シーンNo.8
■二月十四日 放課後 岩国総合高校 図書館〈シーンNO.8〉
【SE】扉を開ける音。
健斗 「あ、先輩」
巧 「ネオさん」
みちる「ネオ」
ネオ 「ありゃりゃ、また最後かあ」
【SE】扉を閉める音。
ネオ、3人が座っているところに向かう(【SE】歩く音)。
そして床に荷物を置き、みちるの隣に座る(【SE】荷物を置く音→座る音)。
机を挟んでネオとみちるの向かい側には、健斗と巧が座っている。
ネオ 「うちの担任は話が長すぎよ。服装やら態度やら細かい事ばっかり言って」
みちる「厳しいからねえ、あの先生。授業中にしゃべったらすかさず注意されるわ、怒鳴るわで。教室の窓閉めてんのに、外から冷たい空気が入ってるみたいでさ」
ネオ 「そうそう。他の教室に言ったら全然違うし。だから、地獄先生と一部では呼ばれているみたいよ」
みちる「そ、そうなんだ」
健斗 「うわー、絶対に受けたくないっス、その先生の授業」
ネオ 「それを、ホームルームで毎日毎日受けてるわたしの身にもなってよね。アンタたちも4月になると、そうなるかもしれないよ」
健斗 「い、祈るばかりっス。あ、でもそれだったら、夏は涼しくていいんじゃあ」
ネオ 「(少し怖そうに)いや、地獄よ。灼熱地獄」
健斗 「(怯えている感じで)……うう。納得っス」
みちる「まあ、二年になったら気をつけることだね。じゃあ、ネオ」
ネオ 「そうね。早速、ミーティングを始めま……」
健斗 「(ネオのせりふの最後にかぶせるように)ちょっと待ってくださいっス、先輩!」
ネオ 「な、何よ、いきなり」
健斗 「はいっ!」
ネオ 「何、その手は。(若干、引き気味に)……まさか、週末にあるプレハブライブの締めは、このポーズをやりましょうとかでも言うつもり?」
健斗 「ちがうっスよ! ボケはやめてくださいっス! それとも、本当にないんスか?」
ネオ 「(朝のことを思いだすように)……あ、ああ、それね。(きっぱりと)ない」
健斗 「(冗談だと思っているように)またまたあ、あるんスよね!」
ネオ 「(はっきりと)ないっ!」
【SE】ガーン! という音。
健斗 「(ショックを受けて)そんなあ。(みちるの方に顔を向いて)み、みっちぃ先輩、は?」
みちる「あたし? (しれっと)あたしに渡す趣味はないよ。まっ、仮に男からもらったとしても、はたき落としてやるしね」
健斗 「先輩、鬼っス……」
ネオ 「みっちぃは、自分を女と認めない人じゃないと嫌なんだよね」
みちる「そう。空手をやっていたから、男だと思われてんだよ、あたし。冗談じゃないよ。おネエか!」
ネオ 「(苦笑いして、健斗の方を向いて)と、いうわけだから、なし! (意地悪そうに)残念だねー、ナ・ル・男」
健斗 「(ショックを受けて)な、なんて薄情な人たちなんだ……」
巧 「(健斗の肩に手を置き)……ドンマイ」
健斗 「おまえになぐさめられたくねーよ! てゆーか、ようやく喋るせりふがそれかよ、この大モテ寡黙野郎!」
ネオ・みちる 「(ハッとするように)ええっ!?」
ネオ 「健斗、それ、本当なの!?」
健斗 「うっス! コイツの鞄の中、チョコが入ってるっス」
ネオ 「それは聞き捨てならないわね。みっちぃ!」
みちる「おう! 健斗!」
健斗 「了解っス!」
みちる、向かい側の席にいる巧のところへと向かう。
健斗、羽交い締めして健斗の動きを止める(【SE】動きを抑える音)。
巧 「ちょ、ちょっと、離せ、健斗!」
健斗 「(意地悪そうに)いやだね! (みちるに向かって)先輩!」
みちる「巧、諦めるんだね。それ!」
みちる、巧の足元にある鞄を持ち上げる(【SE】持ち上げる音)。
それを机の上に置く(【SE】鞄をを置いたときの音)。
みちる「(ノリノリに)どれどれ」
みちる、鞄を開ける(【SE】鞄を開ける音)。
みちる「うおっ! (驚愕して)な、なに、これ」
ネオ 「(驚愕して)すごっ! ぎっしり入ってんじゃん」
巧 「(見られたくないものが見られ、ショックを受けて)あう……」
ネオ 「モッテモテになったわねえ、タッくん。お姉さん、嬉しいわぁ」
巧 「(恥ずかしいそうに)あ、はい……」
みちる「(嬉しそうに、巧の背中を叩き)このこのぉ」
巧 「い、痛いです」
ネオ 「やっぱり、ライブでの豹変ぶりが功を奏しているのかな」
健斗 「そーなんスよ! むっっっつりなクセして、女子に囲まれて。朝も昼もここに来る前も、ハイ、ハイ、ハイ、とチョコの嵐! それを俺は、いや、一年男子は指をくわえて見る始末。こんな甘い衝動を、こいつは、こいつは……(突っ伏して泣きべそをかいて)あー、俺も酔いてぇっスよおおおおおおっ!」
健斗、泣いてしまう。
みちる「あらら」
ネオ 「(少しの沈黙のあと、ため息をついて)……仕方ないわねえ」
ネオ、鞄を開いて何かを取り出す(【SE】鞄から取り出す音)。
それを突っ伏して泣きべそをかいている健斗の前に差し出す(【SE】差し出す音)。
みちる「(ネオが差し出したのを確認して)あ、健斗」
健斗 「(鼻をすすり、立っているみちるの方へと顔を向いて)なんスか」
みちる「前」
健斗 「え?」
健斗、目の前にある包装された箱を見つめる。
健斗 「こ、この四角いのは?」
ネオ 「(照れながら)……フン」
健斗 「(涙で潤んだ瞳で)せ、せんぱひぃっ……」
ネオ 「(恥ずかしそうに)別に、アンタのことをどうと思ってないんだからね」
健斗 「(涙ぐんで)ありがどうございばす。うわ――――ん!」
ネオ 「(呆れ口調で)チョコ一つで大げさなんだから。(巧の方へ顔を向けて)はい、タックンにも」
巧 「(照れながら)あ、ありがとうございます」
ネオ 「どういたしまして」
みちる「(意外だと思っているように)へえ、あんたがチョコを渡すなんてね」
ネオ 「わたしも感謝してるってことよ。ちゃんとついてきてくれるから、これはそのお礼よ、お礼。(健斗と巧に向かって)言っとくけど、これ、わたしの手作りだからね」
健斗 「え、マジっスか!?」
ネオ 「そうよ。ちゃんと食べてよね」
健斗 「(包装したチョコを見て)へ、へぇー」
ネオ 「なによ、その声。まさか、やっぱりいらないとか言うんじゃあ」
健斗 「いや、ちがうっス。ただ、びっくりして」
ネオ 「(不快な感じで)わたしが作るのがおかしいっての?」
健斗 「(正直に)だって、みっちぃ先輩が作るのは分かるんですが、ネオ先輩が作るのは……なんか、天地がひっくり返りそうで……」
ネオ 「(甲高い声で)はあああっ!?」
ネオ、思わず立ちがる(【SE】立ち上がる音)。
ネオ 「わ、わたしのどこが天地をひっくり返すのよ!?」
健斗 「だって、先輩がそんなことをするなんて、だれも思わないっスよ!」
ネオ 「(苛立つように)思わない? 思いなさいよ!」
健斗もたまらず立ち上がる(【SE】立ち上がる音)。
健斗 「(強い口調で)できませんって! 一方的でガサツで、音楽以外のことなんてさらさら興味ないし! そんな想像すんのがおかしいっスよ!」
ネオ 「わたしにも女の子らしいところはあるわよ! 失礼にもほどがあるわよ、このナル男!」
健斗 「ネオ先輩だって失礼じゃないっスか! おれはナル男じゃねぇっス!」
ネオ 「はあ? どう見てもナル男じゃない。いい加減、ナルシストだってことを認めなさいよ!」
健斗 「なんだと、この殺人ポニーテール!」
ネオ 「やんのか、こんのアンラッキーナルシ!」
ネオと健斗、睨み合う。
巧 「はじまりましたね」
みちる「(ため息をついて)ようやく仲良くなったと思ったんだけどねぇ」
みちる、手の間接を鳴らす(【SE】関節を鳴らす音)。
そして、睨み合っている二人の間に立つ(【SE】歩く音)。
みちる「(怒って)いい加減に、せんかぁっ!」
みちる、ふたりの額をぶつける(【SE】ゴチーンという、ぶつける音)。
ネオ 「(重い痛みに)いったぁー……」
健斗 「(激痛に)頭が揺れるっス……」
みちる「(二人にご立腹な感じで)ったく、仲良くせんか!」
ネオ 「すいません」
健斗 「ごめんさない」
みちる「それじゃあ、とっととミーティングをするよ」
巧 「(苦笑して)ははは……」
四人はミーティングを行い、今日の予定と今後のスケジュールを話し合う。
話し合いは過熱し、時計の針は気がつけば6時前を差しており、外は真っ暗 になっている。
みちる「もうこんな時間か。そろそろ演劇部の活動が終わるね」
健斗 「じゃあ、続きは、プレハブでやることにしますか?」
ネオ 「そうね。詰めておきたいし」
巧 「分かりました」
みちる「じゃあ、いったん解散して、30分から活動再開ね」
全員 「はい!」
4人はそれぞれの荷物の整理をする。
ネオ 「(小声で)アイツもそろそろ終わっている頃よね……よし!」
【SE】鞄を持つ音。
みちる「ネオ?」
ネオ 「みっちぃ、ごめん! ちょっと用事があるから、先に準備しとって!」
みちる「ちょ、ちょっとネオ!」
ネオ 「だいじょーぶ! 遅刻しないから!」
【SE】扉を開ける音。
【SE】走る音。
健斗 「先輩、何かあったんスか?」
みちる「あたしが訊きたいよ」
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