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第九話:寝冷え

第九話

 夜、豪雪が酒を飲んでさっさと寝てしまった為に僕と氷柱さんだけが起きていた。まだ十時だし、寝るには早すぎるだろう。

 しかし、氷柱さんは眠たいようで目をこすりながら雪女になるための本を読んでいる。

「熱心ですね」

「…ああ、目的があるからな」

「目的?やっぱり雪女を名乗るためですか」

「いや、私は人間の付けたその名前が気に入らないな」

 僕も人間だから気に入らない人のうちに入っているのだろう。義理がたい性格しているから助けてもらったという恩があるから口には出さないだろうけど。

「雪女になると色々な権利が手に入るんだ」

「権利?」

「そうだ。地下図書館に入ったり、パートナーとの解消を勝手に行えたり、旅するのが自由になったり……あとは雪女として純粋に力が強くなるそうだ」

「へぇー。強くなりたいんですか?」

 そういうと笑われてしまった。

「強くなっても利益なんてないさ。今の時代に力を必要とされているわけではない。私はある雪女を探しているんだ」

「誰ですか?」

「私の母に当たる雪女だ。といっても、顔も名前も何も分からない相手だけどな」

 そういってあくびをひとつ出す。

「母は私を豪雪の家に預け、それっきりだ。どこに行ったのかはわからない。何でも、私より人間の男を選んだらしいがな」

 面白くなさそうに氷柱さんはそう言う。彼女が人間嫌いなのはそれが理由なのだろうか。

「勘違いしないでもらいたいが、私は別に母を人間に取られたから憎んでいるんじゃないぞ」

「え、そ、そうなんですか」

 今まさに考えていた事だからつい動揺してしまう。

「…子供の頃、自称研究者だと言う人間に追い回されたからだ。今あったら確実に氷漬けにしてかき氷にしてやろう。その時はお前に食べさせてやってもいい」

 どんな味がするんだろう…絶対に美味しくないのは確かである。

「ああ、だから豪雪にとって氷柱さんは妹的存在なんですね」

「…あれを姉だと思うのは無理だ」

 何をしているところなのかは知らない、知らないが…枕を何かに見立てて悪戯している。どうせ碌な夢を見ていないのだろう。

「どう言った人なのかわかれば僕も手伝えたんだけどなぁ」

「…要らない心配だな。私と陽太の関係は私が恩を返し終わった時に終わる」

「ま、そうだよね」

 人間が嫌いだって言ってるんだから長い間一緒に生活していても相手にとって負担だろう。何より、こっちに対しても豪雪プラス氷柱さんと言う事で家計的にも精神的にも負担が大きくなっていたりする。

「また気が向いたら氷柱さんの話でもしてよ。じゃ、おやすみ」

「ああ、おやすみ」

 しかし、冷静に考えてみれば両脇を雪女に固められているからこの熱帯夜にもぐっすり眠る事が出来るんだから家計的に負担になっていると思ったのは取り消さなくてはいけない。

 寝ているような、起きているような変な感覚がずっと続いていると部屋の電気が消された。そのまま睡魔に襲われて眠くなり、僕は眠ったのだった。

「……うう、さむっ……」

 体が冷えている事に気づき、目を覚ます。目の前に氷柱さんの顔があった。天井か、豪雪か、氷柱さんかと言う基本的にこの三択の中から選ばれた結果だ。

 だが、彼女とちょっと距離が近すぎる。このまままた眠ってしまうと…どうなるかは容易に想像出来た。でも、寝たいと言う気持ちの方が強かった。


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