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アパートの階段

照りつける日差しがじりじりと肌を焼くなか、屋上で弁当を食べる男子学生が2人いた。

 片方はどことなく大型動物を連想させる独特な雰囲気を持ち、隣に座る髪を茶髪に染めた男子と比べるといかにも真面目な学生に見える。

 普段、昼休みは混雑する屋上だが暑くなってきたこの頃は人が少なくなっていた。弁当箱にかじりつくよう食べていた茶髪の男子が顔を上げる。


「なあ、知ってるか?」

「知ってるぞ。あのことだろ?」

「おお、さっすがー。さっそくなんだけどお前はどうする?」

「何の話だ?」

「知らねーじゃねぇか!!適当に返事するなっ。」

「お前の失恋話のことじゃないのか?確か、振ったのは彼女のほうだったよな。最後に彼女からジャーマンス」

「やめてくれ!!そのことはもういいじゃないか!!俺はもうあの5月2日を忘れたんだ!」

「……で、何の話だ?」

「……ありがと。お前のそうゆうとこ嫌いじゃない。」

「よせよ。照れるじゃないか。虫唾が走る。」

「今明らかに不穏な文章があったような。」

「大丈夫だ。問題ない。」

「じゃあ話すけど…。今度やるかい」

「一番いいのを頼む。」

「聞く気ねえええええええ!!!会話の腰どころか脳天からぶった切った!!!」

「きみにとっては多分明日のことだ。」

「エルシャごり押しすんな!!」

「さっさと話せよ。1ミリも進んでないぞ。」

「誰のせいだ、誰の!……わかったよ、お前相手に何言っても無駄だし。

今度、クラスでやるレクリエーションのことだよ。ひとりひとつは怪談しなきゃいけないだと、めんどくさいよなぁ。」

「それで俺に助言を求めてきたってわけか。」

「そう、その通り。現オカルト部部長なら怪談のひとつやふたつ、むっつややおよろず簡単だろ?」

「八百万は無理だ。ついでに言うと俺は部長じゃない。部長補佐代理二代目副部長兼特別会計兼オカルト部専属パティシエだ。」

「つ、つっこみどころが多すぎてどうしたらいいかわからない。」

「心配するな。部員は俺しかいない。」

「なら部長でいいじゃん!!!」

「でも、幽霊部員はいるぞ。オカルト部だからな。」

「……うまくねーよ。まあいいや、なんかいいのない?」

「じゃあ適当に話すからそんなかから好きなの選べ。」






 あれはいつのことだったか。とあるアパートに男が住んでいた。

 男は二階に住んでおり、必ず階段を通らなくてはいけなかった。階段は16段あった。


 その日も彼は仕事を終えてアパートに帰ってきていた。いつも通り階段を上って自分の部屋に行こうとした。しかし、仕事が激務だったため体が疲れていてゆっくり上ることにしかできなかった。すると、


「あの大丈夫ですか?」


 後ろから女性が話しかけてきた。彼女もまた二階の住人だった。彼にとっては見知った顔なので安心しながら、疲れていること、そのため階段を上がるのに時間がかかっていることを話した。彼女はそれを聞くと手伝うと申し出てくれた。


「そういえば知っていますか?」


 彼女は彼の背中を押しながら話し始めた。なんでもこの階段はまれに段数が変わるそうだ。昔、このアパートで死んだ人物がその怪現象を起こしているとかいないとか。


「せっかくだから数えてみませんか?今丁度8段目ですから後8段ですね。」


 彼はそれからいち、にー、と数えていき、ろくと言ったとき二階に着いてしまった。彼は驚き慌てふためいた。あわあわと言葉にならない声で彼女に確認しようと後ろを向こうとしたら、


アパート全体に響く彼女の笑い声が聞こえてきた。


それほどまでに大きい声なのに住人どころか大家さんが来る気配もなかった。彼は確信した、彼女こそが件の死んだ人物だと。


「あははははははははははは!!!」


 彼はここから逃げ出すことだけを考えていた。しかし、体が動かない。いつの間にか彼女は彼の背中を支えるのではなくがっちり腕をまわして掴んでいた。決して逃がさないとでも言わんばかりに。

 彼は絶望し全てを諦めようとした。そんな彼の耳にはまだ彼女の声が伝わっていた。




「はははは!!!あーおかしい。驚きすぎですよ。」




 ?

 後ろを振り向くと目に涙を浮かべながら笑っている彼女が見えた。いまだ収まらない笑い声を上げる彼女はただの年相応の女性に見えた。


「私が2段後ろから押してるからずれるのは当たり前ですよ。なのに…はっはははあ!!」


 でも、誰も来ないじゃないかと言ったら大家さん含めて全員お出かけ中だと言って、彼女はまた笑い出した。

 彼は顔を赤くして逃げるように自分の部屋に駆け込んだ。ドアを閉める寸前に、


「かわいかったですよ。」


 と面白そうに言う声が紛れ込んできた。その日、彼が眠れなかったのは言うまでもない。






 数日後、彼は彼女の部屋の前にいた。あの日から彼女のことが忘れられなかったのだ。あの笑い声、あの顔にまた会いたいと思ったのだ。

 インターホンを押しても反応がない。出かけていると思い立ち去ろうとしたとき、


「何してんだい?」


 大家さんがやってきた。ちょっとここの住人と話がしたくて、と目的を話すと大家さんは不思議そうな表情をした。


「おかしいね。


ここには誰も住んでいないのに。」


 彼は絶句した。その後、アパートの住人全員に話を聞いてもそんな女性はいなかったそうだ。さらに、彼女と会ったその日、大家さんは出かけておらず女性の笑い声など聞かなかったらしい。もっと詳しく調べるとあることがわかった。


 彼女こそが件の死んだ人物だったのだ。


 彼は自分の頭がいかれてしまったんじゃないかと考えた。でも、彼女が自分を掴んでいた感覚は間違いなくあった。服越しに感じた柔らかさと温かさは確かだった。


 なにより、驚きのあまり力が抜けてしまった自分を落ちないように支えてくれた彼女だった。




 彼はいまでもそのアパートに住んでいるそうだ。

そして、月に1回、墓参りに行くそうだ。


彼女がいるその場所へ。







「―――という、いい話っぽい終わり。」

「……今の一言で台無しだ。もっと怖いのがいいなぁ。」

「そうか。じゃあZ指定の怖い話でも。」

「怖さの方向性がちげーよ。」

「エログロナンセンスは文学でも認められてるぞ。」

「怪談ってそういうのじゃないだろ!?」

「お前は時速1500キロで走るゾンビが怖くないのか?うわーすごいな。」

「そんな速く走るゾンビはゾンビとは言わん!!」

「走る途中に飛び散る肉片!それを浴びた者はゾンビになってしまう!世界中に広がるバイオハザード!音速を超える恐怖が今、あなたを襲う!カミングスーン!」

「針宇津怒映画か!!」


 茶髪男子の絶叫が屋上に響いたのであった。


怪談は適当です。

どこかで聞いたような気がしてもそれは仕様です。

怪談とか都市伝説って案外似たようなものが多い、ということにして下さい。てかそうだよね?そうだと言ってくれ!

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