姉妹
「次行くか。」
「今度はもっと怖いのを頼む。」
両手を拝むように合わせながら要求する。話すほうは自分の得意分野のせいか、まんざらでもない様子だ。
「任せろ。お前が聞きたくないと懇願するまで話すのをやめない!」
「そこまで求めてねーよ!!てか懇願したらやめてくれるのか?」
「……ふっ。」
「やめる気ねえええええ!!!」
「これはある家族の話だ。」
その家族は父、母、子供たちの4人家族だった。子供は姉妹でとても仲が良くいつも2人一緒だった。両親ともそんな娘たちが微笑ましく庭で遊んでいる2人を見るのが一番の幸せだった。
しかし、平和な日々は突然、終わりを迎える。
父親が仕事で失敗してしまい多額の借金を背負ってしまったのだ。両親は苦心の末、姉妹の片方を父親の姉である叔母のところに預けることにした。2人一緒にいさせてやりたがったが両親も叔母も2人とも育てる余裕はなく、他に頼るあてもなかった。
叔母のところに行くのは姉のほうになった。
別れ際、2人は泣きながら抱き合い、絶対また2人で暮らそうと指切りをした。
「ゆーびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます。」
両親ともその光景を見て泣き出してしまった。
それから数年経った。
父親はなかなかなくならない借金に疲れ、家族に暴力を振るうようになってしまっていた。姉妹が別れたあの日、必ず家族全員で暮らすと誓ったのも忘れ、酒におぼれるようになっていた。
母親はそんな父親に殴られても娘のことを気にかけ約束はきっと果たせると励ました。そのことを聞いた娘は父親に怯えながらも心を強く持ち続けることができた。
あの日までは。
それは突然の訃報だった。叔母が姉妹の姉もろとも事故で亡くなってしまったのだ。
妹は初めての葬式で姉の遺影を見つめていた。それを見て父親は心を入れ替え一生懸命、働き出した。
自分がもっとしっかりしていれば娘たちは幸せに暮らせていたはずだ、と後悔しながら。
妹は葬式の後、しばらくぼーっとしていたが最近はいつになく楽しそうに過ごしている。
理由を聞くと、
「お父さんがいっぱいがんばってるから。」
父親は目を湿らせ、すまないすまない、と何度も言った。
しかし、娘が元気なればなるほど母親が病むようになっていった。よく床に伏せるようになり血色も悪くなっていった。何か心当たりはないかと聞くと無言で頭を横に振った。
言いたくないと表情で語っていた。
父親が家に帰ると娘が遊んでいる声が聞こえてきた。こんな遅くまで起きてるなんて、不思議に思いながら娘のいる部屋に近づくと、
「あははっ、みつかっちゃった。次はこっちのばんだよ。」
急いで扉を開けると娘がひとりでポツンと部屋の真ん中にいた。なにしてるんだ、と聞いた。聞き間違えでなければ確か……。
「かくれんぼ。あっだめだよ、わたしが見つけるまででてきちゃ。」
父親は背中に何か寒いものを感じた。まさか、まさか…うそだろ。
確信めいたものを感じ、後ろを向くと……。
「おねえちゃん。」
そこにいたのは……。
「おしごとがんばってるから帰って来れたんだよ。
お父さん。」
「―――その家族は4人仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし。」
「お決まりの締めに悪意を感じるな。」
「見方を変えれば言葉通りだろ?父親は改心し娘は帰ってきたし、まあ病気の母親はなんとかなるだろう。」
「1人死んでるけどな!人はそれをハッピーエンドとは言わない!」
「お前だって死んでたようなもんだ。あの5月2日はひどかった。」
「もうやめてくれえええ!思い出したくもない!!!」
「やめてくれと懇願しても話すのをやめないと言ったはずだが?」
「この鬼畜が!!!お前には温かい血が流れていないのか!?」
「あいにくそんなものは母親の腹の中に置いてきた。」
「まさかのノーブラッド!?」
「代わりに血管にはコーヒーとコーラが流れている。」
「血が黒いから腹も黒いんだな。なるほどなるほど。」
「ははっほめても血しか出ないぞ。」
「ほめてねーうえにグロいわ!!」