第一話「平然と繰り返される日常」
初めてで色々間違いとかあるかもしれませんがよろしくお願いします!
あなたはこんな状況で生きるとしたらどうしますか?
世界から人類が消え、動物達が町を走り回り、荒廃した建造物に炎上する自動車。そんな世界であなたは自殺して人類という存在を抹消しますか? 希望を信じてまだ生き残っている人間を探しますか? それともこのまま自分の知恵だけで生き抜きますか?
それほど方法はありません。ですが人類を救う方法があるとしたらあなたはどう行動するのか気になりますよね?
これは一人の男性が荒れ果てた世界で生き抜いていく物語。
―◇◆◇―
―九州地方、福岡県福岡市。
ある一人の男性が自転車を漕いで走っていた。名前は杉崎開斗。至ってどこにでもいる高校生である。成績はそれなりに良く、運動神経は普通。普通に友達と話し、出された課題は帰った後ではなく次の日の朝の教室で急いでやったりもする。
「あー、今日の課題はめんどくせぇ……」
誰にも聞こえないようにぼそっと愚痴を言う開斗。課題は提出前に出しているとはいえそのほとんどが家ではなく学校だった。しかも今回の課題は学校で終わらせられる量ではないらしい。
「今日はゲームやめて課題を潰そう」
やるはずだったゲームをやめにして課題に取り組む事に専念しようと心の中で誓った。気は進まないが終わらせないと面倒くさいとか。
開斗の家は住宅地の奥にあり、そこから見る海や福岡市は一望できるとても良い場所だ。ただし、帰る時は一苦労する。開斗はその帰り道の坂を自転車を押しながらゆっくりと歩った。
「学校に行く時は楽なんだよなぁこれが」
坂を上り終え家に着いた開斗は背負ってきた鞄をソファの横に放り投げ、テレビの電源をつけた。そして冷蔵庫からキンキンに冷えた500mlのコーラを喉が潤うまで飲み干す。今は夏真っ盛りで毎日の最高気温が30℃以上と真夏日を記録していた。開斗は一息ついたところで放り投げた鞄を持ちながら自分の部屋へ向かう。部屋の中は熱気が想像以上に籠っていてエアコンをフル回転させた後、涼しくなるまで漫画を読んだ。
「……斗ー……ごはんよー……」
微かに母親の声が聞こえた。自分が寝てしまった事に気づいた開斗はハッと目を覚まし、近くにあった目覚まし時計を見た。時刻は夜の七時半、部屋は暗くなっていてさっきまで茜色に染まりかけた空は無数の星が輝く闇夜の空に変わっていた。
やってしまったと心の中で悔いを残した開斗はそのまま階段を降り、母親の元へ向かった。
「開斗。もうちょっとゆっくり食べなさい」
「…あぁでも今日は課題を潰さないといけないから…」
「それはあんたがこの時間まで寝てたのが悪いんでしょ? 自業自得よ」
「うるせ」
食卓に母親と息子の何気ない会話が続いた。父親は遠くの研究所で働いていて今はいない。開斗は茶碗に盛られた白米をたいらげた後に横にあった味噌汁を急いで飲み干そうとした。すると母親からニュースの話題を持ち掛けられた。
「そういえば東京都の山奥で謎の爆発事故が起きて明日で二年が経つのよねぇ……」
「あの事故、未だに原因が解明されてないんでしょ?」
「そうなのよ。結構爆発も大規模で奥多摩町や近くの村がまだ復旧の目処が立っていないらしいわぁ……怖いねぇ…」
そう約二年前に東京都の八丁山の近くで謎の爆発事故が起きていた。爆発の影響で奥多摩町などの町村は壊滅、生き残った人々は指で数えた方が早いとまで言われている。その事故が起きて以来、ニュース番組では毎日報道されていて、ある専門家には言うにはテロリストの犯行じゃないかという説も出ていた。一年経った今でも一週間に一回はこの事故の関連ニュースが出ている。
「ごちそうさま」
「開斗! さぼらずにやりなさいよ!」
「分かってるっつーの」
そんな事など気にせずに晩御飯を食べ終わった開斗は母親に念を押されながら部屋へ戻った。冷房が効きすぎたのか少し寒く感じた開斗は温度設定を少し上昇させ、鞄から筆箱と課題を取って机へ向かった。
―◇◆◇―
小鳥のさえずりが小さく聞こえる。カーテンから陽の光が漏れていて、漏れた光は机で寝ていた開斗を照らした。陽の光で起きた開斗は眠たそうに起きて、目を擦りながら目の前の課題を見下ろした。
「やべっ! やってねっ……って半分やってあったわ……あぶねー…」
やっていないと危機感を持ったが自分が半分やっていた事を思い出して安堵する。半分もやっていれば学校で出来ると思った開斗は即座に行動した。
「おはよう。今日は早いのね、いい心掛けじゃない」
「んまぁ、案外課題が早く終わったし早く起きるのもたまにはいいんじゃないかなっと思って」
開斗より早く起きていた母親は作った朝食をテーブルに置いて開斗に食べさせた。その間に母親は息子と父親の弁当を作り出す。作るといっても中身がほとんど冷凍食品だらけで、この忙しい朝に作る時間などあまりないはずだ。
朝の支度が早く終わった開斗は朝食をゆっくり食べ始めた。まだこの時間なら間に合うと余裕はありそうだ。すると母親が思わず咳込んだ。それにつられて開斗も咳込む。
「何か最近咳が出るのよねぇ…インフルエンザじゃなきゃいいんだけど」
「学校でも咳込む人や熱を出してる人はいるけどインフルエンザじゃないって言って学校に来てる」
「えぇ……それって本当かしら? 普通、休むべきだと思うんだけど」
「インフルエンザの症状にしちゃ軽すぎるって医者に言われたらしい」
ここ最近で風邪が大流行している。普通の風邪による大流行など人類史上初だろう。風邪はウイルス性や細菌性などがあるが、一方で無理した体の部分を良くする為の一時的な調節機能だという人もいる。開斗達もまた軽い風邪を患っていた。食後には薬を毎回飲んでいて、決して良くなったとは思っていない。
「んじゃそろそろ行ってくる」
「いってらっしゃい!」
通常より早い時間で家を出る開斗。母親に見送られ、玄関のそばにある自転車を動かして学校へ向かった。行く時だけ楽な坂道をブレーキを少しずつかけながら降りていく。朝といっても気温は高く、少し汗が出るような暑さだった。坂道を降りる時はさぞかしいい気分だろう。
交差点の信号機に捕まるも開斗には余裕があった。通常なら信号機に捕まったらあたふたして遅れないか緊迫しているのだが、今の開斗にそんなことなど一切感じないだろう。道路は通勤する人の車が多く、時折渋滞している。今日は珍しく渋滞はしておらず、比較的空いていた。
やがて歩道の信号機が青くなり、自転車を漕ぎ始める。しかしその時に――――
「ん?」
車のブレーキ音が聞こえた。流石に大きかったので音のした方向に振り向くと、自分の方向へ暴走したトラックがこちらへ猛スピードで走ってきた。開斗はこの瞬間がスローモーションの様にゆっくりと感じた。頭の中ではまだ課題や友達の事を考えているだろう。自分は轢かれると分かった瞬間には――――
――――もう遅かった。