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第十話:ゆきじょの里へようこそ

第十話

 夏休みも残り半分、宿題はもうほとんど終わらせている為残りを謳歌する事が出来る。

「え、雪女の里?」

 しかぁし、夏休みをエンジョイしようとしていた僕の前に新たな敵が立ちはだかった。

「今度の日曜試験があるんだ~…だから陽太にも来てもらわないと困っちゃう」

 えへっと言われても中指立てて『お断りだっ』と宣言したい。

「あ、断ってもあたしは別にかまわないけどね。来年までずっと居させてもらうから」

「……は」

「だって試験は基本的に夏にあるんだもん。陽太とはペアだし、氷柱との影響も見ておかないと陽太も嫌でしょ?」

 朝起きたら氷像になってもいいのと聞かれたらそりゃノーである。

「あたしとしてはね、試験の結果が駄目で…落ち込んでいるあたしを約束通り陽太が優しく包み込んでくれればそれはそれでいいかなー…なんて」

「氷柱さんが落ちると駄目だからね、うん、僕はあくまで氷柱さんが目的を完遂するためについて行くだけだから」

「……ま、そう言う事にしておいてあげましょう」

 いつもだったらぶーたれそうな豪雪も僕がくだらない約束をしている為にへこみもしない。約束なんざ軽々しくするものじゃないと改めて考えて立ち上がる。

「それで、いつからその雪女の里に行くの」

「んーと、今日。今から」

 氷柱が準備してくれているらしい。

「急だね」

「まーね、里の方にも色々と都合があるから」

 気付けば豪雪の近くにはまとめられた荷物があった。

「でね、悪いんだけど場所知られちゃまずいから目をつぶってくれない?」

「…わかったよ」

 素直に目を閉じる。

 ふと、何やら気配を感じて前を見ると唇を突き出して豪雪が迫っていた。

「ん~…」

「…あの、豪雪?」

「あ、あはは…ちょっとした冗談です」

 親指立てられても…

「今度はちゃんとするからっ」

「…頼むよ」

 同じボケは二度もしないだろう。豪雪を信じて目を閉じる。

「…ごめんね」

「うぐぉっ」

 腹部に恐ろしい一撃。改めて妖怪の凄さと人間との力の差を知った僕は気絶させられたのでした。

「あ、あれは噂の三途の川…まさかこの目で拝む日が来ようとは…おお、あれは親より先に子供が死んだら連れて行かれると言う賽ノ河原……惜しむらくはカメラを持って来なかった事かな…豪雪知ったら驚くぞー何せ『地獄なんてない』って言いきってたからなぁ」

 川の向こうから『入場料魂一個』と書かれた札をもつサンドイッチマンの鬼がやってくる。

「ようこそ入口へ。はいれば閻魔さまが天国と地獄に分けてくれるぞ」

「わーい」

 雪女の里に行くつもりがそれよりも圧倒的に非現実的なところに連れてこられるとは思いもしなかった。

 自然と船に片足乗せようとしたところで誰かに足を掴まれる。

「これが噂の『待っていかないで』ってやつかぁ。いや、今日は本当に貴重な体験を…うっ……」

 腹部が急に痛くなる。何だろう、この痛みは……はらわた食いちぎって何かが出て来そうな感覚である。

「う、うあーっ」

 お腹から豪雪が出てきたところで目が覚めた。

「よかったぁ…」

「やりすぎたんだ。陽太大丈夫か?」

 腹部を摩ってくれている氷柱さんと涙を流す豪雪の二人。

「え?何が…というか、ここどこ」

 気付けば古風な民家が立ち並ぶ村の家の縁側に寝かせられている。夏と言うのに寒く、寒かったのは豪雪に膝枕されていたからかと思えば普通にしていても寒かった。

 首をかしげる僕を見て憐れむ氷柱さんと何やら慌てている豪雪。

「え、えっとね、あたしは豪雪。おーけー?」

「うん、豪雪でしょ」

「よかった記憶は無くなってないみたい。あ、でも無くしてもらった方がより仲良くなれるチャンスかも」

「何わけのわからない事言ってるのさ…それで、なんで僕はこんなところに居るの」

「それはだな…」

 氷柱さんに事細かに説明してもらい、ようやく自分の立場がわかってきた。

「つまり、試験があるから此処に連れて来られた…と」

「うん、そう」

 雪女の里なんてあるところにはあるんだな…と、どう言ったところか改めて見渡す。

「……年中雪が降ってるってわけじゃないんだ」

 ちょっとがっかりである。半そででは少し肌寒い程度で雪は見当たらない。

「毎日雪を振り積もらせるほど雪女も暇じゃないかぁ」

「そうだな、ここの連中はそういった事に時間を割くような奴じゃない」

 氷柱さんはそう言って豪雪を見ていた。

「お望みとあらばあたしが雪を降らせてあげようか」

「いや、別にいいや。ところで今度の日曜に試験があるんでしょ?それまで僕はどこにいればいいのさ」

 豪雪と氷柱さんは黙って足元を指差した。

「え?地下?」

「そういうボケ要らないから。ここ、あたしの家に居てね」

 勿論、寝る部屋はあたしの部屋だからと言われて何だか嫌な予感しかしなかった。


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