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自殺少女とその後

「うわあああああああああああああああ!!!」

「うわあ、大声出すな。驚くだろう。」

「怖い話するからだろ!!しかも、驚いてないだろ!!うわあってなんだ!?うわあって!!」

「怖い話しろと言ったのはそっちじゃないか。」

「安心させてからの一言落ちとかもっともこえーよ!!」

「上げて落とすは常套手段だからな。ああ、でも緊張しなくなってからだから、緩ませて伸ばすか。そっちのほうが驚いたとき背が伸びるししっくりくる、うん。」

「うん、じゃねーよ!!まだこっちとら心臓バクバクしてるわっ。」

「心臓とめたほうがいいか?」

「なにもすんな!!ただの愚痴だから!!」


 さっきまでとは違った恐怖を浮かべる相手にわけわからんとジェスチャーする。本場ものとくらべても遜色ない完璧な肩すくませだったが、溜息をつかれた。本当にわけわからん。


「楽しそうなことしてるね。男2人で猥談?」


 凛とした声に振り向くといかにも優等生然とした女子が立っていた。

 見た目に反して竹を割ったような性格で絶大的な支持を受けているウチのクラスのクラス会長だ。名前は確か……なんだっけ?


「屋上の端まで聞こえてきたんだけど、長浜の悲鳴が。」

「それでなんで猥談してる発想になるんですか、緑ヶ丘さん。」


 そうだ、彼女は緑ヶ丘だ。名字だけでもフルネーム並みに長いからみんな会長とか緑さんとか呼ぶから忘れてた。ちなみに俺はなんと呼ばれているかと言うと、


「部長が怪談?」

「もとはといえば緑さんがレクリエーションで百物語をやりますって宣言したからで。」

「そうだ。そのせいでこうやって長浜に怪談を聞かせるはめになった。」

「いやそうにすんな!さっきまで嬉々として喋ってたのはどこのどいつだ!?」

「ゲルマン民族?」

「素直にドイツ人って言えよ!!」

「ドイツ人。」

「緑さんが言ってどうすんだ!!」

「あははっ、まあ落ち着いて。そういうことなら私も参加しようか。」

「「えっ。」」

「ハッピーアイスクリーム!ということでアイスおごって。取調室に出てくるカツ丼でも可。」

「だからなんで緑さんが言うんだよ!?」








 あるクラスにひとりの女生徒がいた。

 彼女はいじめられており、いじめている女子グループのリーダー格はすぐにひとを見下す性格でありそれを当然のことだと思っていた。クラスの他の人たちも関係ないと見て見ぬフリをするので女子グループの行動は日に日にエスカレートしていった。


 ある日、女生徒が家に帰ると母親が怒りとも悲しみとも区別のつかない表情で居間に座っていた。考え込むようにしている母親に何かあったのか聞くと、


「私に隠していることあるの?」


 女生徒は言葉を失った。

 母親は娘が犯罪に手を染めていると疑っていた。詳しく聞くとそういう噂が流れているらしく、近隣の全てに広まっていた。なかには言葉にするのもはばかられるようなものまであった。もちろんどれも身に覚えないものばかりであった。



 数日後、女生徒は自殺した。



 学校に居場所がなかった彼女がただひとつ心休まる場所は自宅であった。しかし、根も葉もない噂により家族は腫物を扱うように彼女と接するようになっていた。最後に残っていた安全地帯をも失った女生徒は人気のない場所で飛び降りたのだ。


 女生徒をいじめていた女子グループは最初こそ気にしていたが、リーダー格の女子が「自殺なんて馬鹿ね。」と言い出したのきっかけに女生徒の悪口を口々に言い放ち、最後には女生徒のことを忘れることにした。女生徒の噂を捏造したのが自分たちだということも。


 女生徒の葬式が終わり数か月後。

 彼女なんて最初からいなかったように学校の教室には変わりがなかった。あの女子グループも変わりなく事あるごとに集まってはしゃべったり、寄り道をしたりしていた。


 そんなある日、女子グループのひとりが学校を休んだ。二日後、彼女は学校には来たが表情がどことなく暗かった。何かあったか聞いても、


「……ただの風邪だから、そうただの……。」


 としか言わなかった。

 それから女子グループのなかでは彼女と同じように休んで口数が少なくなり暗くなる者がひとりふたりと出始めた。2週間が経ったころには学校を休まなかったのはリーダー格の女子だけになっていた。

 リーダー格の女子は自分の近くばかり欠席者が出ていることを不気味に思っていたが、ふと自分の体調が悪くなっていることに気づいた。頭がぼうっとして寒気がする、典型的な風邪の症状であり彼女は安堵した。ただ風邪が流行っていただけだ、と。




「あなたなんだね?私のことを……したのは。


 やっとみつけた。」




 飛び起きるとはあはあと息が荒くなっていた。いまなんか……。

 そうだ、風邪をひいたので自室のベッドで寝てたんだ。起きる直前まで夢を見ていたみたいだけど気分の良いものではなかったことしか覚えていない。喉がからからになっている。

 彼女は水を飲もうとベッド脇の机にあるペットボトルに手を伸ばした。

 と、そのとき自分以外の誰かが部屋にいるような感覚が彼女を捉えた。彼女はサッと部屋を見渡した。しかし、誰もいなかった。


 ああ風邪のせいで気弱になってるんだな、と彼女は自分に言い聞かせるようにいった。ベッドに腰掛けるために姿勢を整えペットボトルのふたを開ける。


「ねぇあなたなんでしょ?」


 彼女は固まった。気のせいではなく確かに声が聞こえてきた。声は彼女と同年代ぐらいの女の声だった。というよりもよく聞いたことがある声だった。


「わたしの嘘の噂をながしたのは。」


 数か月前までは。


「ち、ちがう!わたしじゃない!ながはま…そう、長浜が考えたんだよ!」


 死んだはずの人間に話しかけられる恐怖に彼女は正常な判断能力を失っていた。とっさに自分の罪をなすりつけるために同じグループのひとりの名前を出した。けれど、声は突然笑い出した。楽しくて仕方ないとでも言うように。


「そっかぁ、長浜さんが。ひどいことにするなぁ。」


 声の興味の対象が自分から離れているのを感じて安堵した。これで助かる。しかし、声が立ち去る様子がない。それどころか気配が近づいているような。



「でも、



 嘘つきはもっとひどいなぁ。そうだよね?」



「わたし、ここに来るまでに全員に話を聞いてきたんだ。あなたのところに集まってた全員から。」



「みんなあなたが首謀者って言ってたよ?自分は言われたようにやってただけだって。」



 嘘だ!みんな心底楽しそうにやってたのに。

 いつの間にか床に落ちていたペットボトルから水がこぼれ中身があと少ししか残っていなかった。

 気配が近づき耳元で声が響く。




「だからね。みんなの意見を尊重してあなただけを迎えに来たよ。」





 次の日、彼女が心臓麻痺で死んでいるのが発見された。その顔は恐怖のまま固まっていた。

 念のために彼女とよく一緒にいた者たちに聞き込みが行われたが誰もうつむくばかりで喋らなかった。


 もう彼女のことを忘れたいかのように。








「どうかな?おもしろかった?」

「面白いというより怖いというか……。」

「生きてる人間の裏切り怖い、という話か。」

「その通り。ジャパニーズホラーの定番だからね。さらにいじめ怖いも含んでるんだ。」

「それよりちらっと出た名前が俺と同じだったんだけど。」

「彼女は身長180センチで、特技は親指と人差し指のみでリンゴを潰すこと。近くの男子校の柔道部主将に絶賛片思い中のちょっぴり力の強い乙女って設定が。」

「死に設定にもほどがある!!影すら出てないのに!!」

「ボタン連打しようものなら粉砕だな。良かったじゃないか、TUEEEEE系主人公ともタイマンはれるぞ。ちょっと行って潰されてこい。」

「負けてんじゃねーか!つえーのは長浜であって俺じゃない!!」

「大丈夫、絶対勝てる。わたしが保証する。掛け捨てだとこの死亡保険がお勧めだよ?」

「保障違いだ!!!」


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