第十六話:氷柱
第十六話
氷柱さんが僕を連れて里を歩く。雪女が襲ってくると言う事もなく、いたって平和だった……。
「あのー氷柱さん?」
「何だ」
「なんで僕の腰に縄を結んでいるんですか」
そういえば一時期迷子にならない様にする為の紐があったなー。あれはまるで子供が犬に見えたもんだ。
「一つは力の安定だな」
「力の安定?」
こっちを見て静かに首を動かす。目が光ったような気がした。
「私は豪雪みたいな馬鹿力ではない……よって、安定して力をもらうためにこうしたほうがいいんだ。今では陽太を通じて豪雪の雑な力が入ってくるからそれを抑えるためにも出来るだけ陽太と近づいておかないといけないからな」
「ふーん、そうなんですか」
つまり、安定装置ということか……氷柱さんの体の一部みたいなものか。
「ああ、そうだ。そしてもう一つが陽太を通じての力の放出だ」
「力の放出?」
同じように首をかしげるとまたもや頷かれる。
「私は豪雪ほど力が強くはない。正確に言うなら要領だな。空気中から言わばエネルギーをためられないから使う時に必要な分だけしか取りこめないんだ。だから、その場の少ない力でここまでやってきた」
いつもは静かなイメージなのに凄い速さで口が動かされている。
「その代わり、こんな風に…」
そういってちょっとした氷の破片をあっというまにネジにしてこっちに投げてきた。
「装飾までされてる………」
氷のネジには綺麗な草の紋様が刻まれている。
「虫眼鏡で見ると『陽太へ』って書いてあるんだがな。ちょっとやそっとじゃ溶けない物だからお守りとして持ってもらっていて構わないぞ」
「ありがとうございます……でも、凄いですね」
太陽に透かすと光ってきれいなものだった。淡く点滅しているのは雪女が作った物だからだろうか。
「まぁ、私にとってはこのくらい朝飯前だ」
「豪雪もこんなの作れるんですかね?」
「豪雪はここまでは出来ないだろうな」
ちょっとだけ自慢そうに胸をそらしている。
「うーん、氷柱さんってやっぱり凄いんですね」
「得意分野だ」
確かに豪雪がこれを作ったと言ったら信じなかっただろう。
「それと力の放出がどう関係しているんですか?」
「そうだな……寸分たがわぬネジがもう一本出来ると言えば納得してくれるか?」
「つまり効率が良くなると?」
「ああ、その認識で構わない。あ、豪雪にこの事を教えては駄目だ」
「なんでですか?」
やっぱり豪雪の事が嫌いなんだろうなぁ…そう思っていると気の毒そうな顔をして言うのだった。
「豪雪じゃ出来ない芸当だ。私が出来て自分にできないと知ったら躍起になるだろう。そうなったら陽太に迷惑をかける」
「具体的に言うとどうなっちゃうんでしょう」
「……良くて陽太が雪だるま、悪くて砕け散る」
「なるほど…」
そこで何かを思い出したのかバツの悪そうな顔をされる。
「どうかしたんですか」
「…いや、思えば陽太にこの事を言っていなかった。悪い」
「大丈夫ですよ。氷柱さんなら大丈夫って信頼してますから」
色々省くと力の制御なら豪雪より氷柱さんのほうが得意なのだろう。
「そう言ってもらえると助かる」
「それで一体何をしているんですか」
「………母親を探してるんだ。私はこの試験が終われば陽太の前から消えるだろうからな。後腐れない様にそっけない態度をしていたのもそれが理由だ」
そっけない態度…素でこんな性格だと思っていたんだけど説明しているときみたいに本当はおしゃべりなのかもしれない。
「そうなんですか?」
「人間の生活に雪女は邪魔になるだろう?少なくとも他の雪女は…人間に迷惑をかけたがる奴はいない」
豪雪の事を全否定している。
「もし氷柱さんが僕とパートナーを解消したらまた倒れるんじゃないんですか?」
「それは…そうだが」
そうなんだ。
「じゃあ駄目ですよ。タイミング僕が通るわけじゃないですし。さすがに寝食を共にした人が行き倒れっていうのはちょっと…」
「迷惑がかかると言いたいのか?」
「はい」
迷惑はかからないだろう。でも、此処はそう言っておかなくてはいけない気がした。
「僕と今の関係を保っていれば倒れたりはしない…のは間違いないですよね」
「そうだ。雪女の試験の時の相棒…というのはおかしいか。心のよりどころ、力の増幅、安定…があるのは間違いない。私はまるで雪女が人間に寄生しているようでうれしくはないがな」
苦々しげにそう言う氷柱さんはもしかして豪雪を想像しているんじゃないかと思えた。
「そうですかね。僕は…そう思いませんよ」
え、嘘?あたしってば少しぐらい陽太に寄生してるって思ってたんだけど…そう思ってくれてるなら明日から全力出しちゃおうかなっ…なんて声が聞こえた気がした。あくまでそれは気のせい。
「豪雪と、氷柱さんに出会ってから色々知りましたから。少なくとも僕はそれだけの価値はあると思います」
「本当にそう思っているのか?豪雪と海辺で出会っていた時…下手したら陽太は死んでいたんだぞ?」
その時の犯人は間違いなく豪雪だ。やっちまったという表情が簡単に浮かぶのは何故だろう…。
「僕の事が心配ですか?」
「ああ、そうだ。あの時はそうでもなかったが一緒に生活していれば陽太の事が心配になるのは当然だろう」
「僕も同じですよ。氷柱さんがまた倒れたらと思うと心配です」
そう言うと明らかに動揺していた。
「い、いやしかしだな…」
「この話はここまでにしておきましょう。明日の試験、氷柱さんが無事に受かってくれたら続きをします。駄目だったらまた一年、一緒に勉強しましょうか」
あと一押しは氷柱さんが試験に合格しなくてはいけない。
ちょっとだけ気まずい雰囲気を保ったまま、彼女の家に帰るのだった。
前回と今回は別と考えてもらって構わないです。次回とさらに次の回で終了予定。事と場合によっては一気に終わる可能性もあります。またゆきじょの話を書く時もあるかもしれませんのでそのときはまたよろしくお願いします。このたびは小説『真夏のゆきじょ』を読んでいただき誠にありがとうございます。




