第十三話:里観光
第十三話
こっちにやってきての金曜日。もう雪女の試験も間近だ。
「昨日は一日ミイラ男だったね」
やらしいちょっかい出しっぱなしだった豪雪を牽制しつつどうにか復帰。我ながら頑丈な身体をしていると思う。まぁ、一体何が起きてミイラ男になっていたかはわからないけどね。ただわかることはあれだけ起こしてって言ったのにと呆れている豪雪と一度寝たら自分からしか起きれないというすまなそうな氷柱さんの事だけだった。
「陽太、今日は私が村を案内しよう」
「えーあたしもいくー」
「勝手にしろ」
氷柱さんが部屋から出ていったので当然追いかける。廊下を使って外に出るより、窓から出たほうが身の安全は保障されていると思ったりする。
「あ、庭にも罠があるから気を付けてね」
「…」
訂正、この家の敷地は危険地域指定が必要だ。気付けば御丁寧に『勝手に入るな』とか『トラップあり』という立て札も存在している。
嫌な思い出にはふたをして、今は楽しい村観光をしたい。
「改めてみるとやっぱり田舎だね」
雪が降っているわけでもなく、何か妖怪っぽい何かが歩きまわっているわけでもない。
「陽太の家の近辺も結構田舎だと思うけどな」
「ここは電柱すら立ってないよ。さすがに一緒にしないでよ」
まぁ、電柱立ってたら外と関係性持ってるって確定だろうからなぁ。外界と隔絶されているのだろう、妖怪の里だから。
「電柱はほら、地下に埋めてあるんだよ」
「え、マジですか」
「ああ、外観を損ねる…とかいう理由で村長が去年電柱地中化計画を実施した。反対派と闘って勝ち取ったんだぞ」
「…」
あれ、雪女って落ちついていて物腰も柔らかそうなのに(いや、思えば豪雪を知った時からありえない話ではないか)そんな危険な事もするのか。
「…ん?じゃあ雪女の里って普通に人間と関係性持ってるの?」
「ああ、そりゃそうだ」
「じゃあなんで雪女ってばれてないんだろ」
「ぷっ、陽太アホすぎ」
それまで黙っていた豪雪が僕を見て笑っている。イライラするのは豪雪の表情が酷いからだ。
「私は雪女ですぅ、凄いんですぅとか言い触れてもああ、夏だなーとしか思われないよ。もしくは病院連れて行かれるね」
「ま、そう言う事だ。人間がそんな簡単に非科学的な事を認めるわけもないだろう」
「…まぁそうかな」
「忍者がいるくらいだからね、町会議員に紛れ込むのも無理じゃないんだよ…っと、お客さんだ」
畦道を歩いていた僕たちの前に雪女が現れた。
「私達に何か用か?」
僕をかばうようにして氷柱さんが一歩出る。
「そっちの男の子渡してくれない?」
「いやいや、それは無理」
氷柱さんに張りあうようにして豪雪は二歩前に出ていた。
「あんたみたいな馬鹿力が結界の外に出るなんて信じられないのよっ」
「ま、何とでもいいなさいな」
余裕綽々の豪雪は僕にべったりとくっついてくる。
「ちょっと、豪雪」
「いいじゃん、いっつもこうしてたでしょ」
「いや、そうだけどさ…」
それもお酒を飲んでいるときだけである。いつもこんな事はしていない。
「んぎぎ…ふんっ、いいわ。どうせあんたその男にだまされてこっぴどく振られるんだからっ」
「陽太はそんなことしないもーん」
「どうかしら。似たような旦那を刺して戻ってきた凛ちゃんちのお母さんの事忘れたの?」
「そりゃあ浮気したから仕方ないんじゃない?」
それはそうだ、男が浮気したのなら刺されても仕方がない……満場一致で確認される。
「愚図愚図していると日が暮れる」
氷柱さんが歩きだし、豪雪も僕の手を引いてあるきだす。
「さ、陽太行こっ」
「え、ああ…うん」
「だから待ちなさいってば」
なおも立ちふさがろうとする雪女さんの肩に手を置き、豪雪は笑った。
「陽太と会ったその瞬間、『あ、あたしにはこの人しかいないっ』ってそう思ったの。生まれて初めてだった。それから気持ちを確認するために陽太には内緒でずーっと陽太の事を見てた。それで、あたしの気持ちは一時の物じゃないってしったの」
「……あ、あっそう。ふんっ」
それだけ言って雪女さんは去って行った。
「豪雪…」
「何、陽太?」
頬を染めつつ豪雪は僕の方を見てくる。
「さすがにストーカーは犯罪だと思うんだ。それで、いつから見てたの?」
「…い、一年ぐらいかな」
「氷柱さん、雪女ってそういうのが多いんですか」
「さぁな、こいつが変態なだけだろう」
「……」
「あ、ちょ、変態はさすがに無いんじゃない?いや、でも変態って呼ばれたほうがもうなりふり構わないでいけるかも」
一人考え込む豪雪を置いて僕と氷柱さんは試験会場となる公民館へと向かうのであった




