プロローグ
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「ねえ!おばあちゃん!」
「うん?・・なぁに?」
木漏れ日のさすテラス、可愛い孫と和やかにお茶を飲んでいると、こんな質問をされた。
「わたしのおじいちゃんはどんな人だったの?」
「そうね、おじいちゃんが死んだとき、おまえはまだ赤ちゃんだったものね・・・」
「うん・・・おじいちゃんは優しかった?かっこよかった?」
「優しくて、どこにでもいる普通の人よ。それでも世界で一番格好良い人だったわ・・・でもどうして急に?」
「ママがね?戦女神イリスと天運皇の絵本を買ってくれたの!」
「イリスがおばあちゃんの事だったなんてわたし全然知らなかったのよ?」
「だから聞かせて?おじいちゃんの事!どんな出会いだったとか!」
「そう、あの子にも困ったものね・・・えぇいいわ、私も大好きなお話ですもの。最初はね・・・・・・・・・・・」
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「おめでとう!!!キリウ・ツヨシ君!あなたの人生はこれでおしまいDEATH!!!!!!」
何もない白い空間、意識した時にすでにいた目の前の男?の第一声は内容はともかくとても元気なものだった。っていうかローブで顔とか見えないんだけど人間か?これ。
「はあ・・・え、俺死んだの?なんで?てかお前誰だよ。」
「ほっほ、思った通りありきたりなセリフをどうも。私はまあ・・・いわゆる神というものですよ。人々の願い!希望!それを叶えんがために生まれましたね、はい。」
声にエコーがかかってるし、人じゃあなさそうだ。希望の顕現にしちゃ夢のない外見だこって。
「ふ~ん・・・まあ現実感のないトコだし、なんとなく理解したわ。それで、多分俺は死んだんだと思うけど・・・記憶が曖昧でよくわからねぇ。」
「えぇえぇ、そうでしょうとも、お察しのとおり、お亡くなりになりましたよ。工事現場から偶然飛んできた瓦礫が頭に直撃してね!」
不運、圧倒的不運。相変わらず無駄なヒキしやがって俺の運・・・しかしなんでコイツはこんなにテンションが高いんだよ・・・死んでるんだぞこっちは。
「そう、あなたは幸運が極端に少ない星の下に生まれてきてしまった。これは偶然。その少ない運を消費して生き延びた。しかし、それも底をついてしまったのでしょう。20歳までよく生きてこれたものです。おつかれ様でした!」
うるさいよ・・・わかってたよ、てめぇに愛されてなかったことくらい。
てかいまさらだけど死んでおめでとうはねえだろうよ。
「わたしの愛は関係ないのですがね・・・まあ苦しい思い出など忘れてしまってよろしい!」
「さあ!では新たな人生といきましょう!ビバ輪廻転生!!」
え・・・・
「は?今死んだばかりだろ?転生って・・・何の話だよ。」
「ほらほら最近流行りではありませんか、異世界転生!」
「わたしは人々の夢を叶える存在です。多くの人が望む来世への希望!勇者、魔王、はたまた神へと至りたい、これこそ今の現代人、ハタチなお年頃の最たる理想となっているのですよ!」
「なんだよそれ・・・いいよ別に、確かに俺の人生は・・・両親が早死にしたり、親戚の家をたらいまわしにされたり、学校でもいじめられたり、女に騙されたり・・・」
「でもそんなの俺だけの話じゃないだろ?楽しくて幸せな事だってあったさ。」
まぁもうちょっと長生きはしたかったけどさ、結婚したり子供とかも欲しかったし。
あ、伯父さん伯母さん悲しんでるかな・・・死ぬ前にお礼くらいしたかった。
「それです。そこなのですよ、何故あなたの前にわたしが現れたのか。」
「それはあなたが人生に絶望しなかったからです。幸運のかけらもなく、時に人を恨み、世界を憎んだでしょう、悲しみにくれた事など数えきれない程に・・・それでもあなたは諦めなかった。希望の未来を信じたでしょう?ならば応えねば、わたしの存在意義がありません。」
「叶えますとも!あなたはあなたの不運な人生を踏破した。これで終わり、救いのない話などわたしは認められません、希望の神として!」
どことなく、うさんくさい教祖っぽいけど・・・
「俺の事を知ってたのか?」
「神ですからね、知らない人間などおりませんが、あなたは生まれからして特別なので、他の方とは少し扱いが違います。似た境遇の方は稀にいますが、みな自ら終わらせてしまうのですよ・・・」
「そういった方々は安らかに眠っていただきます。恐らくそれが本人にとっても一番幸せでしょうからね。」
なるほど、俺の場合はただ忍耐力があったってだけの気もするけど。
「わかった。心残りな事もあるし、乗るよ、転生の話。」
「そうですか!では早速・・・」
「まてまて!心の準備とか・・・あ!そうだよ、こういうのって何か特典があるだろ?すんごい能力貰えたりとか!」
異世界転生くらい知ってる。大学の講義の間とか読んだりしてたし、ゲームなんかも好きなほうだ。せっかくだから次は楽な人生を送りたい!
「おっとそうでしたね、ふむ・・・何かお望みはありますか?大抵の願いは叶えられるはずですが・・・ああ、それとは別にあなたの場合、幸運の値を最大にしてさしあげますよ。生まれは創造の神の領分ですが、転生ならわたしの領分なのでこっそりと調整いたしましょう。」
なんとも至れりつくせり、つまりチート能力二つじゃねえか。騙されてないよな?俺。
「マジか・・・なあ、次の世界ってどんな所なんだ?」
「次の世界ですか?申し訳ありませんが、そこはわからないのですよ、現代日本という事はないでしょうが、まあ如何なる世界でも、運否天賦でなんとかなると思いますよ。特典、いかがいたしますか?」
うーん・・・・・
「じゃあ・・・次の世界では史上最高の嫁さんが欲しい!」
運がなかったんだから仕方ないと思う!でも男なら一度はいたしたかったんだ・・・
「至高の伴侶ですか・・・いいでしょう!」
「しかしよろしいので?あなた自身を完璧な男性にしてしまえば、俗な意見ですが、
女性など引く手数多にする事も可能ですよ?」
「いいよ、俺は俺自身のままで。それに迷ったりしたら相手に失礼だろ?たった一人の運命の相手がいれば、それで満足だよ。」
「そうですか・・・わかりました、では今度こそ!これは希望と愛を紡ぐ物語!輝ける未来を存分にお楽しみあれ!」
眩い光にあたりが包まれる、最後にやっとみせた希望の神の顔は、優しげですごく良い笑顔だった・・・・・ちょっと疑っててごめん・・・・
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「ん・・・・」
目が覚める、というとおかしな表現だが、目の前一面青空だった。
体を起こしあたりを見渡してみたが、どうやら草原的な所にいるらしい。
「ここは・・・異世界・・・だよな?」
こう景色が青と緑だと北海道とか言われても納得してしまう・・・
「うーん・・・人外魔境じゃありませんように・・・頼むぞ俺の運ッ・・・」
突如正面が明るく輝いたので独り言が途中で途切れる。
なんだ?・・・
光がおさまるとそこには女の子が立っていた。
白い肌、流れる銀色の長髪、言葉では言い表せない程に整った顔、深紅に黄金の装飾
を施した鎧を纏い、彼女は現れた。・・・というか降臨した。だって女神かと思ったんだもの。
そして今、その瞳が開かれ、視線が交り合う・・・
「・・・・・・その・・・そんなに見つめられると困るのですけれど・・・」
決まった。理解した。確信した。間違いなく彼女が・・・
「初めまして、旦那様?末長くよろしくお願いいたしますわ。」
「ッ・・は、はい、こちらこそ・・・。」
運命の・・・お嫁さん・・・・
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「では改めまして、私はイリス・リヒトリュンヌ。イリスで構いませんわ。」
「あ・・ああ、俺は、キリウ・ツヨシだ。ツヨシでいい。」
「わかりました。では、自己紹介は道すがら・・・こうしていても仕方ありませんし、どこかに行きませんこと?」
「そう・・だな、とりあえず人気のあるところを探してみようか。」
こうして二人は世界を歩み始める。
苦難など障害にもならない純愛の物語がここに開幕した。
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