第十五話:豪雪
第十五話
明日は豪雪、そして氷柱さんの雪女になるための試験がある日だった。開始時刻は九時、公民館に一同会して試験を受ける順番を言いつけられる。実技と筆記、そして面接があるそうだ。
「面接まであるんだ」
氷柱さんは不安だと言う実技の為に特訓しに行った。一日で飛躍的に能力が上昇する物なのだろうか。
「うん、力、頭…精神?を見極めるとか何とかこうとか…」
いまいちわかっていないらしい。
「過去問とかは?」
「うーん、こればっかりは雪女というより個人的な問題を出してきたりするそうだから…全然参考にならないよ?」
たとえば『明日作ろうとしている料理は何か?そしてそれは誰に向けての物?』や『今世界に一人しかいないなら何をするのか?』、『紅白の旗を持っているならどうする?』というさっぱりわけのわからないものらしい。
「偏屈婆が決めるからねー…こればっかりはぶっつけ本番だから困っちゃう」
「だから精神的なものなんだね」
「そうそう、ま、氷柱の方は大丈夫としてあたしのほうは心配なんだけどなー…」
ちらっとこっちを見てきた。
「で、どうして欲しいの?」
「…えっと、これからその偏屈婆のところに行って陽太と一緒に試験を受けたい」
「いいの?」
「そこはほら、氷柱と共同で陽太を管理…うそうそ、嘘だからっ。そんな怖い顔しちゃいやんっ。あたしは心の底から陽太の事が好きだから」
「よく言うよ。僕の事を好きだ好きだとか言っている癖に本心じゃモノとして扱ってたなんて本当、ショック」
そういって拗ねた風にそっぽを向くと本気で慌てているようだった。
「ほ、本当に好きだよっ。氷柱に横取りされないかいつだって冷や冷やしてるんだからっ…」
氷柱さんはちょっと違うんだよね。口づけと言うより口移しされたけどそれでも女性として魅力的ってわけじゃないし。
「そういえばさ、僕の事一年ぐらい見ていたって言ってたじゃない?」
「……何の事でしょう」
「その事について教えてくれたら許してあげるよ」
「……」
「ぐっばい、豪雪。僕は今日から氷柱さんの犬になるよ」
立ちあがって部屋を出ようとすると豪雪が腰に抱きついてくる。
「ちょっとストーップ。言う、言うから犬になるとかマジやめてっ。みじめ過ぎるっ」
「じゃ、話を聞きましょう……ほら、離れてよ」
「やっ」
「くっ…」
涙を溜めて豪雪は上目遣い。くそ、卑怯だ。
仕方なくそのまま腰を下ろすと豪雪が膝の上に顎をのせてくる。
「この状態で行きたいと思います」
「……勝手にしてよ」
「え、嘘、じゃあ脱がす…嘘です」
「よろしい、それなら話をどうぞ」
あれは一年前の事でした…そんな前置きから豪雪の話は始まるのだった。
―――――――
「へー月子ちゃんお兄さんがいるんだ」
「うん」
学校の行事でスキーに来たと言う田原月子ちゃん。これだというパートナーを見つけてこれなかったあたしとしてはもうこの際女の子でもいいかなと思っていた。
協力を申し出てくれていた人間さんたちの中で細部を詰めていきたいのは誰でもそうだ。でも、そういってえり好みをしていられる期間に相性最悪のところでも実力はついていく。もちろん、採用何名枠といったものはなく、全員が合格、もしくは不合格もあり得るのだ。
別に今年落ちてもまた今度受ければいいと言う人もいる。その考えに陥って今年で七浪の知り合いがいるので間違った考えなのは明白だ。
「だからお兄ちゃんを生贄に捧げます」
「生贄って…」
「雪女さんが人間の女の子を相棒にしたらどうなるか知ってる?」
そう言われて首をかしげてしまった。別に禁止でも何でもなかった気がするんだけどどうだっただろう。
「わかんない」
「選抜された雪女チームによって大変な事になるんだって」
「大変な事?」
「釜ゆでの刑」
「かま…」
五右衛門かよと突っ込みを入れたくなるけど…事実なのだろうか。
「よかったね、豪ちゃん。うちのお兄ちゃんはいい感じで一人身だよ」
「そっか、それならまずは第一関門突破かな」
さすがに人間の女の子と張り合うほど自信はない。
「あとはあたしが気に居るかどうかなんだけど…」
人間の男性と会うときはお見合いっぽい状況で会わなくてはいけない、ぶっつけ本番当たって砕けろと言う雪女には程遠い信条…おかしなことにこれを誰も変とは思っていないようだ。
「それはあたしに任せて」
「なんで?」
「一か月前から期間が始まってるんでしょ?これからあたしの家においでよ」
「え、ちょっとそれは…」
「大丈夫、ちょうど隣の家の人が引っ越していないんだー。雪女だから勝手にすみついても大丈夫でしょ?」
「それはなんとか…」
こうしてあたしは月子ちゃんのお兄さんとやらの様子を見ることになったのだ。
―――――――
話を終えて豪雪は照れていた。
「もう、本当…何もかも見ちゃった」
「……」
まさか家族の中に内通者がいたとは思わなかった。
「な、何もかもってどういう事…」
「えーっと、四か月前ぐらいにラブレターを握りしめて間違えて男子生徒の靴箱の中に…」
「ヴぁーっ……こほん、他には?」
「お風呂入っているところとか、トイレに入るところとか」
「……」
ストーカーより性質が悪いじゃないか。今更ながら自分の生き方がまっとうなものだったか確認しなくてはいけない。もっとも、間違いを見つけてきても今更訂正なんて出来ないのが口惜しい。
「でもさ、やっぱりあたし達って相性良くない?」
しんみりとした口調でそう言ってくれる豪雪はどことなく可愛かった。あくまでどことなく、雨でぬれてこっちを見てくる犬みたいな感じ。
「豪雪がそう思うんならそうなんじゃないの」
「もー、照れちゃって」
「照れてないよ」
しかし…豪雪は試験の為に何もしてないけど大丈夫なんだろうか。これで受かりませんでした―とか言われたら僕が泣きそうだ。ここまで連れて来られて危険な目に遭ってるし……。




