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春過ぎて  作者: 菊郎
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序章



 後ろに流した黒い髪が小刻みに揺れる。豪快なエンジン音を立てながら進む車は、俺たちを粛々と運んでいた。鉄の嵐が吹きすさぶ、最悪の晴れ舞台へ。


「隊長、車酔いか?」


 向かい側に座っているヴィクスが話しかけてきた。天井に当たって不規則に軽い音を発している長大な狙撃銃を、左手で優しく撫でている。薄暗い車内で、スコープがわずかな光を反射して光っていた。


「いや、違う。この後のことを考えてたんだ」


「心配するな。何かあっても私がフォローする」


 実戦なら経験している。だが、今回は“状況”が違う。果たしてうまく動けるかどうか、不安が頭を離れなかった。今回の戦いが、ガリムとの戦争の趨勢を大きく左右するのは間違いない。

 重い。あまりに重すぎる責任だった。


「私“たち”だろ? おっさん」

 

 俺の隣に座っていたラーヴィが口を開いた。相変わらず威勢のいいことだ。


「ロイ、俺たちならやれる。この力があれば」

 

 彼の俺の前に手の平を突き出したかと思うと、思い切り握りしめた。


「力み過ぎてやらかすなよ」


「わかってるって」


 車が右に大きく動くと、直後にくぐもった轟音が響く。敵の砲撃だ。戦闘地域に入ったのだ。


「そろそろかしら」


 ヴィクスの左、テンガロンハットを被ったルヴィアがつぶやく。専用の部隊章を拵えるのは、結束力を強めるための有効な手段だが、帽子はいるだろうか。彼女は“常識にある非常識こそ恐怖を呼ぶ”と言っていたが。


『到着まで、あと一分!』


 運転席から勇ましい声が届く。全員、テンガロンハットを被り、各々の武器を握りしめた。俺もひざ下に横たわらせていた二丁の対戦車ライフルを手に取り、マガジンを確認する。心臓が高鳴る。


「デイヴ! 本を読むのはやめろ。もう着くぞ」


 ヴィクスが叫んだ。


『あと三十秒!』


 俺たちは、この国のため怪物になることを決めた。失敗は許されない。


『あと二十秒!』


 敵を殺して、屍の上に見えない道を切り開く。それが、俺たちの役割。


『十秒!』


 コッキングレバーを引き、薬室に銃弾を装填する。全員の顔に緊張が走る。


『ハッチ展開!』


「行くぞ!」


 後部ハッチが勢いよく開いた。暗かった車内に光が差し込み、思わず目を細める。俺の声を合図に、四人が続いた。硝煙と血、死体の臭いが空気に乗って俺の鼻腔をくすぐった。そうだ。これが、俺たちの生きる世界なのだ。


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