔王の軍勢・・・おとなしくしてるのは理由があると思っていたけれど・・・この状況で強力な戦力は貴重だもの。今、この二人は手放せないわ。)」
屋敷は数日中に用意してもらるって事で、話は終わった。
なかなかゆっくりしてる時間がないな・・・さすがに疲れてきた。
明日は宿でダラダラしようって言ったら怒るかな?イリス・・・・
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「ほう・・・インセクトナイトの尖兵が、か・・・」
「は!エルロンドを攻める旨の報告以来、音信が途絶えております。」
「尖兵とはいえ、妾の兵を・・・・くくく、エルロンドか・・・・計画通り事が運んだ暁には、一息に攻め落とし、妾自ら、あの小娘を家畜にしてくれよう・・・あは!ははは・・・はーっはっはっはっは。」
月夜に照らされる魔城ベベルスブルグ、その頂の間にて、魔族の頂点たるこの女帝は高らかに笑う。人間狩りにて捕えられた、見目麗しい青年を足蹴に、今宵も人間殲滅の夢を見て。
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