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隣のお兄さんは都落ち!  作者: しーご
第1章 都落ちフリーターと女子高生
2/5

女子高生 片岡カナ 18歳

「ねぇカナぁ、お願いがあるんだやどぉ」


私は知ってる。友達のマイがお願いする内容はだいたいがどうでもいい事だという事を。


「どーせ今日の英語の宿題コピーさせてぇ!とかでしょ?いつまでもそんな事やってて大丈夫マイ?私たちあと半年で卒業やで?」


カバンの中から英語のキャンパスノートを取りだしマイに渡すと、マイはありがと!と言ってノートを受け取り笑った。


「ノートもそうなんやけどぉ、実はもう1つお願いあんのぉ。実は4組の佐藤くんのバイト先の人達とコンパあるんですけど、カナにも来て欲しいなーって!」


「え、無理無理。遊ぶ余裕ない。受験勉強とバイト忙しいしー」


私は首を横に降りながら、次の授業で使う国語の教科書をパラパラとめくった。


「ノリ!ノリ悪いよカナ!バイト1日ぐらいいーじゃん!佐藤くんのバイト先の人達ってみんなカッコいいらしいよ!マイの好きな年上の人も来るみたいやしさぁ」


マイはこうなったらなかなか言う事を聞いてくれない。もう中学1年の時からの付き合いだからなんとなく解るんだ。この子の思考と行動わ。


「ってかカナさ、受験生やのにバイトなんで休まんの?勉強とバイト両方やってる受験生なんてなかなかおらんよ?」


間違い無い。そんな事は解っているの。無茶してる事も。流石にこのまま受験を乗り切る事も出来ない。でも今はバイトを辞めれない理由がある。


「……先輩が後2ヶ月で東京に行っちゃうねん。だからそれまでは少しでも会いたいねん……」


マイは大きめの目を細くして、ため息をついた。


「カナまだ諦めてへんの?もうとっくにフられたんやろ?いつまでも引きずっててもしゃーないでぇ?」


言われると思った。マイの言う通り、先月先輩に勇気を出して告白したのだけど、見事に玉砕してしまったのだ。


マイは男子には飢えてる様に見えるけど、中身は男子みたいにサバサバしてる子だった。良い様に言えば切り替えが出来て、前へ進む事を考える。そんな性格だからか男子からは結構人気がある。


「カナはさぁ、美人やしスタイルも良いんやから、もっと遊んだ方が良いと思うで?カナの事気になってる言うてる男子いっぱいおるんやで?前の文化祭の時も山下くんに告られてたやん!」


しまった。マイに説教スイッチが入った。恋の説教するマイの言う事は正論過ぎていつも言い返せない。最終的に私が背中を丸くして謝り続ける流れになってしまう。

その瞬間に次の授業が始まるチャイムが鳴り響き、何とかマイの説教を免れる事が出来た。


私はマイや周りが言う程、美人だとも思わないし、自分にそんなに自信は無い。どっちかというと今まで恋愛とかした事なかったし、解らなかった。でも高校1年の時に働きだしたアルバイト先で出会った先輩に初めて自覚出来る恋をしてしまった。


「先輩と少しでも時間を過ごす為なら、勉強とアルバイト両立させてやる……」


先輩に振られた時から始まった、私の無謀な闘いは、心折れそうになりながらも、苦戦しながらも続いている!!のだ。









アルバイト先は学校の最寄り駅と地元の駅の丁度真ん中の大きい駅ビルにある。その駅ビルには飲食店しか入ってないビルで、レストランビルって呼ばれてる。


私のアルバイトしてる『レストランプラネット』は、ビルの中にある店の中では一番後発に開店した店で、ビル10階から市内の夜景を見ながらオムライスとパスタとワインを楽しむレストラン。女性から人気で雑誌にも掲載された事がある。


「おはようございます先輩!」


オープンキッチンで野菜を切っているのは、私が初めて恋をしたアルバイトの先輩。


筒井マコト


「おはようカナちゃん。今日は予約一杯あるから頑張ってや!」


先輩はこのレストランがオープンした時から働いてるアルバイトで、一番勤務期間が長い。だから店長もキッチンチーフも一番信頼出来るアルバイトスタッフで、キッチンのすべての業務が出来る唯一のスタッフだった。

優しくて面白くて、仕事に真面目で。絵に描いた様なイケメンイタリアンシェフって感じ。先輩のポロシャツと長いサロン姿が私は大好きだった。


「カナちゃん、受験大丈夫なん?バイトしてばっかで勉強してるん?」


先輩と少しでも一緒にいたい……。なんて言う事も出来ず私はガッツポーズだけして水が入ったボットを持ってフロアに出た。


「いらっしゃいませ」


私はこの店が好きだ。

先輩に会えるから、っていうのもあるけど、この店の雰囲気は大好きだった。

薄暗くもないけど、夜景を映えさす照明。静かに流れるジャズの音楽。オープンキッチンで仕込むこだわりのデミグラスソースの匂い。楽しそうに食事をするお客さん。やっぱり忙しいし、たまに爆発しそうになるけど、受験に失敗してもこの店で就職しても良いと思っていた。


「カナちゃん、高校生なのにホンマに頑張ってるよなー。店長も気に入ってるし、受験せんとこの会社に就職したらえーのに。なぁマコト」


「チーフ、ダメっすよ。カナちゃんに手ぇ出したら。犯罪っすよ犯罪」


「アホか。愛があれば未成年とも付き合えるわ。暗黙の了解やんけ」


「チーフ、結婚してますよね?それって完全に暗黙出来んヤツですよね?」


「……マコトも東京のホテルレストランなんか行かんでもうちの会社おればいいのに。新規のレストランなんか滅茶苦茶しんどいで?」


「いや、もう決めたんで。東京で頑張って大阪に店出したいんすよ俺は。小さい店でいいから、このレストランみたいに凄い店をやりたいんすよ」


「そんなもんわざわざ東京いかんでも、うちの会社の新店舗出来たら出来るやんけー。考え直せやー」


「チーフしつこいっす。ってか早くパーティー予約の用意終わらせてください」


オープンキッチンでチーフとマコトさんがケンカしてる……。ってかお客さん見てるから止めにいこう。





22時以降は高校生は働けない法律だ。カナはタイムカードを打刻し、着替えを済ませ、店を出た。


「先輩、お疲れ様でした」


「またねカナちゃん。あんまり無理したらあかんで?」


心配してくれる先輩にニコッと笑顔で会釈した私は、こうして先輩と働く時間も残り少なくなってきている事に寂しさを感じながらも、改めて先輩の事が好きだ!と自覚した。


サラリーマンの人達が溢れ帰る駅のホームを早足で進む。家に向かう電車に飛び乗った私は、カバンから数学の参考書を出し、公式を頭に叩き込んだ。

地元の駅にはどこにでもあるファーストフード店があって、アルバイトの無い日はそこで勉強したりする。たまにマイと二人で先輩の話とか、将来の話をしたりする。寄り道で近所のスーパーマーケットに寄った。このスーパーマーケットは深夜まで営業しているから便利だった。特売で安かったペットボトルのコーラと最近ハマっているチョコフレークを買って、早足で家のマンションに向かった。


マンションのエントランスには気味悪いオブジェが飾ってあって私は小さい時から嫌いだった。何の意味があるのかは高校生になった今でも理解出来ない。エレベーターで7階まで上がり、長い廊下の奥から4番目のドアが私の家だ。

とりあえず帰ったらお風呂に入ろう。上がったらさっき覚えた公式の応用問題をやっちゃおう。今日は2時までには寝たい……。

長い廊下を歩きそんな事を考えると、いつもと違う違和感に気付いた。隣の家の人、確か藤川さん。藤川さんの玄関の前にたくさんの段ボールが山積みになっていた。

何の荷物やろ?引越しするんかな?そういえば藤川さんって息子さんおったけど、何してるんかなー?

まぁいいわ。今は勉強勉強!


無謀な闘いはまだ続いている。気合を入れる意味で私は家のドアを思いっきり開いた。


『ただいま!』








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