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彼と彼女の答え

作者: 七氏野

圭と、綾の、次の日の物語です。

 僕は、彼女の何をわかってあげられたのだろう。彼女の、あんなにも近くにいたのに。昨日のことを思い出すと、まだ胸にしこりが残っているかのように痛みがある。昨日、僕は彼女に告白された。僕が彼女に言った言葉は、正しかったのだろうか。


 あの日の綾は、僕の知らない一面ばかりで、僕は彼女のことを本当に理解していたのか、とずっと考えていた。僕はずっと、綾のことを気の合う友人として、これからもずっと一緒にいられるものだと思っていたのに。僕は何もわかっていなかったのだ。


 小学生のあの時から好きと、彼女は言った。僕が友人として彼女のことを思っていた時間、綾はずっと、ずっと、僕のことを思い続けてくれていたのだろうか。


 僕は、何回彼女を傷つけてしまったのだろう。


 僕の思いは変わらなかった。彼女は僕のかけがえのない友人であって、僕には彼女をそういう風にしか見れない。けれど、このまま、ギクシャクした状態で彼女との別れが来るのは、僕には耐えられない。僕には、彼女が大切な人だから。


 学校に吹く風は心地良いものだった。こんな僕の鬱屈とした感情を、晴れやかなものに変えてくれる、そう思えた。


 綾と何も話せていない。彼女の引っ越しがいつなのかとか、引っ越し先がどこなのかとか、これからも連絡を取り合おうとか、こんなことになっちゃったけれど、ずっと友達でいたいとか……。僕は、綾と話したいことがいっぱいある。まだまだいっぱいあるんだ。


 教室には早くついてしまった。薄暗い教室に、微かに日が差し込んでいる。教室には誰もいなかった。僕は、席に座って、じっくりと深呼吸をした。


 彼女に、僕は、いや、僕から、声をかけるんだ。これ以上、綾を傷つけないためにも。


 ガラッと、扉の開く音がする。振り向いたその先には、一人、ひょっこりとたたずむ綾がいた。目が合うと、彼女はそっと逸らすように右を向く。昨日を境に、僕たちに溝が出来てしまったのか。僕は、そんなことは嫌だ。そっと、丁寧に、真っ直ぐに見つめて、僕は綾に声をかける。


「おはよう、綾」


                    *


 圭は、いつだって優しかった。私は、いつからかそれに甘えていたのかもしれない。小学校の時から、圭は変わっていない。いつも私のことを思ってくれていて、大事にしてくれている。


 あの時、小学生の時助けてくれた圭は、とてもかっこよくて、私の不安を全て拭い去ってくれる、そんな人だった。吊り橋効果とは少し違うかもしれないけれど、私はそういう状況にすぐにやられてしまう、案外単純な人なのかもしれない。けれど、それでも、彼のことをこの何年間もの間ずっと思い続けていた、その思いには変わりなかった。


 いつもは、登校の時に見かける圭に声をかけて、一緒に学校に行く。それが常だった。彼も時間をずらすことはなかったし、かといって一緒に登校しようなんてことは、私たちの口から交わすことはなかった。つくづく、消極的な者同士だと思う。


 だから、今日は、早めに家を出た。彼とちゃんと向き合うためにも、嫌な自分にならないためにも、少し時間が欲しかった。


 学校に吹く風は、少しじめじめしていた。けれどその風は強く吹いて、私の背中を強く押している。


 こんな時間だからか、廊下にも生徒はいなくて、歩いているのは私一人だけだった。でも、それでいい。今の私には、一人になる時間が必要なのだから。


 教室の扉を開ける。教室には微かな日が差し込んでいて、淡く一人の男の子を照らしている。


 圭だ。


 圭が教室で一人、立ち尽くしていた。


 じっと見つめる彼の目を、私はこれ以上見れずに逸らした。なんで、もう少し時間が欲しかったのに、一人でいたかったのに、圭は、自分勝手だよ。もう少し、私に時間を頂戴よ。


 おはよう、綾


 彼の声が響く。優しく、包み込むような声。その声に、私は思い出させられる。


 あの時、彼が私にかけてくれた、大丈夫、という言葉。小学生なのにたくましく、そして優しい声。あの時の純粋な感情がよみがえる。心から救われて、惹かれて、目を見つめた。あの日の記憶。


 私、何もわかっていなかった。振られて終わりじゃない。これからも、私たちは続いていく。これまでの長い時間が、そうさせてくれる。圭は、好きな人ということ以上に、かけがえのない、大切な人なのだから。


 圭、私はまだ、あなたのことが好きみたい。けれど、もう少しだけ、このままでいさせて。消え入るような声で、それでもはっきりと、私は呟く。


「うん、おはよう、圭……」


 ありがとう、そんな気持ちも込めて、私は笑顔を見せる。強く、彼のことを見つめて。


 彼も、そっと微笑んでくれた。


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