シーンNo.4
■二月十四日 朝 岩国総合高校 駐輪場〈シーンNO.4〉
【SE】自転車の音。
【SE】自転車のブレーキ音。
【SE】自転車のサイドスタンドを下げる音。
【SE】鞄を開ける音。
ネオ 「(チョコが鞄の中にあるのを確認して)よし、あるわね」
健斗 「なーにがあるんスか?」
ネオ 「(びっくりして、裏声で)ひゃあっ! (後ろを振り返り、心底驚いたように)け、けけけ、けんと! い、いい、いつからいたのよ!?」
健斗 「さっきからおったっスよ」
ネオ 「み、見てないよね?」
健斗 「へ? 何も見てないっスよ」
ネオ 「(問いつめるように)ほんとにほんとにほんとにほんとに?」
健斗 「(何を言っているのか分からないように)ほ、ほんとっスよ! わ、わけがわかんねぇっスよ、先輩」
ネオ 「わけわかんなくて結構よ」
健斗 「は、はあ」
ネオ 「じゃ、わたしは忙しいから。(追い払うように)シッシッ」
健斗 「俺は犬っスか! ちょっと待ってくださいよ、先輩」
ネオ 「(面倒くさそうに)なーに?」
健斗 「(ネオの不機嫌な態度にもしれっと)はい」
ネオ 「なによ、その手」
健斗 「何って、決まってるじゃないっスか! 今日はバレンタインデーっスよ! だーかーら」
ネオ 「(健斗のせりふにすかさず、きっぱりと)ない」
健斗 「(渡すチョコがないことに心底信じらないように)なんででっスか!」
ネオ 「(冷たそうに)アンタのような恩着せがましいナルシストには、渡すものなんてないに決まってんでしょ」
健斗 「(反論するように)俺はナルシストじゃねぇっスよ! (残念そうに)ちぇっ、もらえると思ったのに。あーあ、チョコ、もらえねぇかな」
ネオ 「(長い沈黙の後に)……健斗、まさかアンタ、もらえると思ってんの?」
健斗 「(自信満々に)そりゃそうっスよ! 毎週やってる昼の放送での演奏、放課後に毎月やっているコンサート、そして文化祭に地元のライブフェスへの参加! moment’sでこれだけ活躍したんですよ。俺のドラムさばきとほとばしるアニソンへの熱き魂に、女子たちは心の音色を奏でたに違いないっス!」
ネオ 「(呆れ果てたように)はあ」
健斗 「(ちょっと不快そうに)な、なんスか。その、残念そうな顔は」
ネオ 「(小馬鹿にしたように)いや、アンタって、つくづくおめでたいなあって」
健斗 「あ、そーいうことっスか。(嬉しいけども照れたように)えへへ」
ネオ 「ほめてないんだってば。ほんっと、ナル男なんだから」
健斗 「(イラッとするように)だから、ナル男じゃねぇっス! そのあだ名で呼ぶの、やめてくださいよ。女子たちに勘違いされてしまうんですから」
ネオ 「(健斗の自覚がないところにうんざりしたように)わかったわかった、文句はまた後でね。さっきも言ったけど、今、忙しいんだから」
ネオ、自転車の方へと向き直す。
ネオの足に自転車が強く当たる(【SE】自転車にぶつける音)。
ネオ 「あ」
【SE】自転車が次々と横に倒れる音。
【SE】開いていた鞄から中身が落ちる音。
ネオ 「(ショックを受けたように)ああ――――っ!」
ネオ、その場で崩れ落ちる(【SE】膝が地面に着く音)。
健斗 「(どうしようもない気持ちで)やっちゃいました、ね」
ネオ 「(健斗には聞こえないくらいの声で)せ、せっかく作った、チョコが、入っているのに……」
健斗 「どんまいっス、先輩。(しれっと)じゃ、俺はこれで」
ネオ 「(不意をつかれたように)あ、待て、ナル男!」
【SE】走る音。
健斗 「(逃げながら)すいません! これから巧と会う約束があるので。事故処理は任せますっ!」
ネオ 「こ―――――ら――――っ! (逃げた健斗を見ており、彼が遠くに行った後)……まったく、イイ性格してるんだから。でも、アレが見られなかったから、まあ、いっか。(横転した自転車と散乱した教科書とチョコレートを見て)チョコ、大丈夫かなあ。よいしょっ、と」
【SE】自転車を直す音。
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