表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

一日一度

一日に一度、君を○○○にしたい

※これは続編です、前作を読んでいないなら読むことを推奨します。

 読んだ方も忘れていないか読み返すことを推奨します。

ピリリリリリリリリ……プッ

『……もしもし?』

「やあ、もしもし。相変わらず眠そうだね」

『……成功報告以外聞かんぞ?』

「もちろん成功報告だとも」

『それは良かった。そういえば殴られないと決心つかないようなヘタレだったな。

 振られてたら翌日も登校してねえだろ』

「だから僕はヘタレじゃないと……」

『噂を信じて自分から告白できん奴なんぞへタレで十分だ』


ぐっ、痛いところをついてくるね。

まったく、自分が恋人と上手くやってるからって他人事みたいに。


『残念、他人事だ』

「……声に出てたかい?」

『お前の考えることぐらい電話越しでもわかる。何年の付き合いだと思ってんだ』

「10年くらい、だったかな……?」

『もひとつ残念。それ以上なんだな、これが』

「信じがたいものだね?」

『まったくだ。……で、なんの用だ? 惚けとか言ったら明日殴り飛ばす』

「物騒な……しそうだから困るね。ああ、用事ならあるよ?」

『俺はやると言ったらやるぞ? 彼女の自慢でもしたいのか』

「……当たらずも遠からず。というわけで、夏休みに泊まりに来ないかい?」

『お泊まり会の約束したなら二人きりになってやれよ……』

「悲しいことに彼女と二人きりでいて理性を保つ自信がないね」

『ストッパー係かよ……うんざりだ。俺の彼女も連れてくからな』

「うん、香織なら空気を読んでくれるから歓迎だよ」

『まるで俺が空気読めないみたいじゃねーか』

「そういうわけではないさ。僕たちと君たちのダブルお泊り会だと思えばいい」

『ダブルデートほど軽くねーよ。で、日取りは?』

「夏休み始めの一週間ほどで調整するつもりだけど……」

『よーしわかった。てめーも彼女中心的な考え方だな? おい』

「君もだろう? どうせ暇なんだ、いいじゃないか」

『まーわかったよ。お前の頼みなんだし聞いてやる。これで借り一つな』

「あと4つだね?」

『……そのとーりだよ』

プッ、ツーツー……


よし、これで予防線ははれたね。

明日のことを考えながら、深呼吸をしてからベッドに入る。

明日彼女の了承を取り付けられたら晴れてダブルお泊り会の完成だ。

断られたらどうしよう、などと思うとどうにも寝付けない。

結局、3時間ほどもじもじした後、精神統一をしてやっと眠りについた。

_______________________________________


夏休み初日……最速、というわけではないが、出来れば早く、長く一緒にいたい。

という彼女の要望に応える形でこんな日取りになった。

つまりは、今から彼女が泊まりに来る訳だけれど。


「…………落ち着け!」


いきなりの大声にビクゥ、と体が跳ね上がる。

視線を向けるとそこにはこちらを睨む親友と微笑ましそうに見ているその彼女。

うう、わかったよ。座るから睨まないでくれないか。


「いいか、彼女を家に招いたときはな、堂々とするんだ。

 彼女だって緊張しているんだ、二人してガチガチになってどうする」

「わかっているつもりなんだけどね……」

「つもりじゃダメだろーが。実践しろ、椅子に座って背筋ピーン、だ」


こういうところでは先輩なだけあって頼りになる親友。

でもね、その言葉が君に対してかけた言葉そのものであるのを僕は忘れてないよ。

……ちょうど恋愛心理学の本から抜き出してきたばかりだったしね。


ピンポーン


インターホンの音が鳴り、無意識に時計を見る。

予定時刻きっかり。相変わらず時間には厳しいね。

早く出迎えろ。と言いたげな目で睨まれ、我に返り急いで出迎えに出た。


「あっ、失礼……します」

「ああ、いらっしゃい。さ、早く上がって」


玄関に立つ彼女を見た途端に緊張が抜け落ち、言葉がスラスラと出てくる。

前髪を横に流しているから彼女の緊張した表情がよく見える。

少し、わるいことをしちゃったなぁ。そう思うけどよく考えたら僕のせいではないね。

しょうがない、出たとこ勝負でいこうか。


「おお、ちゃんと彼氏してるねぇ」


リビングのドアを開ければ親友の軽い皮肉が飛んでくる。

予想していなかったであろう第三者の声に彼女が驚いた顔をする。

手を顔の辺りまで上げたり、僕の顔を見上げたりと挙動不審になっている。

二人でいるときは髪を上げて欲しいという僕の要求のことを思い出しているんだろう。

”二人きり”じゃないんだから下ろしてもいいのに混乱して気づいてないみたいだ。

顔を真っ赤にしているのは可愛らしいけれどこれ以上はかわいそうだね。

髪留めを外して前髪を下ろしてあげると、ぴくりと震えて俯いてしまった。


「驚かせてしまいましたか?」


僕よりも早く親友の彼女が声をかける。

その声に反応してはじかれたように顔を上げて、一歩後ずさる彼女。

おそらく、近すぎるのだろう。友達のいなかった彼女にとっては。


「すみません、私は月村つきむら香織かおりです。

少しばかりの縁がありまして、今日この場にいます」

「あ、えっと……篠宮しのみやかなで、です。よろしく、お願い、しま……す」


香織の丁寧な対応に冷静さを取り戻したようだ。

いつもよりもつっかえながらではあるが自己紹介ができている。


「ふむ、俺の名前は千硯ちすずりノアだ。双方ともに不本意ながら雪弥ゆきやの親友だ。

 あと香織は俺の恋人だからこの場にいる。そんなとこだ、よろしくな」

「……? あ、はい……」


双方ともに不本意ながら……ねぇ。確かに不本意ではあるけど代え難い親友だね。

流石にそれをいきなり言われて理解する余裕はないのか返答に手間取ったようだ。


「まぁ、僕の友人二人ってこと。ごめんね、こいつら約束守らないから」


守らない、というかノアは野次馬根性だろうけどね。

奏は気にしてないと言うかのようにふるふると首を横に振った。


「さて、これから何をしようか」

「それは先に考えとけよ」


元はといえば君たちが時間通りに来ないからだけどね。

ノアと香織に言っておいた集合時刻は今から一時間後にしてあった。

その間は二人きりで奏と会話するつもりだったのに、台無しだよ。


「そうですね、まずはご飯にしましょう。お腹もすきましたし」


それは君たちが朝ご飯も惜しんで僕の家に来るからだね。

今は11時だというのに君たちは9時から居座ってたよね。


「ふっふっふ。そんな事もあろうかと弁当持参だ」


ノアはそう言いながら、ドヤァとでも言いそうな顔で自分の持ち物を指し示した。

そんな見事なドヤ顔されてもね。いや、嬉しいけど。反応に困るね。

ただのお泊り会に行くとは思えない大きさのボストンバックを開ける。

その中には、大量の弁当箱やタッパーが詰め込まれていた。

ノアと香織がてきぱきとそれらを広げて机の上に並べていく。

手伝おうかと聞く暇もなく机の上はたくさんの料理で埋められた。


「……お前」

「そんなに怒るなって、100%善意の行動だぜ?」


まぁ、そこまで怒ってはいないけどね。

9時までにこの量を作って持ってくるのにどれだけの労力がかかったのやら。

香織は料理が全くできないからノア一人でやっただろうし。


「いや、友人が手伝ってくれたんでな、お前の思うほどは時間も労力もかかってない」

「相変わらず僕の心を読んでくるね、君は」

「わぁ……すごい……」


奏の目は料理に釘付けで、惜しみない賞賛を送っている。

奏の賞賛はもっともだろう。和洋折衷、いろいろな料理。

見たことのない料理もあるが、そのどれもが美味しそうなのだ。


「さぁ、早く食べましょう!」

「わたし、も……食べたい、な」


早く食べたそうな香織が声を上げると、それに奏も同調する。

奏もお腹がすいているらしく、美味しそうな料理を前にして目がキラキラとしている。


「あぁ、早く食べようか。ノアとその友人が作ったらしいから味も折り紙つきだしね」

「……料理、じょう、ず?」

「ええ、プロ級に上手うまいですよ。きっとビックリします」

「まぁ、食ってからでも感想を聞かせてくれよ。じゃ、いただきます、っと」


ノアのいただきますの後に僕たちもつづいて言う。

近くにあったマッシュポテトを口に運ぶ。じゃがいもの自然な甘みが口に広がる。

バターを多めに使ったのか、バターの風味が隠れて広がってくる。

咀嚼すると、とても細かく切られたベーコンが旨みを付け足しながら喉の奥に消える。


「うーん、相変わらず美味しいね」

「むぐ、ごくん……ええ、最高です」

「美味し、い……です!」


香織は唐揚げ、奏は酢豚を口に運び、どちらも大好評だった。

そんな僕たちに対しノアは、お褒めに預かり恐悦至極。とおどけた返事を返した。




「全部なくなってしまったね」

「今日の晩飯どーすっかなぁ」


机いっぱいに並べられた料理は見事に完食されてしまった。

晩ご飯も同じ量を作るのは確実に無理だよねぇ。

そんな思いをノアと共有しながら小さくため息をついた。

_______________________________________


「にしても、いい彼女じゃないか」


食器についた泡を落としながらノアが言う。


「そうだね、ホント幸せ者だと思うよ」


泡を落としたあとの食器を受け取り手早く布巾で水気を拭き取っていく。


「おいおい、もったいないぐらいだ、くらい言ってくれよ」


水気を拭き取ったあとでカゴの中に並べていく。


「そんなことを言ったら君は怒るじゃないか。

彼女を好きになって、好きになられてるんだ。失礼だからね」


水の中に手を突っ込んだままでノアは笑った。


「ははは、その通りだ。あんないい子なかなかいないぜ、俺の彼女くらいだな。

 だから、ちゃんと幸せにしてやれよー?」


食器を全て並べ終わり、頬を緩めてもちろん、と語気強く返した。

_______________________________________


僕とノアは流し台で食器を洗い、奏と香織はリビングで座ってくつろいでいる。

ん? と思ったら男女平等主義者に怒られるからね、やめておこう。

ちなみに、家事スキルの高さはノアが一番で香織が最下位だよ。

奏はノアの次くらいだけど、僕がくつろいでいるように勧めた。

家主としてじっと座っているわけにもいかないからね。


「さてこれから何をしようか」


そうして食器洗いも安全無事に終わり、何もすることがないことを思い出す。


「ゲームはしないのか?」

「奏が圧倒的なまでに弱い、実力の不均衡だね」


奏はなぜかゲームに弱い。

別に機械に弱いわけではないのだが、ゲームとなると全くダメだ。


「マジか」

「それこそ、ゲームと名の付くもの全般ダメだね。強いて……ノベルゲームはいけるね」

「うぅ……すいま、せん。あ、トラン、プ……とか」

「僕の運がおかしくてね、その上香織は表情が動かない」


昔から運が良くてね、ポーカーはストレートが当たり前だ。

その上、香織はポーカーフェイスが完璧だ。

何回かやってノアが拗ねて以来トランプ系はタブーになっている。


「どうします?」

「どうしようか?」

「どうせ思いつかないだろうし、普通に喋ってるだけでもいいだろう」


そうだね、僕たちはそういうのに疎いもんね。自分で言ってて悲しいよ。

うぅ、友達がいないわけじゃないんだけどなぁ。


「お喋りで決まりですね。出会いについて詳しく聞かせて欲しいですし」

「……ふぇ? わたし、たち、の……です、か?」

「僕も君たちの出会いについて聞いたことがないね」

「これはいい話のネタだな。よし、語り明かそう」


ノアはそう言うといつの間にか用意してあったコップを机の上に出す。

手品のようなその手際に奏が目を丸くし、香織が誇らしげに微笑む

やっぱり、四人で騒がしく、和やかにお喋りするのが、何よりも楽しいかもね。




晩御飯を挟みながらグダグダと他愛もないお喋りを続けていたとき。

ノアがふと時計を見た。


「ん? もう風呂の時間だな」


随分と喋り込んでいたようで、割と遅い時間になっている。

僕としては少し早い時間だが、個人的な事だし止めるのもなんだろう。


「8時、だね。今から入るかい?」

「誰とですか?」


何気なくを装って香織が爆弾を落とした。

一瞬の驚愕の間に香織がニヤリとする。


「俺は香織とだな! お前は奏ちゃんとだろ! な!」


有無を言わさない勢いでノアが詰め寄ってくる。

善意からか、野次馬根性からかは知らないけど、はめられたのは間違いなさそうだね。


「ではノア、行きましょう」

「オッケェーイ。お先ィー!」


え、まだお湯も入れてな――――。

行ってしまった。


「あ、はは……騒が、しい……人たち、だね」

「はは、ごめんね」


とりあえず残された二人で苦笑気味に言葉を交わす。

奏の座っているソファーの隣に腰を下ろす。


「……どう? 僕の友人は」

「良い、人……でも、ね……」


適当な話題を振ろうとして地雷を踏んだ感じがする。

そう言ったきり黙って俯いた彼女の顔を覗きこんで問う。


「友達に、なれそう?」

「うん……大丈夫、だよ」


そう言った途端彼女はいきなり顔を上げた。

僕も驚いて顔を上げる。彼女が僕の顔を見て、目を細める。

まるで睨むような、彼女の初めて見せる表情。

機嫌を損ねたのかと思い謝ろうと口を開きかけた。


「ぁ、えっ。うわっ」


トンっと彼女に胸を押されソファーに倒れこむ。

仰向けの僕の上に彼女が覆いかぶさり、僕と彼女が向かい合うような体勢になった。


「ど、どうしたんだい? いきなり……」

「なん、で……?」

「いや、こっちが聞きた――」

「ず、っと……考え、てた。なん、で……二人じゃ、ない……って」

「――――!」


誰だって、思うだろう。好きな人と二人きりになりたいと。

……あぁ、そうだね。彼女のためだなんて、嘘っぱちだった。

僕は彼女のことを何も考えていないじゃないか。


「わたし、が……! 欲しっい、のは……! 貴方、だけ、なの……!」


顔を真っ赤にして、必死になって絞り出したであろう言葉も、途切れとぎれで。

だからこそ、僕は耐え切れなかった。


「ごめん。本当に、ごめん。僕のわがままで、君を傷つけたんだ」

「いい、よ……貴方、の、考え、る……こと、くらい……分かる」


本当に、最初からわかっていたんだろう。

もしかしたら、僕が友人も来ると伝えた時点で、なんとなくでも。


「だ、けど……遠慮、なんて、いら……ない、よ?」


そう言って彼女は微笑んでくれた。

ほんと、恥ずかしいなぁ。みんな見透かされてるんだから。

軽く苦笑しながら、彼女を抱きしめる。


「また、お泊まり会をしようか。今度は、二人きりで、ね」

「……うん」


二人で顔を見合わせて、照れた笑みを浮かべる。

可愛らしい花のように愛でてあげよう。

幼子のように甘やかしてあげよう。

夫婦のように愛し合おう。

彼女の笑顔を見て、心からそう思った。

_______________________________________


「あまいな……」

「これくらいがイイんじゃないですか」


二人して壁に耳を当てた男女の息遣いが辺りに響く。


「傍目じゃ俺たちもあんなだろうけどな」

「私からするとほんと幸せですよ」


小さな、聞こえているのか疑問なくらいの声量で二人は言葉を交わしている。


「はてさて、これからあいつらを風呂にいれるわけだ」

「これは楽しみですね、人の恋路を見守るのは楽しいものです」


心底楽しいといった風に女はニヤリと笑った。


「しかし、次のお泊まり会とやらは、お預けだろうな」

「イイじゃないですか、学校で会うのが楽しみです」


人の恋路を娯楽にしている男女も付き合い始めの頃は同じようにされていたのだろうか。

その真相は誰もが知っているわけではないだろう。

_______________________________________


ノアと香織が風呂から出てくる頃には僕たちのイチャイチャも終わっていた。

一度も出てこなかったけど、お湯が入るまで脱衣所で待機していたのだろうか?


「さて、次はお前らだな」

「ん? 奏が先に入るかい?」

「逃がしませんよ? 奏ちゃんも乗り気ですし」


まさか、そんなことは……すごい期待の目でこちらを見てるね。

女の子としての慎みだとかいろいろ言いたいけどね、一番言いたいことは。


「僕の理性のことを心配してくれないかい? 割と本気でね」


言ったら余計に期待の視線が強くなったよ。

そうして強くなった数の力に勝てる訳もなく。

なにより奏からお願いされて断れるはずもないわけで。




「まぁ、結局こうなるわけだね」

「……むふー」


奏はすごいご機嫌な様子で体を洗っているし。

よくよく考えたら遠慮は無用と言われていたね。

……だからといってTPOをわきまえない事はしないけれども。

着痩せするのか予想以上に起伏の多い彼女の体をお湯が流れていく。

そしておもむろに僕を見ると小さな笑みを浮かべた。

うん、実に眼福だね。そう思っていると彼女が手招きをする。


「雪弥……背中、流そ……?」


えらく楽しそうだね、僕も嬉しいけれども。

彼女の誘う通りに浴槽から出て椅子に座る。


「すごく、おっきい……ね」

「分かっててやっているね? ほんとに大きくなりそうだよ」

「やらし、い……こと、考えて、るぅ……」


ガタッと椅子から立とうとしたけど肩を抑えられて腰も浮かなかった。

背中に恐る恐るといった感じでスポンジが押し当てられ、ゆっくりと動く。


「どう……?」

「大丈夫、奏の思うとおりでいいよ」


分かったと言うように動きが早くなる。

背中だけでなく肩や脇腹や腕、後ろから抱かれるようにして前の方も。


「いや、前は自分でやるよ?」

「思う、とおり、に……やる、から」


そう言ってまたスポンジを動かし始める。これは一本取られたね。

背中に感じる柔らかさが予想外で、少し理性がやばいかもしれない。

首筋、腹、足と洗っていってスポンジを置いた。

洗い終わったと判断してシャワーの蛇口をひねろうとしたら彼女に制された。


「ま、だ……終わって、ない」


そう言ってまた僕の後ろから抱くように腕を回す。

泡だらけの手がそこをゆっくりと包みこんで刺激を……


「流石にそこはダメだからねっ!!」

「私、の……理性、が、限界……だから」


僕より先にかぁ! この状況でも頑張ってるのに!

抵抗しようとするとボディーソープで滑りが良くなった手で刺激される。

ビクン、と体は素直に反応して予想以上の感覚に腰が砕ける。


「このまま……ね」

「世間一般でこれはぎゃk――――」




「風呂でやるとはなぁ」

「君たちだってやっていただろう」


しっぽりと二回ほど絞られて少し貞操の危機を感じたよ。

彼女がのぼせて三回目の前に倒れてしまったんだけどね。

奏は部屋に寝かせて香織がその看病をしている。

香織なら蒸し返したりはしな……あの人は煽る人だったね。


「なんで知ってんだ?」

「君たちと同じことをやってたからさ」

「出歯亀すんな」

「同じ言葉を君に返してあげるよ」


なんか、今夜で童貞卒業しそうな気がするなぁ。

僕が理性を強く持っていればいいだけだね。

うん、それぐらいできるさ。うん……きっと、おそらく。


「そういえば、僕達と違って本番までやってたね」

「……もういい。寝るぞ」


逃げたね。まぁいいけど。

日も変わりそうだし、もうそろそろ僕も寝るかな……。

そう思い寝室のある二階に上がろうとすると階段の前で声をかけられた。


「ああ、すいません。奏ちゃんの看病をお願いできますか?」

「……いいけどね、なんでだい?」

「そりゃあ、恋人の看病は買ってでもするものですから!」


健康が一番だから買いたくはないけどね。

奏のことが気になるのも事実だったのでそれを了承する。

頑張ってくださいね、との謎の激励を背に受けて一階の和室に向かう。

彼女は布団の上に座り、窓の外を見ていた。

寝巻き替わりの白い着流しを着た彼女はまさに和風のお姫様といった感じだ。


「あ……雪弥」


彼女がこちらに振り向くとそれにともなって黒髪がサラサラと流れた。

窓から入る月明かりが彼女を淡い光で照らし出す。

そんな彼女の姿に見惚れ、先ほどの認識を改める。

彼女の雪のように白い肌と月明かりの流れ落ちる長い黒髪はまるで――――。


「かぐや姫とやらでも、君ほど綺麗ではなかっただろうね」

「ふぇ、いき、なり……なに、を」


彼女の顔が月明かりでわかるほど赤く染まる。

どうにも、理性が脆くなっている気がするね。

僕の顔を見上げて座っている彼女にゆっくりと近づく。

優しげに細められた彼女の金色の瞳が、誘うように僕を見つめる。

その瞳に囚われるように彼女の隣で立ちつくしてしまう。

立ったまま隣にいる僕を疑問に思ったのか小首をかしげる彼女。


「どうか、した……?」

「わかるよね、君に理性の限界が来たんだから。

 僕にも、限界があるってこと」


そう言って膝を折り、彼女にキスをする。

頭を押さえ、逃げられなくして、舌を入れる。

初めてのディープキスに驚いたのかびくりと彼女の体が震える。

逃げられないのをいいことに彼女の口内を蹂躙する。

歯茎を舌でなぞり、彼女の舌を吸い、唾液を交換する。


「んっ……んぅっ、ぷはっ。あ、あぅ」

「そんな無防備にしてたら、遠慮なく襲うよ?」


彼女を布団の上に押し倒し、着流しを脱がせる。

彼女の潤んだ瞳と見つめ合って、僕は確認する。


「いいん、だね……?」

「うん、お願、い……」


彼女の言葉を聞いて、僕の理性は砕けた。




はぁ……。

まさか朝チュンというものをリアルにすることになるとはね。

リビングに行くと、ノアが疲れた顔をして朝ごはんを並べていた。

テーブルにはつやつやとしている満足気な香織がついていた


「ほんと、若いっていいことですねぇ。何回でもできますから」

「勘弁してくれ、7回以上はきつい」

「朝からなんの話をしているんだい、君たちは」


僕が来たのを見計らったように話題を出してきたので発展する前に止める。

まったく、奏が来た時にはしないでくれたまえよ?


「……おは、よう……ございま、す」

「おはようございます。お風呂に入りませんか? 結構取れにくいので気を――」

「ストップだね、一体何のつもりだい?」


不穏な単語が飛び出す前に香織に詰め寄る。

間に合ってないような気もするが奏はわかってないみたいだからセーフだね。


「忠告しようとしただけですよ?」

「とりあえず、とぼけても無駄だからね? ココは休戦といこうじゃないか」

「んー、仕方がありませんね」


明らかに次のことを考えている顔だ。

しかし、とりあえずとはいえ言質はとったので安心して席に戻った。

と思ったら僕の膝の上に奏が乗ってきた。


「どうしたんだい?」

「香織、さんと……何?」


香織と至近距離で内緒話をしていたことに嫉妬しているらしい。

彼女らしくもない強い口調になっている。

何でもないよ。と抱きしめて頭を撫でる。さらさらとした髪が気持ちいい。

それで彼女の機嫌はなおったようで、猫のように手に頭をすり寄せてくる。

ああもう、可愛いなぁ奏は。抱きしめる力を強くして、動きを制限する。

彼女も気づいたのか、顔を赤くし胸元から僕の顔を見上げてくる。

視線が絡み合って、だんだんと距離が近づき――。


「はいはい、朝飯出来てるからなー。さっさと食べろ」

「あ、はい……」

「おっと、すまないね」


そのまま二人の世界に入りそうになったところをノアの言葉で引き戻される。

彼らに振り回されっぱなしな気もするお泊り会だが、いいこともあるんだよね。

彼らを呼んでお泊まり会をすると、朝から美味しいご飯が食べられる事だよ。




特に期限は決めていなかったのだが、一泊二日で皆帰るつもりだったようだ。

ノアや香織は人払いのごとく帰ってもらうのは当然だと思っていたのだけど……。

しかし、奏も着替えがない、ということで今日は帰ることになった。


「アー、なかなか楽しかったぜ」

「ええ、また機会があったら呼んでくださいね」

「はい……! お元気、でっ!」

「ノアの料理だけなら歓迎してあげるよ、またおいで」


軽口を叩きながら帰り支度を終わらせ、玄関に集まる。

奏もなかなか馴染めてきたようで、ぎこちなさはだいぶ薄れた。


「ああ、そうだ。今更だが、せっかく思いついたし言っておくか。

 交際成功おめでとう、化物からの賛辞で悪いがね」

「いきなりどうしたんだい? 普通に言えばいいだろうに」

「ま、たまには言ってみたいこともあるさ。じゃあな、奏ちゃん」

「また、ね……」


いきなり思いつきで喋られるとこちらも困るね。

香織はノアの後ろから何も言わずにお辞儀だけして帰っていった。

家事スキルはマイナスなのだけれどお辞儀だけなら完璧なメイドだね。


「さて、次は何時いつにしようか」

「二人、きり……!」

「ああ、楽しみだね。そうだ、今日は送っていくよ」


ゆっくりと、彼女の隣を歩きながら笑い合う。

まったく、僕は天下一の幸せ者が自負できるね。

そんな僕たちの仲を取り持つように、太陽の光はやわらかく降り注いでいた。

                             Fin

詳しいあとがきは活動報告に書くのでこちらは割愛気味に書きます。

というわけで、続編です。

前作から約3ヶ月経ってますね、作者も前作を忘れ気味です。

回収されない伏線が大量にある回でもあります。

あと、作中で言われている家事スキルは

『ノア>100>奏>雪弥>0>香織』という事です。

感想、誤字脱字、アドヴァイス等、いつでも待ってます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今回も奏ちゃんが可愛いかったです。 続編も楽しみです。またかいてください。
2014/02/03 17:56 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ