シーンNo.9
■二月十四日 夜 岩国総合高校 プレハブ〈シーンNO.9〉
【SE】歩く音。
みちる、校舎の裏にあるプレハブの戸を開ける(【SE】戸を開ける音)。
そこには、朱莉たちをはじめとした、演劇部の部員がいる。
みちる「あかりー」
朱莉 「みっちゃん。おつかれー」
朱莉、みちるのところへ向かう(【SE】歩く音)。
みちる「お疲れ。入れる?」
朱莉 「うん。みんな着替えているよ」
みちる「そっか。(健斗と巧に向かって)入ってもいいってさ」
健斗 「うっス」
巧 「はい」
【SE】靴を脱ぐ音。
【SE】プレハブの中を歩く音。
朱莉 「あれ、ネオは?」
みちる「なんか、用事があるみたい。また一人でやらかさなければいいけど」
朱莉 「ふうん、用事、かあ。(薄笑いで)ふふふ」
みちる「なに気味悪い声だしてんのよ」
朱莉 「いや、ちょっとね。やっぱりアイツのことが。(ネオの行動が分かり、不敵な笑みで)うふふふふふ」
みちる「(怪訝そうに)だからやめてよ、それ。何? 朱莉は、ネオが今どこにいるのか分かんの?」
朱莉 「(自信たっぷりに)ええ。ネオがなんで手作りバレンタインデーを作ろうとしたのか、もね」
みちる「あんたがなんで手作りチョコのことを知ってんのよ」
朱莉 「だって、一緒に作ったし」
健斗 「そうなんスか。でも、そのチョコ、俺と巧がもらいましたけど」
朱莉 「そうなんだ。じゃあ、ネオはどんな風に図書室から出ていった?」
巧 「慌てた感じ、でしたね」
みちる「そうだね。なんか、あたしらに見られたくないような」
健斗 「逃げるように去ったスね」
朱莉 「(嬉しそうに)な・る・ほ・どぉ」
みちる「どうしたのよ、今度は嬉しそうにして。こういう時のあんた、ネオ以上の危険人物なんだから」
朱莉 「失礼ね。でも、これで分かったわ」
健斗 「先輩は、何をしようとしてるんスか?」
朱莉 「それはね(自信を持って)……ズバリ、恋よっ!」
みちる「こ」
健斗 「こ」
巧 「……こ?」
みちる・健斗・巧「こいいっ!?」
健斗 「(何かの冗談だろうと、否定するように)いやいやいや、そんなこと、あるわけねぇっスよ! なあ、巧」
巧 「……お、おう」
健斗 「あのガサツでワガママな殺人ポニテの先輩が恋だなんて、まったく見当もつかないっス! 絶対にありえないっスよ!」
朱莉 「(真っ向から否定するように)いいえ、絶対そうよ! みんなは知らないかもしれないけど、実はネオって中学時代、好きな人がいたのよ」
みちる「マジかよ!?」
健斗 「(絶句するように)うっそ……」
朱莉 「結果的に彼の弱腰な態度に興ざめして、つき合うことはなかったんだけどね。なんせプライドが高いからねえ」
みちる「あ、確かに」
健斗 「完璧主義者っスからね、先輩。曲作りやライブの構成も、納得するまで詰めますから」
朱莉 「基本的に、自分の思い通りならないと気が済まないからねぇ。だからこそ、自分のプライドを折ってまで貫こうとする」
巧 「あ、だから」
朱莉 「だから、アタシらの前で見られたくない。つまり、ツンツンってこと。恥ずかしいから、コソコソとするのよ。まったく、すぐにバレるってのに」
【SE】走る音。
仲須 「(外から)舞永さん、おまたせ!」
みちる「あ、仲須」
仲須 「なんだ、おまえたちもいたのか」
朱莉 「これはちょうどいいところに」
朱莉、仲須の方へと向かう(【SE】歩く音)。
みちる「あ、朱莉?」
朱莉 「ふふん、こうなったら確かめないとね」
みちる「確かめるって?」
朱莉 「ネオの様子よ。目星はついてるし。みっちゃんも付き合う?」
みちる「いや、遠慮しとく。あたしはそういうの、性に合わないから。練習もあるしね」
健斗 「じゃあ、先輩の代わりにオレが」
みちる「(すかさず)ナル男、もう一発受けたい?」
健斗 「(きっぱりと)すいませんっス」
朱莉 「(苦笑いをして)厳しいねぇ。じゃあ、分かったら明日報告するわ。(仲須の方へと顔を向いて)そうちゃん!」
朱莉、プレハブから出る(【SE】外に出る音)。
仲須 「な、何? 俺、話がまったく見えないんだけど」
朱莉、靴を履く(【SE】靴を履く音)。
朱莉 「いいから! とにかく、アタシについてきて!」
朱莉、仲須の手を掴む(【SE】手をつかむ音)。
仲須 「(朱莉に引っ張られて慌てるように)ちょ、舞永さん!?」
朱莉 「全力ダッシュで行くよ! とりゃああああっ!」
【SE】全速力で行く音。
仲須 「うわああああああっ!」
みちる「(走り去っていく二人を見て)……相変わらずだなあ」
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