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雨乞いの傘

作者: 片栗子

今日は午後から雨が降る。

そんなことを朝テレビで言っていたので、愛用の傘を手に私は街を早歩きで進んでいた。

ブランドものの灰色の傘。

買い物中、目に入ってぼんやり見ていたら、彼がいいと言ってくれたから流されるままに買ってしまった。

ただこのどこかどんよりとした色のこの傘が、私はあまり好きじゃなかった。

雨で街中灰色なのに、傘まで灰色だったら気が沈んでしまう。

そういう日は、パッと晴れやかな色を身にまとって気持ちだけでも明るくなりたい。

でも私に似合っているらしい。

私はこんな色が似あうようなに地味な女なのだろうか。

それを相手に言えずに買ってしまう自分の意思の弱さが情けない。

それはそうと急がないと待ち合わせに遅れてしまう。

その彼にこの月初めの忙しい時期に呼び出された。

昼間の休み時間を割いて会いに行くが、少し顔を合わせたらとんぼ返りしなければいけないほど時間がない。

こっちの都合なんてどうでもいいのだろうか。

私のようすに気付かないなら、思いっきり疲れた顔で会いに行ってやろうかとも思ったが、きっと会えばいつものようにがんばって笑顔をつくってしまうのだろう。

目前の歩行者信号が点滅している。

小走りで急ぎ渡ろうとするも、わずかにおよばず赤になった。

ため息をついて立ち尽くす。

ここの信号はつかまると長い。

その分会う時間が減る。

イライラしてわずかに眉間にしわがよる。

うつむいてその顔を隠そうとすると、手に持っていた灰色の傘が目に入った。

気に入らない灰色の傘。

これを買ったあの日みたいにぼんやりと視界に入ってくる。

心の中で愚痴って気が晴れたせいか、それほど趣味の悪い傘には見えなかった。

それでも灰色の空を誘っているようで、私は傘から目を背けた。

なんとなく重い雲がかかった空をみあげる。

あと少しで降り出しそうだ。

その前に目的地についておきたい。

傘は出来るだけ使いたくなかった。

信号がみどりになる。

私は小走りで横断歩道を渡りはじめた。

それにしても一体どんな用事だろう、とぼんやり思いながら。


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