第四話:寄り道は道連れを伴って
第四話
「…おっかしいなぁ」
雪女の気配がした為、夕飯が終わった後に怪しいと思われる場所へとやってくる。しかし、そこには誰もおらずいたって静かな林道が続いているだけだった。
「気のせいだったのかな―」
基本的に同地区に雪女が滞在することはない。そうならないように事前に申請しなくてはいけない仕組みになっているのだ。基本的に癖のある性格が多いのでかち合うと揉めるのだ。最近の雪女のもめごとは『挨拶が気に食わなかった』だそうで、被害総額として五十万だった。
豪雪が微かに残る気配を頼りに近くの図書館の方へと足を向けるとそこへ一人の雪女が姿を現した。
「……氷柱」
「豪雪か」
なんで頭に何処かで見たような熱を取るシートが貼ってあるんだと豪雪は考えつつ警戒を怠らない。頭にあのシートを貼っていると言う事は弱っているか、力を温存するために付けているのかのどちらかである。
「なんであんたが此処に居るの」
「それは決まっている。雪女になるためだ」
「人間嫌いでしょ、あんた。人間が付けた名前よ」
「嫌いだとしても、雪女は雪女だ。誉れ高い事に変わりはない」
睨みあいだけであたりの温度はあっという間に氷点下を迎える。木々にとっては迷惑であり、人間がそこに居れば『超涼しい…さむっ』と言っていた事だろう。
「そもそもなーんでこんなところに居るのよ」
「今は人をさがしている」
「人?」
「…まぁ、いい。どうせお前には関係のない事だ」
「何それ」
「精々人間に尻尾でも振っておくがいいさ」
それだけ言うと氷柱は何をするでもなく豪雪に背中を見せる。てっきりやり合うとばかり思っていた豪雪は日ごろの訓練の成果を見せられなかった為、地団太を踏む。
「あー、くそぅっ、氷柱の『え、マジで?』的な驚き顔がみたかったのにーっ」
―――――――
集中の特訓が終わった豪雪は今日もご機嫌である。
「夏と言えばっ」
人差し指を高々と上げて僕に尋ねてくるその姿は雪女と言うより夏の化身に見えた。
「暑い」
「そう、海だよねっ」
「僕海嫌い」
「でも泳げなくても夏には、海にはもっと楽しい事があるのさっ」
「別に泳げないわけじゃない人ゴミが嫌なだけだよ」
ようやく豪雪のテンションが下がったらしい。
「ノリ悪―い」
雪女が海に言ったらどうなるか容易に想像できるのは僕だけじゃないはずだ。
「溶けちゃうでしょ」
「だい、じょー…ぶいっ。今は陽太がいるから何の問題もない」
「なんで僕がいれば大丈夫なのさ」
「知りたい?知りたいよねぇ?知りたがるのは当然の事さっ。それはねっ…」
「…いや、いい。海に行こうか」
「ひゃっほーいっ海だーっ」
こうして僕と豪雪は海に向かう事になったのだった。
着いた後に言うのはちょっと遅いか。考えてみればまだ二週間も時間を共にしていない相手と海に行くなんて、しかもたった二人で行くなんて色々と間違っていると思うんだ。
「海があたしを呼んでいるっ」
白いビキニのお姉さんはそういって砂浜を駆けていった。良い子のみんな、海に入る前にはちゃんと運動しようね。
「…どう水着のあたしは…っていわれなくてよかったなぁ」
追いかけていってもする事がないだろう…しかし、海に来て泳がないなんて間違っていると僕は思うんだ。
「思ったより人も少ない……ん」
人から隠れるようにして一人の女性がうつぶせで倒れていた。まさか背中を焼いていると言うわけでもあるまい、彼女は真っ白な着物を着たまま倒れていたのだ。
「どっかで見たことある光景だ…」
近づいて顔を拝んでみるとどうやら同じ人のようである。
「あのー…大丈夫ですか」
「……はぁ…はぁ…」
そして不謹慎ながら僕は雪女が倒れた時必要な物をもってきており、使う機会がきたっと思っていたりする。
早速倒れていた人を日陰まで連れてくるとクーラーボックスから氷枕を三つ、冷却用スプレーを二本、団扇、小型扇風機など等を取り出して倒れた雪女さんを全力で復帰させるよう頑張ってみる。
開始から三十秒後、思ったより早く相手は復活したのだった。
「何者だっ」
「ぶっ…」
そして、氷枕を思い切り投げつけられた。ま、雪女が直接的に殴ってもそんなに痛くないから投げられても痛くないんだけどさ。
「…あなたが倒れていたから介抱していただけです」
なるほどー全力で介抱すると三十秒で復活するのかー等と言った生態調査記録なんてつけてませんから安心してください。
頭に熊のマークの冷却シートを付けた雪女さんは立ち上がると僕の事を睨んでいた。直後、沖から氷の柱が地面から生えるようにしてこっちへと襲いかかってくる。
「ふんっ」
雪女さんはそれに対抗するため右手を上げる。たったそれだけで似たような物…といっても、規模も鋭利さも劣ったものがそれにぶつかるだけだった。
「私は力はそんなに強くないんだ」
ぐっと手を引かれてそのまま横に走りだす。
「人間と言えど助けてもらったことに変わりはない。どうやら今回だけは助けてやる」
かっこよく相手はそれだけ言うと僕の手を引きながら技を繰り出すのであった。多分、僕の身内に向かって…。




