第六話:いらっしゃい雪女
第六話
あの後起こった事はそう長くはない。
「…く、陽太の事を考えると…氷柱、あんた陽太に頭下げなさい」
「何故だ」
「下手したら死んじゃってたかもしれないのよ」
「私は人間が一人死のうと別にどうとも思わない」
「はぁっ?」
意外と冷めた人なんだなー…いや、雪女だけどさ。
「だが、彼がいなければ私は死んでいたかもしれない」
「いや、それは…」
「人間に借りを作るのも癪だ。きっちり返しておく」
こうして、僕の家に二人目の雪女さんが『お手伝い』というポジションで入ってきた。
「氷柱と言う。陽太の妹だな」
「え?は、はぁ…そうですけど」
「これから世話になる」
世話をするために入ってきたのに世話になるとはこれいかに。面白くなさそうな顔をして豪雪は僕の隣に座っている。
「あー、ついてない」
「まぁ、しょうがないよ」
そう言うとじとーっとこっちを見てくる豪雪。
「…もしかしてあの乳が良かったから助けたとか?」
「はぁ?」
なるほど、言われてみれば豪雪もそれなりにあるが氷柱さんはその上を行く…って、そんな事を考えている場合ではない。
「僕は胸の大きさで人助けはしないっ」
「へぇ~、言うねぇ…じゃあ女の子で一番最初に見るところってどこ」
そりゃ胸でしょう…とか言ったらへそを曲げるだろうから…顔、も『面食いとか最低』って言われるから駄目だろうなぁ…。
「…お尻かな」
「………あそこまで大きくない…負けてる」
テーブルに突っ伏して息絶える豪雪。とりあえず両手を合わせておいた。
「ねぇお兄ちゃん」
「ん」
「せっかく雪女さんが来てくれたんだから歓迎会してあげようよー」
「んー…そうだねぇ」
その話を聞いてすぐさま不機嫌になる豪雪。
「えー、あたししてもらってないっ」
「…あはは、豪ちゃんあれだけお酒飲めば記憶も飛ぶよね」
「う、そ、そうだったかな…」
大分盛大にやったのだ。父さんと母さんを海外から呼びもどしてまでやったのである。『お兄ちゃんが雪女遭遇記念パーチー』と月子が横断幕まで家の中に飾った。
「私は別にそう言ったものは必要ない」
「こういうのは気持だから。こっちがしたいからするだけだよ。させて、むしろやらせてっ」
「あ、ああ…」
月子の圧倒的なもの言いにあっさりと折れてしまった氷柱さんは承諾したのだった。
「さーて、じゃあ豪ちゃん買い出しだよっ」
無気力症候群の豪雪はクーラーのリモコンをいじりながらそっぽを向いている。
「あたしはパース」
「お酒買ってあげるからついといでー」
「わーい」
この姉ちゃん悪い大人にいつか連れ去られるんじゃないか。
「じゃ、行って来るから」
「いってらっしゃい」
豪雪ともそこまで長い間居るわけでもないので二人になるとどことなく居心地が悪くなる。当然、初対面と行っていいこの氷柱さんと言う人ともそうなるかと思われた。
「正直人間に助けられるとはな」
「あ、そうですか?」
雪女には雪女しかわからないテレパシー的な何があるのだよ、陽太クンと豪雪が言っていたのを思いだす。
「ああ、弱っているところを襲われるかと思ったものだ」
「いや、それはないと…は言いきれないか」
理由はともかく、道にこんな美女が転がっていたら邪な考えをもつ男がお持ち帰りしてしまうかもしれない。相手に恩を着させて家に連れ込み、同居なんて考える頭の中がお花畑の奴もいるかも…世の中怖いのだ。
「まさか同じ奴に二回も助けられるとはな」
「たまたまですよ。ところでなんで海岸に倒れていたんですか」
「……人を探していたんだ。この近くに来ていると言う情報をもらってきたものはいいものの…」
「倒れたんですね」
「ああ、そうして今度は私を助けてくれた人物を探す羽目になった」
口調からするとあまり嬉しくなかったらしい。
「とりあえず、ここを拠点に人探しをさせてもらう。もちろん、人間と言えど借りは作りたくないから私が力になれる事は何でも手伝ってやる」
豪雪より頼もしいかもと思ったのは彼女に内緒にしておこう。




