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走るアレはお嫌いですか?

 教室の扉が並ぶ廊下は人気がなくひっそりとしていた。大抵の学生は部活や帰宅をしており、わずかに残っている学生は自分たちの教室で暇をつぶしているなか


 突然、壁をぶち破かんばかりの悲鳴が聞こえてきた。


 驚いて椅子から落ちてしまった学生が聞く限り20人近くが一斉に上げた悲鳴のようだ。恐る恐る教室から顔を出して廊下を見るといままさに隣から出てくる学生の集団が見えた。

 すっきりとした顔をした者、腰が抜けて両脇から支えられている者、ハイテンションのまま喋り続ける者。彼らを見ても何があったかさっぱりわからない学生。


「なんかあった?こっちまで聞こえてきたけど。」

「ん?ああお前か。ちょっと怪談を…な。さすがオカルト部だ。」

「かいだん?」


 顔見知りを見つけて話かけた学生だったが頭の上に疑問符が浮かんだ。顔見知りは顔を真っ青にしていた。「怪談でそんな怖がるかなぁ?」と、さっきぶつけた後頭部をさすりながら考えていた。






「よっさすがオカルト部部長!怖い話をさせたら学校一!ビリーが逃げるところはちびるかと思ったぜ!」

「……どうしよう。……今日眠れないかも。窓の外なんか見れない……。」

「め、めのまえに。びりー、たたたすけ…ちがう。ぞぞぞぞぞん、なん…て。」

「ただの怪談なのになんでこんな明確な映像が思い浮かぶの?喰らいつかれて飛び散る肉片の鮮やかさまで……。いまなら最恐の漫画が。」




 クラスメートの反応を見ながらため息をつく。確かにさすがと言わざるを得ない。あらすじをあらかじめ知っていてもなおかつ怖かった。そう、怖かったのだが……。


「まさか本当にアレをやるとは。」


 音速を超えるゾンビ。

 カミングスーンとかマジだったんだな。パッと内容を聞くと十人が十人、「B級映画?全く面白そうじゃないんですけどー。それよりイチゼロキュー行こうよー。」とかのたまうだろう。

 しかし実態は怖い。下手に言葉にすることが出来ないが、ただ純粋に怖い。濃縮還元恐怖100パーセントで取扱注意のため危険物取扱免許がいるだろう。


「速く走るゾンビも怖いだろ?」

「……ああ。もう馬鹿にしない。走るゾンビも、正真正銘ゾンビだ。」

「こんなに怖がってくれるとオカルト部冥利に尽きる。緑ヶ丘も大絶賛してくれたしな。それにお前を一か月は弄るネタができた。」

「もうやめてくれ!元カノの話されるだけでこっちはライフ尽きるんだよ!」

「大丈夫だ。1ドットは残るように善処するから。」

「限りなく瀕死!!?」


 持ち物はきあいのはちまきにしようと心に決めた瞬間だった。






「おじゃましまーす。」

「邪魔するなら帰れっ。」

「ひどっ!!」


 長浜は部長と雑談しながらオカルト部の部室に来ていた。部室は綺麗に片づけられていて壁を覆い隠す本棚が一際存在感を放っていた。


「へーこんな風になってんだ。なんだこれ?」

「これはオカルト部が代々定期購読している雑誌、その名も

『世界の七不思議は入口に過ぎないがそれだけでも十分に興味関心の対象であり全ての不思議を解いたとき古代セベレルの大いなる守り神が我らを失われた新大陸へと誘うだろう週刊』だ。」

「意味不明だし長い!」

「略して『ナナフシ週刊』。」

「真ん中がいらない子だ!!セベレルはどうした!?」

「愛読書のことはともかくお前、練習どうした?野球部だろ?」

「んっ。まぁ、思ったより怪談が延びたから今日はサボろうかと思って、さ。」

「……そうか。」

「……えぇっと、これはなに?」

「オカルト部に代々伝わる妖怪の化石だ。河童だとも鬼だとも言われている――」

「マジか!スゲーな。本当にスゲー。鬼とかカッケー!」

「もののレプリカだ。」

「レプリカかよ!」

「そしてこれがかつて陰陽師が使った式神が封じられたお札――」

「おお!!」

「のレプリカだ。」

「またかよ!」

「次はかつて海に沈んだアトランティスで使われていた――」

「どうせレプリカだろ。」

「スマホだ。」

「やたら現代的!!って俺のじゃねーか!!!」

「ふふっ背中がお留守だったぞ。」

「得意がってんじゃねーよ!!!」



「そうですよ。背中ががら空きです。」



「えっ。」


 長浜がゆっくりと後ろを向くとかわいらしい女の子がにっこり笑っていた






「どうもはじめまして。灰森です。よろしくお願いします。」


 部室の中心にある机を囲んで座り三人は喋っていた。灰森はいかにも活発で小さめの体躯のせいか中学生と言われても違和感がないだろう。


「長浜先輩は部長さんと同じクラスなんですか。どうりで仲良く漫才をしてたわけですね。」

「こいつがヒステリックに叫んでるだけだ。」

「休む間もなくボケかますやつが何言ってんだ!!」

「ほらな。」

「ぷっあははははは!おふたりとも面白いです。あっ良かったらこれどうそ。」

「ありがと。おっマドレーヌ手作りじゃん。すごい、灰森さん。」

「そんなことないですよ。部長さんのほうがもっと上手なんですよ。」

「こんなにうまいのに?」

「一応専属パティシエだからな。まだまだ1年には負けるわけにはいけない。」

「冗談じゃなかったのか!?」

「うう~。もっともっと頑張って絶対部長さんをうならせるのを作ってあげますから!!」

「わかった。楽しみにしておこう。」

「上から目線ですね!?女子のプライドとして負けてられません!!胃袋を掴んで後悔させてあげます!!」

「……ここオカルト部だよな?」

「何言ってんだ。」

「何言ってるんですか。」


「オカルト部に決まってるだろ。」

「オカルト部に決まってます。」


「うそつけ!!会話だけ聞いたら家庭科部だろ!?」

「ウチの学校に家庭科部はないぞ。あるのは服飾部だ。」

「えっ!なかったんですか?」

「知らなかったのか、灰森?去年なくなったんだ。」

「そうそう突然廃部宣言をして服飾部に名前を変えたんだっけ。たまに作った料理を運動部におすそわけしてくれたんだけど、それ以来料理は全くやってないんだよな。なんでだろ?」

「もしかして部長さん……。」

「そういえば廃部する少し前にちょっと調理室を借りて菓子焼いたな。作り過ぎたんでお礼に家庭科部にあげたな。」

「ああ。やっぱりそういうことですか。」

「灰森さん、どういうこと?」

「つまりですね。


 家庭科部は自信を失っちゃったんですよ。部長さんのせいで。」


「へっ?」

「部長さん、その時何作ったんですか?」

「シュークリームだ。先代の部長の大好物で会心の出来だった。」

「…会心の出来ですか…そうですか。」

「どういうこと?」

「いいですか?シュークリームは作るのが難しいんです。慣れないとすぐに潰れてしまうんです。それに部長さんの会心の出来は行列の出来るお店レベルです。家庭科部のみなさんが全員食べたとしたら……。」

「オカルト部相手に負けて、プライドなんてへし折られて粉みじんになる…か。」

「はい。」

「……なんてことだ。なんてことをしてくれたんだ!部長!おまえの、お前のせいで!!


何十人の運動部員が涙をのんだかわかっているのか!!!」


「?」


「男臭い運動部に来て、差し入れまでしてくれる女子たち。


家庭科部は俺たち運動部員の天使だったんだよ!!!

こころのオアシスだったんだよ!!!

そんな男たちの純情をお前は踏みにじったんだよ!!!」


長浜は一息でまくしたてると泣き始めた。気のせいか涙のなかには赤いものが混じっていた。

一方、怒りをぶつけられた部長は、


「今日のは焼き加減が絶妙だ。腕を上げたな、灰森。」


 呑気にマドレーヌを食べていた。


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